長田(猫舌)のblog

主にギターアンプの解析、回路図の採取と公開を行っております。 回路図の公開は自身で読み取った回路図に限っており、主に国産のアンプを対象にしています。修理やメンテナンスなどにご利用ください。ただし公開している回路図は無保証です。内容の正確性には万全の注意を払っておりますが、誤記入や誤解の可能性は免れません。本サイトで公開している回路図によって生じた事故や損害については一切責任を負いかねますのでご了承願います。 また、電子回路とくに真空管に関する高電圧回路を取り扱っています。電子回路の知識や経験がない方が同様の作業をすると感電により生命に危険を及ぼすことがあります。同様な作業を行って生じた事故・傷害に対して当方は一切責任を負いません。

カテゴリ: Guyatone

HP-300A はギターアンプに比べても、またオーディオアンプと比べても
独特な回路構成をしています。
ブルースハープをアンプリファイドで演奏する場合、ギターアンプを
使用して歪ませることが一般的です。なのでギターアンプと同様な
プリアンプ部を予想していたのですが、かなり特異な回路です。

入力から1段目と2段目の回路を見てみましょう。
preAmp_first&second
入力インピーダンスは 1MΩ。マイクの出力インピーダンスの大小に
かかわらず対応できます。

12AX7A のプレート抵抗が 33kΩ (1段目)と 39kΩ(2段目)と
通常に比べて低い値になっており、単一のゲインは低めに設定されています。

1段目と2段目のカソード抵抗 R40 2.2kΩ が共通になっており、
2段目からのフィードバックが1段目に加わっています。
また2段目にも GAIN スイッチを経由して交流フィードバックが
加わっており LOW の時にゲインが下がり、HIGH でフィードバックが
無効になってゲインが上がります。

また GAIN コントロールが2連 VR で1段目と2段目で連動しており、
音量や歪みの程度が大きく変化します。

ここで示した回路で特長的なのは VR1 の半固定抵抗と R17 の
直列回路の部分。単に1段目の負荷を大きくしているだけの回路。
これが何の意味を持つのか今のところわからないのですが、
過負荷をかけることにより歪みを生み出しているのかと思います。
セオリー通りの回路とは言えない部分です。

いずれにせよ、これまで解析した Guyatone のギターアンプには
ない回路構成です。このあたりが妹尾隆一郎氏が設計したという特徴が
出ているのかもしれません。

さて、キャビネットからシャーシを取り出し、分解してみましょう。

DSC01513A
シャーシは操作面と背面、底面の3面がコの字型の板金(鉄製)でできています。
操作面と背面は茶色の塗装がされています。
残りの一面(スピーカー側)はアルミ板で覆われており、
回路の四方を金属ケースで固めることでハムの侵入を防いでいます。

DSC01515B

ネジが上下それぞれ3点ずつ。これを外せば内部の回路を見ることができます。

DSC01518C

アルミ板にパワーアンプが取り付けられていました。EPK-406 基板。
パワーアンプ IC は uPC1188H(日電)。
80年代から90年代にかけてオーディオアンプでよく使われた IC です。
残念ながら製造終了品です。いろいろなサイトを探していますが入手難です。
これが壊れていたら修理不能ということになるかもしれません。

次に電源+プリアンプ基板を見てみましょう。
DSC01522D

EPK-407 基板。
大雑把に言って、右半分が電源部、左半分がプリアンプ部です。
プリアンプ部は真空管 12AX7A が使われているため、高電圧が加わっています。

写真では見づらいですが、高電圧が加わる部分の抵抗には酸化金属被膜
抵抗(1W)が使われています。たとえばプレート抵抗やカソード抵抗などにも。
カソード抵抗自体は大きな電圧・電流は加わらないのでカーボン被膜抵抗でも
性能的には充分なのですが。酸化金属被膜抵抗を使うことがこだわりなのかもしれません。
これまで見てきた70年代後半以降の Guyatone のアンプではカーボン被膜抵抗 (1/2W) を
使っていることが多く、これほど酸化金属被膜抵抗を使っている例はありません。
 
シャーシ背面の高さよりちょっとだけ小さな幅の基板にこれだけの
部品が収まっています。良く言えばコンパクト。でもメンテナンスが
しにくい構造です。
基板を取り外そうとすると基板を留めるネジ3点、ポット類、ジャック類の
ナットを外すだけでなく、基板の手前にあるGAIN, BRIGHT, EQUALIZER の
スライドスイッチ、INPUT ジャック、LINE OUT ジャックまで外さねば
なりません。つまり操作面のパネルについている部品をすべて外さない限り
EPK-407 基板のメンテナンスはできないということです。

DSC01526E


姉妹機 HP-200BT(上) と記念撮影。

DSC01505A


普段はアンプを入手したら分解して回路を見て回路図を採取し、
修理や部品の交換などのメンテナンスをします。
今回の HP-300A は回路図を採取したものの、部品の交換を
伴うことは行っていません。状態が極めて良く、差し迫っての
メンテナンスが必要ではない、という理由もあります。
HP-300A が特に入手難になっており、さらに技術情報が不足していることも
あり、オリジナルの状態を維持しておくことが重要と判断しました。
すでに製造から27年経過した個体なのでメンテナンスした方が良いの
ですが、演奏上の不具合が生じないうちはこのままにしておこうと思います。

とはいえ、例外的に部品の交換をした部分があります。ゴム足です。

DSC01506B

本体の保存状態は良かったのですが、ずっと同じ向きに置かれていた
ためかゴム足が劣化してひび割れていました。
オリジナルと同じものは入手できないのでホームセンターで
売っていた同等品で交換。高さが変わるので劣化したものだけでなく
4点すべて交換です。

DSC01499C

操作部パネル。
トーンコントロールのTREBLE, MIDDLE, BASS はセンタークリック付き。
12時の位置を0dB として±10dB の目盛がついています。
ツマミをこの位置に揃えるのを基準として音色を調整します。
このクラスのアンプ、それも半導体パワーアンプの機種には珍しい
PRESENCE も備わっています。
SEND-RETURN, LINE OUT も装備されており、多様な演奏シーンに
対応できる仕様になっています。


DSC01500D
背面。
バックパネルを外すと

DSC01507E
電源トランス、真空管2本、スピーカーが現れます。
スピーカーは 25cm 広帯域型 SP-2518  8Ω。
電源トランスは ETOM-130。
どちらも Guyatone のギターアンプでは使われていないものです。

DSC01510F

シールドカバーを取り去ると 12AX7A 2本が現れます。
オレンジ色で "FLIP"のロゴ 。Guyatone 製品ですねぇ。



私が入手した HP-300A はとても状態が良く、あまり使用されていない
と推測される個体でした。シリアル番号から 1994 年製造ということが
わかります。新発売と同時期に購入されたようです。

DSC01497A

両面印刷の「取扱説明書」1枚も添付されており、表には通常の取扱説明、
裏には妹尾隆一郎氏による「HP-300A セッティング例」が記載されています。

取扱説明書に記載されている「主な特長」と「仕様」を抜粋します。
---- ここから ----
■主な特長

■トップ・ハーピストとのプロジェクトにより開発された
 チューブアンプ。コシの強さはもちろん、音の喰いつきが
 良く、アタック音がダイレクトに伝わり、しかも、ハウリン
 グ対策も万全です。
■ゲイン・コントロールとゲイン切換えスイッチにより、低
 出力のマイクロフォンまで、どのようなマイクでも入力
 可能です。
■イコライザー切換えスイッチにより、柔らかいナチュラル
 な音色から、ギターアンプに近いタイトな音色まで、幅広
 いサウンド・コントロールが可能です。
■プリアンプに2本の真空管を使用。ナチュラルな歪みが得
 られます。

 (中略)

■仕様

■出力:最大50W/平均30W
■スピーカー:25cm 広帯域型×1
■コントロール:ゲイン、ボリューム、トレブル、バス、プレゼンス
■スイッチ:ゲイン切換え、ブライト切換え、イコライザー切換え
■ジャック:インプット、エフェクトループ(センド、リターン)、ラインアウト
■入力インピーダンス:1MΩ(ロー・インピーダンス、
           ハイ・インピーダンスどちらのマイクにも対応)
■消費電力:37W
■使用真空管:12AX7A ×2
■外形寸法:420(W)×360(H)×220(D) mm
■重量:10kg

---- ここまで ----

また、裏面の「HP-300A セッティング例」ではコントロールの使い方と
実際の設定例について詳しく書かれています。
「実際の体験によるセッティング例」として3種のマイク別設定例が
それぞれ2例ずつ紹介されています。

  a. シュアー 545SD
  b. 「グリーンバレット」、「ブルースブラスター」、「アスタティック」など  
  c. ハーピスト 15M (シェイカー)

ハーモニカアンプの場合ハーモニカだけでなくマイクが必要で、別途購入
しなければなりません。何を購入すべきか迷うところですがマイクの例が
記載されているのでマイク選択の良い指針になります。

「基本的なセッティング」の中で妹尾氏がアンプの開発に深く関わったことを
推測させる文章があるので引用します。
---- ここから ----

 トーン・コントロールの回路は真空管を使用し、ギターアンプのトーン・コン
トロールとは全く発想を変え、オーディオのトーン回路にかなり近い設計になっ
ていますので、基本設定からミドルを上げて行くと低音が増すように感じら
れると思います(ギターアンプとの違いが先ず、ここで見られることでしょう)。
しかし、ミドルを上げた状態で「EQUALIZER スイッチ」を右側「B」に切り換
えると、中域だけが上がったように聴こえてきます。つまり、トーン・コントロ
ールがギターアンプに近い感じになるというわけです。

---- ここまで ----



最初に個人的な話になりますが、私はハーモニカを演奏することはずっと
ありませんでした。音楽の楽しさを知ったのが当時ブームだった
フォークソングからということもあり、高校の頃はハーモニカホルダを
首にかけて弾き語りをしたことはあります。
1976年から 1979年にかけて、PLAYER 誌に連載されていた妹尾隆一郎氏の
「ハープ講座」(毎月1ページ)を楽しみにしていました。
どちらかと言えばブルースハープに関することよりも脱線した話題の方が
多く、またその内容が面白いのでそれを楽しみにしていた読者も多かったよう。
連載開始当時からではなく途中(1977年ころ)から読み始めたため、
譜面(テンホールの穴の番号がついている独自のもの)の読み方が
わからない。練習曲の譜面があってもモノにできないので上達するはずも
ないのですが、それでもベンドは”吸う”、”吹く”ともなんとか身につけました。

今回取り上げるのは、その妹尾隆一郎氏が開発に携わった"世界初の"
ハーモニカアンプ HP-300A です。
1994 年に発売され、ハーピスト達に支持されロングセラーになりました。
ただ(ブランドは残っているものの)Guyatone が倒産し製造が終了、
さらに2017年に妹尾氏も亡くなり、アンプに関する情報が皆無に
なってしまっています。
今でもこのアンプを探しているハーピストは多いようで、中古であっても
オークションで高額で取引されています。

Guyatone のアンプの回路図を採取するようになって、いつかは HP-300A も
回路図を採取して公開しようと思うようになりました。
特に妹尾氏の公認サイトによると
僕がプリアンプの簡単な設計図をその場で書いた
ということなので、どのような回路か非常に興味がありました。
妹尾氏が亡くなって4年が経とうとしています。このままだと
このアンプの技術的な側面は闇に葬られてしまいます。
発売から27年経過しています。現状では故障しても修理してくれる
工房を見つけるだけで苦労するはず。
少なくとも回路図を採取して公開することが重要と考えていました。

HP-300A を入手して回路図を採取したので前回の投稿で公開しました。
回路図があることで修理が容易になるので、修理を引き受けてくれる
アンプ工房が増えることを期待します。
アンプ内部の写真の提示や技術的な考察は次回以降の投稿で
行いたいと思います。

シャーシを取り出してみます。
DSC01746D

真空管は位相反転段の 12AX7 と 6L6GC x 2。
FLIP 2000, 3000 では GE の 6L6GC が使われていることが 1978 年の
カタログには記載されていました。この個体の 6L6GC も GE 製。
交換されてはいないようです。ただゲッターがずいぶん減っているよう。

ちょっとアングルを変えてみます。
DSC01750E

右のトランスは電源トランス ETPV-210。ブロックコンデンサ2個を挟んで
チョークコイル SCH-001、奥にあるのが出力トランス ETO05P33。
右側の 6L6GC に隠れるようにバイアス調整用ポットのつまみがあります。
奥まったところにあるのでバイアス調整をするときにちょっと不便です。
でも後にリリースされた FLIP 1500, FLIP 500 のように目に付くところに
配置するのも考えもの。ユーザーが安直に操作してしまいそうで。

さてシャーシの中身。
DSC01752F

やっぱり、宙吊りのリバーブ。メンテナンスの際には邪魔になるので
スプリングを外しておきます。

DSC01755G

電源基板が FLIP 2000 などのものと変わっています。EPK-142 基板。
相変わらず銅箔がある面に部品を搭載する独自の配置ですが、材質が
フェノールのようですし、基板に真空管ソケットを直接接続しています。
回路的には部品も構成も FLIP 2000 などの EPK-145 と同じです。

DSC01759H
 
リバーブは2スプリング。例によって振れ留めのスポンジが劣化して埃を
撒き散らしています。
リバーブの真下にブロックコンデンサ 100uF 315V が2本搭載されています。
ブロックコンデンサは交換するのですが、リバーブと干渉しないように
高さを抑えて搭載しなければなりません。ちょっと悩ましい。

プリアンプ基板は EPK-1000。FLIP 1000, FLIP 1500 でおなじみ。
大きな変化はないようです。
DSC01762J



FLIP 2000X は 1978 年秋に新製品として登場した機種で、FLIP 2000 と
並行して販売していました。 FLIP 2000 がフルチューブで ¥92,800, 
FLIP 2000X がハイブリッド(FET & 真空管) で ¥75,000。

1978 年7月の Guyatone のカタログ(VOL2)では FLIP シリーズの3機種
FLIP 1000, FLIP 2000, FLIP 3000 がラインナップされていますが、
このうち FLIP 1000 がプリアンプを FET で構成したハイブリッドアンプでした。
このカタログでは FLIP シリーズと半導体アンプの ZIP シリーズの2つの
シリーズが新しく登場しているのですが、どちらかというと ZIP シリーズに
力が入っているようにも見えます。もしかしたら「これからは半導体アンプだ」
という Guyatone の姿勢を示していたのかと思っています。
1970年代前半には国産メーカーがこぞって真空管製造を終了しているので
時代は半導体アンプになるのは仕方がないことだったのでしょう。

この後、FLIP 1000 から始まったハイブリッドアンプの流れは FLIP 2000X、
FLIP 1500, FLIP 500 と新しい機種が誕生し、1980 年代に FLIP 2000MKII, FLIP 1000MKII 
として昇華します。

同時期の FLIP 2000 と比較しながら見ていくことにします。
操作パネル。

DSC01737A

FLIP シリーズとしてオーソドックスな操作パネルです。GAIN, VOLUME, MASTER の
3ボリュームに HIGH, MID, LOW のイコライザ、Reverb の各コントロール。
FLIP 2000 にはあった HIGH, MID, LOW のブーストスイッチは無くなっています。
(FLIP 2000MKII で復活します。)
FLIP 2000X では POWER スイッチが前面に配置されており、Stand-by スイッチが
廃止されています。FLIP 2000 では前面に Stand-by, 背面パネルに POWER スイッチ
という組み合わせでした。

背面に POWER スイッチがありません。それ以外はほぼ同じ背面ジャックが並んでいます。

DSC01740B


サービスアウトレット、100V - 110V の交流電圧切り替え、3A のヒューズ、
SPEAKER(MAIN), EXT.SP, LINE OUT, HEAD PHONE, REVERB FOOT SW.
が並びます。

FLIP 2000 ならキャビネットの底にハモンド製(Accutronics)のリバーブが
あったのですが、FLIP 2000X にはありません。ということは例の。。。。


DSC01742C

スピーカーは12 インチ。型式 GSG-305044 が搭載されています。

回路図を採取すると部品をひとつずつ観察するので故障箇所を
見つけやすくなります。今回の GA-240 は特に故障箇所はないようでした。
ただ電解コンデンサやオイルコンデンサやソリッド抵抗は経年劣化して
いるので交換しました。

DSC01667E

オイルコンデンサはフィルムコンデンサ(630V)に交換、
ソリッド抵抗はカーボン皮膜抵抗(1/2W) に交換しました。
最近の1/2W 抵抗は小型になっており従来の 1/4W と同じ大きさ。
上の写真ではなんだか頼りなさそうですが、問題なくしっかりと
動作しています。

真空管は交換していません。

DSC01668F

半田面。
ブロックコンデンサは 47uF 350V x 2 と 22uF 350V の3本の電解コンデンサで
代替しました。

意外に苦戦したのがパイロットランプ。いわゆる「ムギ球」という豆電球が
使われていたのですが、断線してました。 LED が照明器具の主流に
なって久しいですが、その代わり豆電球の製造がのきなみ終了しているようで
入手できませんでした。(追記:のちに調べたらムギ球ではなくネオンランプでした)
仕方がないので、ヒーター用の AC 6.3V に赤色 LED を繋いでパイロット
ランプの代わりにしました。制限抵抗 1kΩを LED に直列に接続していますが、
ちょっと暗いですね。もう少し抵抗値を小さくするべきか。

DSC01670G

とりあえずメンテナンス完了。
入力ジャックも新品に取り替え、ハンドルも手持ち部品を使って再生。
ノブはチキンヘッドにして設定値を見易くしました。

正常に動作しております。
60年代ですねぇ。全く歪みませんが、ブライトなトーンが心地良いです。
リバーブもトレモロもしっかりと効いています。
はい。メンテナンス終了。

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