長田(猫舌)のblog

主にギターアンプの解析、回路図の採取と公開を行っております。 回路図の公開は自身で読み取った回路図に限っており、主に国産のアンプを対象にしています。修理やメンテナンスなどにご利用ください。ただし公開している回路図は無保証です。内容の正確性には万全の注意を払っておりますが、誤記入や誤解の可能性は免れません。本サイトで公開している回路図によって生じた事故や損害については一切責任を負いかねますのでご了承願います。 また、電子回路とくに真空管に関する高電圧回路を取り扱っています。電子回路の知識や経験がない方が同様の作業をすると感電により生命に危険を及ぼすことがあります。同様な作業を行って生じた事故・傷害に対して当方は一切責任を負いません。

カテゴリ: Fender Japan

Sidekick 10 Deluxe の回路で特筆すべき点はトーンコントロールです。

これまで Sidekick シリーズは Sidekick Tube 20, Sidekick Reverb 20 
の2機種を解析し、今回が3機種目ですが、それぞれトーンコントロールが
異なっています。
年代的にはこのうち最も新しい Sidekick Tube 20 は 12AX7 をプリアンプに
搭載しているということもあってか、伝統的な Fender Tone Stack を
採用しています。トーンコントロールに高電圧の直流が加わるので
回路的に冒険ができないという理由もあるでしょう。
SideKick Reverb 20 では Fender Tone Stack を変形させたトーン
コントロールを NFB に組み込んでコントロールのキレを改善して
います。

さて今回の Sidekick 10 Deluxe もトーンコントロールに特徴が
あります。
graphicEQ3

トーンコントロールが3バンド・グラフィックイコライザで
構成されています。

この定数で、

Bass 共振周波数  33 Hz、  Q = 0.5
Middle  共振周波数  330 Hz、 Q = 3.2

となっています。Treble だけは HPF になっていますが、
最も高い周波数帯だけは HPF にするという構成は
他のグラフィックイコライザでも採用されているものです。
(例、Guyatone FLIP3000)
Treble のカットオフ周波数は 2.3kHz に設定されています。

Bass の共振周波数 33 Hz というのは低すぎるようにも
思えますが、Q が 0.5 とブロードなため、比較的広い範囲での
低音のコントロールが可能なようです
Middle の共振周波数を 330 Hz に設定し、その± 50 Hz を
おもにカットまたはブーストするようになっています。

回路図を採取した Sidekick 10 Deluxe はすでにメンテナンスを
終え、問題なく動作しています。
実際に使ってみるとトーンコントロールのキレの良さが光ります。
グラフィックイコライザなので共振周波数帯域のブーストが
行われているわけで、特に Bass と Treble では Cカーブの
ポットを使用することによりブーストの範囲を大きくしている
ようです。
このトーンコントロールで多彩な音作りが可能で、弾いていて
楽しくなるアンプです。

1985年の Fender Japan のアンプカタログから
SIDEKICK 10 DELUXE の記述を抜粋します。

--- ここから ---
SK10D は、小型アンプの可能性を一歩すすめたリバーブユニット装
備の 10W ギターアンプ。コンパクトながらハードディストーションから
ナチュラルオーバードライブまで、スケール感あふれるサウンドキャラ
クターが魅力。充実したリアファンクションには充電回路付 DC12V
ソケットを装備。プラクテイスはもちろんライブまで完全にフォロー。
--- ここまで ---

10W クラスの機種として、 SIDEKICK 10, SIDEKICK 10 DELUXE,
SIDEKICK REVERB 10 の3機種が用意されていました。

SIDEKICK 10 と SIDEKICK 10 DELUXE の仕様も抜粋します。

--- ここから ---
SIDEKICK 10  ¥19,800
SIDEKICK 10 DELUXE  ¥24,000
●出力=10W(RMS) 20W(PEAK) ●スピーカー=8インチ(20センチ) X 1
●コントロール=VOLUME, MASTER, TREBLE, MIDDLE, BASS
●外形寸法・重量=345(W) X 321(H) X 190(D) mm 6.5kg ●消費電力
=25W ● ヘッドホン端子、ラインアウト装備 ● SK10D はリバーブ装備、その
他のスペックは SK10 と同様です。
--- ここまで ---

SIDEKICK REVERB 10 との違いは
「USA アキュトロにクス社製リバーブ装備」
と重量が 6.8kg になった点くらいのようです。

前面コントロール
DSC02461A
上記の仕様にREVERBノブが加わっています。
VOLUME と MASTER で歪みを作る仕様です。トーンコントロールは
特に変哲もないように見えますが...

背面。
DSC02463B

DSC02469D

12V バッテリーの接続コネクタがあります。別売りの AUTO POWER CORD 
を使えば自動車のDC12V 電源で動作でき、またこのコネクタから
12V の二次電池(別売)を充電して電源とすることもできるようです。
アウトドアで使うことを意識していますね。

スピーカーは Fender のマークが入っていますが、仕様がわかりません。 
DSC02465C

リバーブをキャビネット底部から外してみます。

DSC02534H
型式 SR-8802C 。
DSC02538J
2スプリングですね。
入力の直流抵抗(実測値)が 0.8 Ωと小さいので入力インピーダンスは
8 Ωかと推測します。
MicroJugg に搭載されているリバーブによく似ています。

シャーシ内部
DSC02470E

DSC02471F

パワーアンプに IC を使っており、コンパクトな基板構成です。

DSC02543L

パワーアンプ IC は東芝の TA7240AP。
本来は 5.8W のステレオアンプですが、BTL 出力にして単電源ながら
10W 出力を実現しています。
TA7240 はサトー電気に在庫あり。

Sidekick Reverb 20 の回路で特徴的なのはトーンコントロール。
てっきり Fender トーンスタックを使っているものと思っていましたが、
さにあらず! 意外でした。

該当する部分を抜粋します。
NFB tonestack

Fender トーンスタックが基本になっていますが、定数や
接続場所が変わった構成。さらにいちばん大きな違いは
IC1 を使った NFB トーンコントロールを構成していることです。
トーンコントロールにネガティブフィードバックをかける
ことによりフィルターのキレが鋭くなります。

試奏した感想では通常のトーンコントロールに比べて
各々のコントロールの変化が大きく感じます。
もちろん全てのポットが B カーブに変更されているので
当然変わるはずですが、その違いよりも大きいように感じます。

前回の宿題。リバーブユニットの詳細。

リバーブユニットの背面。

DSC01079A

Accutronics 製ですね。普通なら濃紺のインクで型式がスタンプされているの
ですが、消えています。意図的に消したのか、経年で消えたのかは
判断できません。うっすらと跡があるのですが、写真では判別できないほど。
目視ではやはり "8AB3C1B" のように見えます。最後の文字は"A" ではなさそうです。
最後の文字が "B" であれば "Horizontal Open Side Down" で Fender のリバーブの
多くがそうであるように、アンプキャビネットの底部に伏せた形で取り付けられる
ためのモデル。
このモデルのようにシャーシ底部にねじ止めされているような
"Horizontal Open Side Up" であるならば最後の文字は "A" であるはず、
というのが前回考えたことでした。でも最後の文字(消えてますが)は
"B" のように見えます。

リバーブユニットの中はこのようになっています。
DSC01082B

3スプリングの Type 8 ですね。
リバーブユニットがリバーブケースから4本のバネで吊られており、
この状態でも動作に支障がないように思えます。"8AB3C1B" でも特に
問題はないのでしょう。

アンプからの線をINPUT(右) と OUTPUT(左)の RCA ピンジャックの穴を通して
端子に直に半田付けしているのがわかります。半田付けが丁寧で後から付け替えた
形跡がないことから、この配線は仕様であったのだろうと推測します。

Fender Sidekick Reverb 20 は1983年に国内で発売されたモデル。
当時の定価で ¥36,000。出力20W のトランジスタアンプ。

以前公開した Sidekick Tube 20R は後発のモデルですが、
同じシリーズでの出力20W のモデルなので回路に共通点があるのでは
と当初は予想しておりました。
ところがすでに回路図を比較された方はお分かりかと思いますが、2つの機種は
基本的な回路構成から大きく異なっており、同一視しない方が良いと言えます。

回路の構成については改めて詳述したいと思いますが、
今回はアンプの内部を写真で示し、記録に残すことにします。

DSC01024A

前面操作部はとてもシンプル。
入力ジャックは一つのみ。チャネル切り替えもブライト等のスイッチも
ありません。
VOLUME, MASTER の2つのボリュームコントロールと
TREBLE, MIDDLE, BASS のトーン、REVERB の計7つのコントロール。
オーソドックスですね。

背面はこちら。
DSC01021B

これまたシンプルかつオーソドックス。
HEAD PHONES, LINE / RECORDING OUTPUT, REVERB PEDAL の
3つのジャックが並びます。

背面パネルを外してみます。
DSC01026C

Accutronics 製のリバーブユニットが見えます。この個体ではリバーブユニットの
型式が消えていたのですが、インクの跡がかすかにあって "8AB3C1B" と解釈しました。
そのため回路図にはそのように記入しておりますが、取り付け方向を考えると
"8AB3C1A" が正しいはずということに気がつきました。次回の投稿までに
再調査して確認します。

背面パネルを外してリバーブユニットが現れた時に「修理されてる?」と
思いました。リバーブユニットの RCA ジャックの穴を通して配線がユニット内部に
通されています。つまり通常使われるような RCA プラグとジャックでの接続では
ない、ということです。
ただ、配線のより方を見ると修理のために手が入ったという感じではなく、
工場出荷の段階からこのような配線にしていたとも考えられます。
このあたりも次回の投稿までにはっきりさせたいところです。

シャーシの内部、電源トランスと背面ジャック群の写真がこちら。
DSC01036D
電源トランスには "20N" と書かれているだけ。二次側に赤い線2本と
中点タップらしい黒線が1本。トランジスタアンプ用らしいシンプルな
構成です。

メイン基板と出力トランジスタ。
DSC01031E

シャーシの右側にスタンプがあり、 ”MAR 25 1985” の製造であることが
わかります。

出力回路はトランジスタによるディスクリート構成。プッシュプル方式で、
出力終段はダーリントン接続(Q8, Q9)によって構成されています。
放熱のため出力トランジスタとバイアス補正用トランジスタはシャーシに
取り付けられています。この写真ではわかりづらいかと思いますが、
左から2つのトランジスタはリバーブドライブ用のプッシュプル回路のもので、
右側の3つの固まりがスピーカードライブ用のものです。

リバーブユニットの入力インピーダンスが8Ω と小さいため、出力電流を
大きく取るためにリバーブのドライブ回路もプッシュプルにしなければ
ならなかったようです。

ちなみに Sidekick tube 20R では出力段はパワーアンプ IC uPC1225H による
差動出力で終段トランジスタをドライブするプッシュプル回路を採用しており、
回路構成が大きく異なります。

Fender Japan の 80年代のトランジスタアンプ Sidekick Reverb 20 の
回路図を採取したので公開いたします。

DSC01024A

回路図

20210325 初出
20210330 電源部:電源電圧測定値記入
20220402 プリアンプ部:機種名称訂正
20220402-1 プリアンプ部:Q12 接続修正

PNG:

プリアンプ Pre-Amplifier

電源+パワーアンプ Power Supply and Power Amplifier


PDF:


schematics SidekickReverb20.pdf

さて、これも回路図を採取するということで知人からの借り物。
Fender All Tube で FAT。1987 年の発売ではないかとのことですが、
知人も資料がなく断定できないそうです。
製造は ELK。 FS-41 だとか Vesser だとかだと、シャーシの底面に
製造年月を示すスタンプが押されていたりするのですが、
これにはありません。

背面パネルを外した状態がこちら。
DSC00490C
 6L6GC のシングル出力。
プリアンプ+ドライブに 12AX7 が 2本。
最初は Fender Champ と同じ回路かとタカをくくっていましたが、
ちょっと違うようです。 Champ だと 12AX7 x 1, 6V6 x 1 の構成。

DSC00498D
シャーシを開けてみます。至ってシンプルな構成になっています。
中央の茶色い基板が電源基板。大きなセメント抵抗 15Ω 10W が
ありますが、これはヘッドフォン使用時のダミー抵抗。

ポットやジャックで固定されているプリアンプ部の基板を取り外します。
DSC00503E
これまたシンプル。
基板中央付近にちょっと気になるものを発見。トランジスタ?

DSC00508F

Q1 2SK30A GR ですね。D5 に小信号ダイオードもあります。
「半導体つことるやんけ、All Tube やないやん。」
というのは早計。これらは SEND - RETURN の SEND の出力インピーダンスを
下げるためのバッファ回路。
スピーカーを鳴らすための信号は全く半導体を通っていません。
よって All Tube を名乗るのは間違いではありません。

ただこの 2SK30A のバッファ(ソースフォロワ)の電源がなかなか怪しい。
半導体用の電源は用意されていません。
6L6GC (カソードバイアス)のカソードから直流電圧(+20V)を
作るという大胆な回路構成。SEND で送る信号と言ってもせいぜい数 mA 程度
なのでこれでも充分なのでしょう。
この方法、どっかで見たことがあるなぁ、と記憶を辿ると
ありました。Fender Champ 12。
私はブランド違いの同じ製品 SUNN Tube Lead 12 を修理したことがありますが、
6L6GC のカソードから同様に リバーブ信号増幅用 JFET に電源が供給されて
いるのを見てめんくらったのを覚えています。

そういえば FAT1 も Champ 12 (1986) もほぼ同じ時期の製品です。
6L6GC のシングル出力、12AX7 x 2 というのも同じで、
ヘッドフォンの回路や固定のハムバランサなど似通っている部分があります。
Fender USA のアイデアが導入されたのでしょう。
ただ回路構成は明確に違うということは強調しておきます。   
 

Sidekick tube 20R です。
裏話ですが、先ほどまで "Sidekick 20R tube" としておりましたが
Sidekick tube 20R が正しい名称のようですので、回路図も含めて
変更を行いました。そのため回路上の変更は何もありませんが、
ver. 20200720 にアップデートしています。


DSC00014A

バックパネルを取り外した状態。
電源、スピーカー、リバーブの各ケーブルがきれいにまとめられています。
おそらくこれらのケーブルを外すようなこと、つまり修理や改造はされて
いないようです。
スピーカーは 10 インチ。TSK-20 というスタンプがあります。

真空管 12AX7 が2本。
オレンジ色で ”Fender SPECIAL DESIGN"のロゴがついています。
DSC00022B

裏側からみてみます。ちょっとわかりづらいですが、やはりオレンジ色で
7025 のプリントがあります。
うっすらと 12AX7A  USA の灰色の印刷もあります。おそらく RCA 製。
1984 年製の Fender Concert Amp についていたものと特徴が一致しました。
リベラ期ですねぇ。このあと 90 年代になると Fender 本社も中国製 12AX7 を
使うようになります。

シャーシの中をみてみます。

DSC00018C

DSC00021D

電源部、プリアンプ、パワーアンプが一枚の基板にまとめられています。
基板中心付近に uPC1225H が搭載されています。
終段トランジスタは 2SD313 と 2SB507 ですが、これらをドライブする
回路として uPC1225H が使われています。
電力増幅のこの部分を IC にしてしまうことで、終段トランジスタを
変えるだけで出力の違ういくつかのモデル(10W や 30W) に対応出来そう。
ただやはり uPC1225H。これが入手難。壊れたら先はなさそう。

回路を読みながら思ったのは、uPC1225H が壊れたら、Send - Reurn ジャック
を付けて真空管プリアンプとして使うという手もありそうです。

次にリバーブユニット。
DSC00027E

Fender のロゴが入ったリバーブユニット。
input ジャックには赤いマークが付けていますが、これは私が付けたもの。
INPUT や OUTPUT が何に対しての入出力なのかがリバーブでは
わかりづらいことがあります。とりあえず入手した時点で赤い RCA プラグが
付いている側に赤マークをつけることにしています。

DSC00029E

中身は2スプリングのユニットが格納されていました。

最初に試奏したときに「あれ?」と思ったのは LEAD に切り替えた時に
リバーブが効かなかったこと。とりあえず、症状としてメモしていたのですが、
回路を読み取っていくうちに、それが仕様であることがわかりました。
LEAD の時もリバーブを効かせたければ改造が必要です。
それほど難しくはないとは思いますが、このままにしておきます。

 

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