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閑章 その頃の弟子たち
閑話 その頃の弟子たち2《十六》

 アフトグラス採取は順調に進んでいる。

 といっても、見渡せる空間に生えているすべてのアフトグラスを片っ端から毟っていく、というわけではなく、ある程度の間隔を開きつつ、取り過ぎにならないようにという配慮をしながらだ。

 なぜそのようにするのか、といえばリナにもそれは分かる。

 植物の採取依頼を受けるとき、配慮すべきことについてはレントからしっかり教えられている。

 貴重な植物や、その地域の植生のバランスを保つのに重要な植物というのはあるべくしてそこにあるのであって、絶滅させてしまっては色々と問題が出てくる。

 加えて、冒険者の稼ぎ、という部分でも、取り過ぎて次に同じ依頼が出たときにどこにもありませんでした、では話にならない。

 どこに生えているか、というポイントをいくつも知っておき、それぞれの場所で、採取したあとしばらくすれば元に戻るくらいの案配で採取しておくのが賢い冒険者である、と。

 ドロテアや子供たちがアフトグラスを採取する際に、その点について説明しておくべきか、と思ったが、


「……ドロテアお姉ちゃん、取り過ぎは駄目だからね!」


「そうそう、生えてこなくなっちゃうから!」


 と、子供たちの方がドロテアに忠告していた。

 それを聞きながら感心しているリナに、狩人のザインが気づいて、


「ガキも薬草採取の仕事くらいしますからね。そこでそういうことは学ぶんでさ。まぁ、覚えたての知識を人に教えたいってのもあるんでしょうが……」


 苦笑しながらそう言った。

 確かに子供たちはどこか自慢げにドロテアに教えている。

 ドロテアもその感じは分かっているようだが、あえてやる気を削ぐこともないと理解して、


「そうね、知らなかったわ。ありがとうね」


 と言って子供たちの頭を撫でてている。


「……やっぱりしっかりと自分の足で生きてる人は子供でも凄いですね。私、そういうことは冒険者になってもしばらく知りませんでしたよ」


 リナがザインにそう言うと彼は意外そうな顔でリナを見て、


「そうなんですかい? ここに来るまでに俺はむしろあんたに感心してましたよ」


 と言ったので、リナが首を傾げるとザインは続けた。


「いや……森の歩き方を知ってるようでしたからね。足音の殺し方、樹木の根が多くあるところを疲れずに歩くコツ、喉が渇いたときや少し腹が減ったときに利用できる植物の知識とか……。たまに冒険者の人は来ますが、あんたほど分かってる奴は少ない。まぁマルトの冒険者はそれでも結構色々丁寧なんですが……あんたについては特にね。今日からでも狩人に転職できますぜ」


 手放しで褒められてリナは少し照れる。

 加えて、ザインの言葉で少し気になって尋ねた。


「マルトの冒険者、ということは他の地域にいたことが?」


「ええ、若い頃はもっと西の方の村にいました。王都近くだったんで、王都の冒険者によく依頼をしてたんで接することも多かったんですが、あいつらはちょっとね。腕は立つのが多いんだが、俺たち森や山を生きる人間の生活ってやつを分かってねぇんだ。だから色々と苦労したことが多くて……」


 これは少し意外な話だった。

 リナは元は王都にいて、そこで冒険者をやるには実力が不足しているからとマルトにやってきた口だ。

 必然、王都の冒険者は強くて、何でも出来なければやっていけない存在なのだろうとどこかで思っていた。

 しかし、必ずしもそうではないらしい。

 強いのは確かなようだが、万能の存在というわけではなさそうだ。

 まぁ、リナとしてもほとんど王都の冒険者とは接することなくマルトに来てしまったので実情をあまり分かっていなかったところもある。

 まともにやれていれば固定パーティーを組んで……ということもあったかもしれないが、ほとんど誰にも必要とされずに都落ちしてきたのだからさもありなんという感じではある。

 ただ、マルトに来て得られたものは大きい。

 ここに来なければ、どこかでのたれ死んでいた可能性が高いからだ。

 予想外に魔物になってしまったが、それはそれだ。

 死ぬよりはずっといいし、この体は極めて便利である。

 今のところは問題は感じていない。

 いつかは人間に戻りたい気もするが、仮に戻れなかったところで仕方がないか、と諦められる程度ではある。

 

「まぁ、王都は都会ですからね。冒険者と言っても、その辺りの知識については希薄な人が多いのかもしれません」


 実際、王都で冒険者になろうとする人間はどこかの剣術道場の人間とか、《学院》の卒業生とか、いわゆるボンボンが少なくないだろう。

 リナ自身も貴族の子女であり、王都で冒険者になった時点での知識に、村人の生活、などというものはなかったのだから。


「そういうことなんでしょうねぇ。その点、マルトは辺境都市といっても田舎ですから。あんたほどじゃないにしても、それなりに分かってる奴がいる。依頼もしやすくて、ここでの生活は結構いいもんですよ」


 マルトの冒険者は村人から好評らしい。

 そこにはウルフが冒険者組合長ギルドマスターとして頑張っていることもあるだろうが、レントが昔から新人に色々教えてきたことも大きいだろう。

 ロレーヌにしろ、レントにしろ、なんだかいるだけで便利な存在なのだなとリナは深く思った。

 そんな感じでぼんやりと話し込みながら周囲を警戒していたリナだったが、ふと気になる気配があることに気づく。


「……うーん。やっぱり来ましたか……」


 そう呟くリナにザインが首を傾げたので、リナは言う。


「ちょっと魔物(・・)が近づいてきたみたいです。やっちゃってきますので、ここの見張りはザインさんに任せても大丈夫ですか?」


「えっ、本当ですかい……? 俺も行った方がいいんじゃ……」


 ザインはそう言うが、村の狩人に無理させることもない。

 そもそも、その必要はない。

 むしろ来られると色々と問題が発生する可能性もあったので、リナはザインに言う。


「いいえ。子供たちとドロテアさんを守る仕事の方が大事ですから。でも魔物は私の方が専門です。ですから、ザインさんはここでみんなを見守っていてください」


「……分かりましたぜ。必ず、みんなは俺が守りますんで」


「頼みましたよ」


 そして、リナはゆらりと歩き出す。

 感じた気配、その先に向かって。

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