ニセコにルイ・ヴィトン。グローバル資本と日本の「さまざまな現実」

Photo by Carl Court/Getty Images

北海道ニセコのパークハイアット ニセコ HANAZONOにルイ・ヴィトンが期間限定のポップアップストアをオープンしました。フランスのシャモニーやカナダのウィスラーなど、高級ウィンターリゾートにラグジュアリーブランドが期間限定でオープンする例は多く見られますが、日本では初めてのことだそうです。

パークハイアットニセコHANAZONOにはグリーンシーズンに滞在したことがあるのですが、スタッフが30カ国から集められており、ゲストも多国籍なのでホテル内ではほぼ英語で会話が交わされます。もちろん、日本語も通用します。

併設するレジデンスを含む建物もインテリアもサービスもすべてが日本の規格外です。デザインはオーストラリアのBAR Studioによるもので、施設の所有者は香港の不動産会社パシフィック・センチュリー・プレミアム・ディベロップメント。この海外資本がハイアット ホテル アンドリゾーツと運営受託契約を締結していることも相まって、「外国にいるみたい」な空気感が完璧以上に作られているのです。
北海道ニセコのパークハイアット ニセコ HANAZONOにオープンしたルイ・ヴィトンの期間限定ポップアップストア(C)LOUIS VUITTON

北海道ニセコのパークハイアット ニセコ HANAZONOにオープンしたルイ・ヴィトンの期間限定ポップアップストア(C)LOUIS VUITTON

このホテルの敷地内にルイ・ヴィトンが日本で初めてウィンターリゾートのポップアップ、というのはごく当然の流れと見えました。メゾンの巨大なモチーフをあしらったユルト(遊牧民のテント式住居)やゴンドラも羊蹄山を臨むゴージャスな風景のなかに違和感なく溶けこむでしょう。
 
一方、グローバル化が完成された感のあるニセコの次を狙う資本家も、「未開の」日本のウィンターリゾート開発に取り掛かっています。新潟県の妙高高原では、シンガポール政府系投資ファンドGICの日本支社代表を務めていたことのあるケイ・チャン氏が、数年間で14億ドル(約2080億円)を投じて整備する計画を立てていることが報じられています。

ケイ氏はGIC退職後に不動産投資ファンドのペイシャンス・キャピタル・グループを設立、円安を追い風に周辺の土地を着々と買い進めており、妙高高原周辺にはすでに350ヘクタールの土地を購入しています。さらに新潟・長野にまたがる斑尾高原スキー場も買収しました。もはや日本のウィンターリゾートの開発のほとんどがグローバル資本に委ねられているという勢いです。
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文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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「今の海外ブランドのようなやり方のビジネスは、あと5年続かないだろう」

2月に開催された「日本からラグジュアリーブランドを送り出す」というテーマのシンポジウムで、羽田未来総合研究所社長の大西洋さんが発されたこの言葉が強く印象に残っていました。

というのも、ほとんどの関係者がヨーロッパ型、すなわち「旧型ラグジュアリー」のビジネスモデルに囚われ、幻惑されている状況にあって、それを「5年続かない」と言い切ることは、先見性と勇気と確信が備わらないとできないことだからです。

しかも大西洋さんといえば2017年に三越・伊勢丹ホールディングス社長を退任されるまで「ミスター百貨店」と呼ばれ、日本の百貨店業界を牽引してきた方です。伊勢丹紳士営業部長時代の2003年にメンズ館を創り、日本でいち早くメトロセクシャルブームを生むなど、小売りビジネスを通してカルチャーを変えた功績もお持ちです。

現在は羽田未来総合研究所社長として、羽田空港のポテンシャルを活かしながら新たなビジネス創造に取り組んでいらっしゃいます。日本各地の伝統工芸を産業化し、発信することで地方創生を実現するというミッションを掲げるなかで、先見性と実行力をもって日本のラグジュアリーの未来に携わる一方、潜在的問題も知る人であろうと推測し、お話を伺ってきました。

羽田未来総合研究所社長の大西洋

羽田未来総合研究所社長の大西洋氏(c)羽田未来総合研究所

海外ブランドのようなやり方は、あと5年続かない

中野:今の海外ブランドのようなやり方のビジネスはあと5年続かない、とおっしゃった意味をもっと詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

大西:5年くらいするとそういう世界じゃなくなると見ています。シャネル、エルメスのような独立系のメゾンは残ると思いますが、全体的に何でもかんでもラグジュアリーブランドとして成り立ってしまう今の状況は続かないと思っています。

中野:そう思われる根拠は何でしょう?

大西:これまでのファッションの流れをみてきても、アップダウンがあります。アップし続けるものというのは「ない」というのが前提です。いちばん危険だなと思うのは、もともと洋服中心のブランドだったはずなのに、どんどん目先の利益を追求し、今では利益全体に洋服が占める割合が10%~20%しかないというブランドが多いこと。これはおかしい。ラグジュアリーとはそういうことじゃない。いずれ落ちてくるな、と思っているのが一つです。

中野:売りやすいバッグや小物や化粧品がメインになり、「ライフスタイル」を名目にチョコレートまで売るところが増えていますね。

大西:もう一つは、原価と上代のバランスが異常であること。だったら、日本の本当にえりすぐった素材で、高品質なものを作ったほうが価値あるものができると思う。今は「ラグジュアリーブランド」のお店が多すぎて、なにか新しいエリア開発をしたら、地球上どこへ行っても同じようなものができてしまいます。地方のスキー場の開発も進んでいますが、そこにもハイブランドの店舗が誘致されています。限られたマーケットのなかでどんどん同質化していく、これは続きません。
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文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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