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閑章 その頃の弟子たち
閑話 その頃の弟子たち2《エピローグ》

 一通りやることが終わったので、リナは最後の報告にとラトゥール家へと向かった。


「……リナさん、ようこそ。お仕事の方は全て片付いたようですね」


 ラトゥール家入り口で迎えてくれたのはいつも通り、イザークである。

 地方都市で別れ、リナたちの方が先に出発したのだが一体いつの間に、どうやってここに着いたんだろうかという疑問を感じる。

 ただ、そんなことを考えるだけ無駄な人物なのは分かっているので、すぐにそんな疑問は忘れ、リナは言った。


「はい! 色々と全て丸く収まって……すっきり終わりました。イザークさんのお陰です」


 ドロテアとディーグは共に行商人をすることになり、そのことを二人の両親は円満に認めた。

 ドロテアの旅路にあった危険はすべて取り払い、そしてこれから先も安心して良い。

 もちろん、普通に旅をする際に存在する危険についてはその限りではないが、執念深く付け狙われるようなことはないというだけでもマシというものだ。

 いつかあの二人が自分たちの商会を作り、成功して欲しいとリナは切に願う。


「……いえいえ、私のお陰ではなく、リナさんの努力ですよ。それに、実際に依頼を受けてみて分かったのではないですか? リナさんは成長しておられます。順調にね」


 そう言われてみて、イザークはここ最近、リナが自分の実力に不安を感じていることを察していたらしいことに気づく。


「分かっていたんですか……すみません。周りがあんまりにも凄い人ばっかりなので、私なんてって思ってしまってて……」


「リナさんも結構なものだと思いますが、レントさんやロレーヌさんがいるとそう思ってしまう気持ちは分かります。ただ、あの二人についてはそもそもの研鑽が違いますからね。レントさんは十数年、自らを鍛え上げ続けてきたわけですし、ロレーヌさんにしても魔術などについて英才教育を受けた専門家です。リナさんが即座に並ぼうとしても難しいのはむしろ当然ですよ」


「言われてみればそうですよね……あんまりそういうこと考えてなくて。なんだか無意味に焦っていた気がします。実際に一人で依頼を受けてみて、少し前の自分と比べるとかなり戦えるようになったことに気づきましたし、周囲がよく見えるようになったとも思いました。それでも不十分なところはやっぱりたくさんあったと思いますけど……全然成長してないってわけじゃないんだなって」


「そう思えたなら、行って良かったということでいいですね?」


「もちろんです。ドロテアさんとも知り合えましたし。今後もたまには一人で依頼を受けてみようかなって。ライズくんとローラちゃんが普通に冒険者として活動できるだけの体調に戻れるまでは」

 

 二人はリナのパーティーメンバーな訳だが、未だ傷が癒えきっていない。

 とはいえ、もうそろそろ活動できそうだという予測は立っているので、本格的に三人でパーティーとして依頼を受けられる日も遠くないだろう。

 それまでにリナとしては自信をある程度確固たるものにしておきたかった。


「無茶は禁物ですが、その方がいいでしょうね……」


「はい……あ、そういえば、アマポーラさんなんですけど……」


「あぁ! そうでしたね……アマポーラ、こちらへ」


 イザークがそう言うと同時に、彼の隣に闇色の影が出現し、そしてすぐに人型を形作った。

 数秒の後、そこにはアマポーラが立っていた。


「イザークさま。こちらに」


 以前見たローブ姿ではなく、このラトゥール家の使用人の中でも女性が主に身につけているメイド服姿である。

 どうやら本格的にこの家に務め始めたらしい、とそれだけで分かった。

 加えて……。


「……今のは《分化》ですよね? もう出来るようになったのですか?」


 リナが驚いたのも無理はない。

 少なくとも、リナと相対したとき、彼女にはそれが出来なかった。

 出来ていたら、もっと苦戦していたに違いない。

 また、それが出来ないことが彼女が《はぐれ吸血鬼》である証明でもあった。

 それなのに。


「彼女は吸血鬼ヴァンパイアへと変わって長いですからね。基礎は出来ていた、ということです。それに色々と試行錯誤してきた為に飲み込みも良かった。このまま修行を続ければ、ここからどんどんと強くなっていくでしょう……ラトゥール家の使用人として、それは義務です」

 イザークが手放しに褒めてそう言ったが、言われたアマポーラの方は顔を若干青くしている。

 それを見て、リナは思う。


 ――とんでもない扱きを受けているんだろうな。


 と。


「アマポーラさん……頑張ってください」


 リナがそう言うと、アマポーラは青い顔のまま、しかししっかりと頷いて、


「ええ……」


 と言った。

 それから、リナはふと気になって尋ねる。


「そういえば、アマポーラさんはどうしてディーグさんの方を狙ったのですか? いえ、自分の居場所を確保するために、力ある人を支配しようとした、という目的は分かってるんですけど……ディーグさんを商会長にするつもりだったのなら、乗り気ではなかったドロテアさんの方を支配してしまった方が事は簡単に運んだのではないかと思って」


「……貴女、虫も殺さないような顔をして結構エグいこと考えるのね……」


 と呆れたように言うアマポーラだったが、自分がどのようにして倒されたかを思い出して、まぁ、当然か、と納得した顔をし、続けた。


「私たちの魅了による支配、というのは心に闇がある人間には高い効果を及ぼすけど、そうでない人には効き目が弱いのよ。ディーグには優れたお兄さんがいて、彼は元々かなりの劣等感を抱えていたの。そこを増幅してやれば……まぁ、簡単に支配が出来たのよ。でもドロテアちゃんの方は、そういうのが薄くて……」


 なるほど、と思う。

 ドロテアの方はリナと初めて会ったあたりはかなり猜疑心が強くなっていたと思うが、それも話していくうちにすぐに晴れたし、元々前向きでさっぱりした女性なのだろう。

 そういう人は支配しにくいと……ただ、イザークなら出来るのだろうが。

 やはりそのあたりは吸血鬼ヴァンパイアとしての地力の違いだろう。

 

「理由はそれだけですか?」


「……まぁ、ディーグには頑張って欲しいというのも少し、あったわ。彼、吸血鬼狩りヴァンパイア・ハンターから逃げ回っていた私を匿ってくれて、食事まで与えてくれたからね。そんな彼が願うことなら……手伝おうかなと思ったのだけど、今思えば、余計なお世話だったわね。やり方も良くなかったし……余裕がないと何事もうまく出来ないものだわ……」


 遠くを見つめながらそんなことを言うアマポーラ。

 彼女自身も色々と必死だったわけだ。

 

「これからはここで?」


「ええ、ラトゥール家の使用人として、生きていこうと思っているわ。主様には会えていないのだけど……」


「眠っていらっしゃいますからね。そのうち起きる……んですよね?」


 リナがイザークに尋ねれば、彼は頷いた。


「もちろんです。ただ、明日なのか一月後なのか十年後なのか百年後なのかはラウラ様のみぞ知るところですが」


 気が長すぎることだが、吸血鬼ヴァンパイアというのはそういうものか、と納得したリナだった。

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