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閑章 その頃の弟子たち
閑話 その頃の弟子たち2《二》

「……依頼、かぁ……」


 イザークに言われてみたものの、そこまで気が進まないリナであった。

 というのは別に依頼そのものが怖いとか、そういうことではまったくない。

 むしろ、最近は訓練ばかりだったのでたくさん依頼を受けて冒険者としての風を感じたい。

 そんな気持ちが強い。

 それでもなんとなく、うーん、という気持ちになってしまうのは、自分の実力があまり変わっていない、という感覚が強いからだ。

 リナのパーティーメンバーであるライズとローラがいればまだ違うのだが、あの二人はまだ療養中である。

 吸血鬼ヴァンパイアによってつけられた傷は、外傷はともかく精神まで及んでいるらしく、それを治癒するにはもうしばらくかかる、ということだった。

 ただ、それでも全く動かない、というのもよくなく、簡単な依頼には数日に一度、一緒に出ているのだがその程度だ。

 本格的な依頼を受ける、となると一人でやるか、誰かと一緒にということになるが……。


 冒険者組合ギルドに到着し、依頼掲示板の前に立つ。

 リナが受けられる依頼は、冒険者としての最低ランクである鉄級のものだけになる。

 ライズとローラがいればパーティーとして銅級を受けることも可能だ。

 あの二人はレントと共に銅級試験をくぐり抜けているのだから、当然である。

 しかしリナは……。

 まだ銅級を受ける功績点が貯まっておらず、もうしばらく頑張る必要がある。

 パーティーとはいえ銅級の依頼を受けているのだから試験くらい受けさせてくれてもいいだろう、とリナとしては思ってしまうが、そこのところは結構厳しいのが冒険者組合ギルドであった。

 ……いや、王都の鉄級たちは結構簡単に銅級試験を受けていたから、マルト限定なのかもしれない。

 だったら、王都に行けば自分も受けられるのだろうか、という気もしないでもないが、そうなると今度は受かるのかな、という不安が鎌首をもたげる。

 実際、今のところの自分の実力を高く評価することは自分自身にも出来ない、ということを考えると、昇格試験を受けられたとしても落ちるか……という結論に至った。

 やはり、地道に活動して自信を身につけるしかない。

 イザークも訓練の中で言っていた。


『リナさんはもっと自信を持っていいと思いますよ』


 と。

 これでも昔に比べれば自信は持っている方……だとは思うのだが、近くにいるのはいずれも実力者ばかりだ。

 戦闘や冒険者としての技能だけでなく、どんなことでもやらせればたいてい器用にこなすレント・ファイナ。

 魔術師としても学者としても一流のロレーヌ・ヴィヴィエ。

 本業はラトゥール家の使用人だと断言しながらもその戦闘技術はレントやロレーヌを軽く凌いでくるイザーク。

 眠ってすら底知れぬ存在感を放つラウラ・ラトゥール。

 小さな子供なのにすでに以前のリナよりも上手に魔術を使いこなし始めているアリゼ。

 

 ……誰と比べても自分などみそっかすではないのか?


 と一瞬思ってしまっても誰も責めないだろう。

 いや、さすがにその考えが後ろ向き過ぎるというのは自覚しているので、そこまで落ち込みはしないのだが、それでもこれ以上自信を持てと言われても、いやいや私なんてと……。


「……どの依頼にするか悩んでいるのかしら?」


 ふっと後ろから話しかけられて振り返る。

 そこに立っていたのは一人の成人女性だ。

 シェイラ・イバルス。

 この冒険者組合ギルドの職員であり、レントの秘密を知っている人。

 他にはこの冒険者組合ギルドでは冒険者組合長ギルドマスターであるウルフもだと聞いてはいるが、今のところ、その《秘密》について話したことはない。

 そういうタイミングもなかったし、場所も選ぶ話題だからだ。

 ただ、シェイラの方もリナがそうであること(・・・・・・・)については分かっているのだろう。

 気にかけて話しかけに来てくれたようだ。


「……シェイラさん。いえ……そういうわけじゃなくて」


「あら? そうなの。でもずいぶんと長い間ここに立っていたわよ。掲示板を見つめながら」


「それはちょっと考え事を……。ほら、レントさんとかロレーヌさんとかすごいじゃないですか。比べると私ってどうなのかなとか突然考えてしまって……」


 その言葉にシェイラはなるほどと頷く。


「たしかに最近のあの二人はすごいわね。そういえば、リナちゃんはあの二人に色々教えてもらったりもしているのよね」


 吸血鬼ヴァンパイアとその眷属、という特殊な関係が一番印象深いが、それ以外にも一応、師匠と弟子のような関係でもあるのは間違いない。

 そっちについてはシェイラにとっても少しばかり印象が薄かったようでそのような聞き方になったのだろう。

 でも忘れているわけではないのはさすがだ。

 こんな小さな話題など、冒険者組合職員は毎日何十何百と聞いているだろうに。

 そのいずれもをシェイラはその頭にたたき込んでいるのかもしれない。

 そんな関心が顔に出たのだろう。

 シェイラは首を傾げて、


「……私の顔に何かついてる?」


「いいえ……シェイラさんもあっち側(・・・・)の人なのかなって」


 シェイラはそれに目を見開き、慌てて首を横に振る。


「……いえいえいえ、私は普通の人よ! 一緒にされては困るわ! むしろリナちゃんの方が……あぁ、これは別に嫌とかそういうことじゃないからね」


 何が嫌、という話かと言えば吸血鬼ヴァンパイアに嫌悪感があるか、という話だ。

 シェイラにはない、と。

 レントがそうであると分かっても態度をほぼ変えなかった人だし、それはそうだろう。

 ただあくまで知り合いがそうだったから、というだけでもちろん野良の吸血鬼ヴァンパイアは好きじゃないだろうけど。

 ……考えてみると、ラウラやイザークはその野良の吸血鬼かな?

 シェイラは知っているのだろうか……?

 今度そのあたりをもう少しつっこんでレントさんに聞いてみよう、と思ったリナだった。


「私こそ普通の人……だと思います。最近、知り合いの人に稽古をつけてもらっているんですけど、あんまり強くなった気がしないし。ちゃんと頑張れているのかなって……。今日来たのも、その人に依頼を受けてみたらどうかって言われたからで」


 感じている悩み、焦りのようなものをシェイラに言うと、彼女は深く頷いて、


「……なるほどね。それでここでぼーっと……分かったわ。ちょっと待っててくれる?」


 そう言ってどこかに走っていった。

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