オールディーズ・フレーバーの強い「Doo-Wop! Tonight」「涙のチャペル」(但し同名異曲のオリジナル)に続くSMS移籍シングル第三弾「涙のグラジュエーション・デイ」は主人公のドライすぎる性格設定が内田さんの逆鱗に触れてステージではほとんど歌われなかったため、第四弾には井上大輔の作曲で再びオールディーズ・テイストの「エンドレス・サマー」(B面は「ダンシング・ムーンライト」)が作られた。その新曲を同時発売として企画されたこのアルバムは、渋谷のライブハウスTAKE OFF 7を擁するKOX RADIOの全面協力を得て、Mark Haganとキャロル久末を起用した仮想DJ番組として制作された。そして編曲・多羅尾伴内/プロデュース・大瀧詠一クレジットの「ラストダンスはヘイ・ジュード」が収録された話題アルバムとして'81年9月30日に発売されることになる。しかもザ・ファビュラス・キングトーンズというかつてない名義を使い、シュープリームス路線で当時ライブハウスに出演していたデビュー間もないスクーターズをゲスト収録するなど、レコードに針を下ろす前から期待を高める仕掛けたっぷりでの発売だった。 収録曲に目を通すと、SMS移籍第一弾シングルの「Doo-Wop! Tonight」、英語ヴァージョンの「グッド・ナイト・ベイビー」(ライブ盤「インディペンデンス・デー」初回特典シートレコードが初出。ディスコ・ヴァージョンや、後にライブハウスなどで歌われた英語ヴァージョンとは歌詞が異なる)、セカンドテナー成田さんのヴォーカルが映える新録音アカペラ「カム・ゴー・ウィズ・ミー」に前掲新作2曲、そして本アルバム発売の二ヶ月後にシングルカットされる「ラストダンスは〜」それにゲスト1曲、残る半分近くは前記ライブ音源(但し「オンリー・ユー」と「アンチェインド・メロディー」は前年秋に発表されたSMSレーベルの「THE BEST」企画の一枚「The Best Of The Kingtones 涙のチャペル」のために仕上げ直されたテイク)で構成されているが、キングトーンズによるジングルあり、内田さんとオジイちゃん(加生さん)による結成にまつわるコメントあり、前年暮れにサプライズゲストとして出場したニューヨーク・ロイヤル・ドゥー・ワップ・ショーの熱気が伝わるプライベート録音あり(“ザ・ファビュラス・キングトーンズ”のクレジットも、このステージの紹介MCに因んでの命名だろう)と、思わず夢中で聴き通してしまう密度の濃い内容となっている。なお「ラストダンスは〜」に関しては、『レコード・コレクターズ』誌本年9月号で成田さんが語られているライブでの苦心談が実に興味深い。読むほどに、内田さんと石井さんのツインボーカルでの再現が容易ならざるものであり、敬遠したくなるほどの難曲だったことが窺える。 このアルバムが初めてCDリリースされたのはバンダイミュージックレーベルでの'97年8月21日。'80年秋に発表された前記ベストアルバムとの同時リリースだった。「ザ・ベスト・オブ〜」は2001年にボーナストラック8曲を追加してWATANAMEレーベルから「ザ・キングトーンズ/ベスト・セレクション」として再発されている(WMP-10028)が、このアルバムは再発されないまま15年以上経過したままだった。そして今回、ザ・キングトーンズSMSイヤーズという企画でようやく三度目の商品化が実現した。今回はシングル曲やそのカラオケなどもボーナストラックとして収録した上での再リリースだが、オールディーズ・ファンやFENを聞いて育った世代にこそ、ぜひ聞いていただきたい。すでにキングトーンズに興味を持っていた方々の大半は'97年に購入していることだろうから、今回の再発盤はボーナストラックに魅力を感じるかどうか次第だろうが、結局は本盤を含む3枚全て購入してしまうはず…いや、キントンのファンとはそういう人たちなのだ(笑)。 キングトーンズの作品のCDリリース、残るは「コンプリートコレクション」と銘打ちながら、「さよなら友達」の別歌詞バージョンや「あなたのメロディー」オリジナル曲、エメロンクリームリンスCMソング「もううしろ姿」、さらには世良譲とのセッションや名画「シェーン」主題歌など数多くセレクト漏れが残っているポリドール・イヤーズと、東芝EMI「一度だけのディスコ」AB面、メンバーチェンジ後に大門俊輔氏(バーボンレーベルでザ・ヴィーナスを世に出したプロデューサー)が立ち上げたインディーズレーベルに残したシングル盤といったところか。残念だが、メジャーデビュー前にソノシートで発売されたクリスマスナンバーは無理だろうと諦めている。すでに存在しない出版社ともなれば、マスターテープが現存している可能はゼロに近いだろう。むしろ、CDリリースされていないシングル盤などの音源とともに、'80年代後半にレコーディングされた「ハウス・ジャワカレー」や「新V・ロート」、さらには'75年オンエアの「もううしろ姿」CM用ご当地歌詞テイクなど、まだまだ発掘されていない音源にも、いつの日にか光を当ててほしいものだ。 2014年10月16日追記 10月16日アップされた Real Sound なるサイトのコラム“栗本斉の「温故知新 聴き倒しの旅」”で本アルバムを取り上げているが、その中で「1981年に発表された『Doo-Wop! STATION』は、なんと大瀧詠一がプロデュースを担当しています」とある記述は完全な事実誤認である。既述の通り、大瀧は「Doo-Wop! Tonight」(およびB面の「In The Still Of The Night(夜の静寂に)」と「ラストダンスはヘイ・ジュード」の制作に関わっているに過ぎない。本アルバムは、ジャケット裏面に「Produce:Toshihiko“Coconuts”Harasawa(J&K)」としっかりクレジットされている通り、小澤音楽事務所の傘下にある音楽出版社ジュン&ケイのプロデューサー(当時)原沢智彦(としひこ)氏のプロデュース作品であり、キントンが小澤事務所を円満退社し、「株式会社R&Bステーション」を立ち上げたことへの独立祝という意味合いを込めて制作されたとも言える。せっかくコラムに取り上げるならば、もう少し丁寧にリサーチしてほしかったところだ。