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閑章 その頃の弟子たち
閑話 その頃の弟子たち2《五》

 鉄級冒険者。

 そう言われてドロテアはまず、驚く。

 というのはドロテアが依頼したのは行商の護衛であり、ある程度の実力が必要とされるものだからだ。

 この場合の実力、というのは腕っぷしそのもののこと。

 ドロテアが進む予定の行商ルートを考えると、銅級程度の腕前が必要なはずだ。

 冒険者組合(ギルド)に依頼するときにもその点をしっかり伝えてはいた。

 ただ、ここで少し思い出してみると……。

 あくまでそれくらいの実力がなければ不安だ、という話を伝え、そしてそれを受けた冒険者組合(ギルド)職員が善処する、と言っただけだ。

 女性冒険者を、という指定の方を優先してほしいとも言っており、そうなると必ずしも級の方は希望に沿えない可能性もあるとも言われた。

 そしてそれにドロテアは消極的にではあるが、同意した。

 つまり、適切な銅級女性冒険者がいなかったから、この少女が依頼を受けることになった、ということか。

 まぁ、それはそれで構わない。

 ただ、鉄級となると一人では流石に厳しいのではないか、と思う。

 しかし、冒険者組合(ギルド)もいかに適当な集団とは言え、依頼を遂行する能力が全くない者を寄越したりはしないだろう。

 ということは、中々の実力者ということなのだろうか?

 級と腕っぷしは必ずしも一致するわけではなく、確かに級が低くても強力な腕前の者はいる。

 あくまでも実績を上げ、試験を受けなければ級が上がることがないからだ。

 この少女もその類か?

 いや、でも流石に普通の少女にしか見えないが……。

 流石に断った方がいいか……。

 そういったドロテアの困惑がその瞳に浮かんでいたのだろう。

 少女は少し自嘲気味に、


「……あっ。すみません……私じゃ、不安ですよね? 分かります」


 と即座に言ってきた。

 自信なさげにそう言う少女――リナにドロテアは何故か怒りを感じる。

 というのは、別にリナ自身に腹が立ったわけではない。

 そうではなく、彼女に自分が重なったからだ。

 女だからと、実力も見ずに卑下され、疑われることが日常茶飯事な自分だ。

 そしてその商売相手に、こういう態度をいつも取っている、と急に自覚した。

 だから舐められるのだ、とも。

 そんなことは関係ないのに。

 大事なのは性別や年齢ではなく、何が出来るかだ。

 級だって、同じ。

 だからドロテアは言う。


「違うわ。思った以上に若くて華奢な女の子だから驚いたのよ。全く不安じゃないかと言えば、嘘になるかもしれないけど……冒険者組合(ギルド)も貴方なら私の依頼に応えられると思って寄越したのでしょう? ならいいのよ」


 イラつきが、口調に出てしまった。

 丁寧に喋らないで、ぶっきらぼうに強くそう言ってしまう。

 しかし、リナはそんなドロテアに笑顔を向けて、


「……私、華奢ですか? なんだか最近、いくらものを食べても肉がつかなくて……。筋肉をつけたいからすごく一杯食べるようにしてるんですけど」


 と、そっちじゃない、と言いたくなる方に返答する。

 

「……羨ましい体ね。私は……食べれば食べるほどつくわ……」


 ドロテアは半ば以上本気でそう答えた。

 仕事上、食事の時間が不安定だからか、少量の食べ物を食べただけでも結構、体につくのである。

 少ない食料でも旅が出来るから行商人としては悪くはないのだが、女性として考えると……。

 好きなものを好きなだけ食べて太らない体の方が欲しいというのが正直なところだった。

 リナは、


「そうなんですか? でも、こう……出るところ出てる感じで憧れます。私はどうやっても……未来も暗そうですし」


 言われてみると、リナの体は確かに貧弱であるのは否めなかった。

 しかし、まだ若いのだ。

 これから先どうなるかはまだ分からない。

 諦めたものでもなさそうだが……。

 そう言おうと思ったのだが、その点に触れる前に、リナは、


「あっ。話が逸れちゃいましたね。そうじゃなくって、私、旅の打ち合わせに来たんでした。ドロテアさん、今からでも大丈夫ですか?」


 と言ったので、ドロテアはその勢いに、


「え、ええ……」


 とつられるように頷き、同じテーブルにつくことになった。

 自信なさげなのか、マイペースなのか、よくわからない少女である。

 ただ、彼女と旅をするのは、少しだけ面白そうな気がした。

 そんな直感が作用してのことだった。


 ◆◇◆◇◆


「……と、大体そんな感じのルートを進む予定よ。出発は可能な限り早くしたいわ。貴女の方が大丈夫なら、明日にでも」


 ドロテアが考えている行商の旅の行程をすべて伝え終わったところでリナにそう尋ねた。

 すると、リナは少し考えてから、


「出発日は明日で構わないのですけど……ツート山付近は迂回した方がいいですよ。それと、ファガ街道ではなく、ラダー街道の方を進んだ方がいいと思います。他については問題ないです」


 と、ルート変更について提案してきた。

 これにドロテアは、行商のことも知らない素人が何を、と一瞬頭に血が上りかける。

 自分がいっぱしの冒険者であると主張したいがために、必要のない提案をしているのだろうと。

 しかし、改めてリナの表情を見ると、そういった妙な功名心は感じられず、むしろ至極冷静な顔をしていた。

 そのことにドロテアの頭に上りかけた血も引いていき、とりあえず、どんな意図なのか尋ねてみようという気になった。


「……どうして? どちらも最短ルートだし、今まで何度も通っているところなのに。貴女の提案通りに進むと、半日は余計に時間がかかってしまうわ」


 実際、それが事実だ。

 素人の意見を叩き潰したいために大げさに言っているわけではない。

 それにあまり時間がかかると、魔物や盗賊に襲われる危険が上がる。

 街道を進む時間は可能な限り短く。

 それが基本のはずだ。

 しかしリナはこれに驚くべき反論をする。


「昨日まではそうでした。でも、今日からは違います。まずツート山なのですけど、女面鳥(ハーピー)が営巣を開始したそうです。例年よりも一月ほど早いですが、今年は暖かいですからね。ある話です。で、今そこを通るとドロテアさんは女面鳥(ハーピー)の赤ちゃんの餌になってしまうので、通らない方がいいです。ファガ街道の方については途中、橋があるでしょう? あれが今、落ちてしまってるみたいで……。通ろうとしても結局戻る羽目になりますからお勧めしません。それでも私としては報酬が増えるのでどうしてもというなら進んでも構いませんが……」

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