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第14章 塔と学院
第468話 塔と学院、連絡

 ――パタパタパタッ!


 という音が窓の外でした。

 どうしたのかと思ってそちらに目をやると、そこには鳩がいた。

 よく見ると、足に何かが結ばれていて……。


「……それは《ゴブリン》からの連絡用の鳩じゃ。窓を開けて、入れてやってくれんか」


 老人がそう言った。

 俺達に確認をしたのは、それによって何らかの危害を加えられる可能性があるからとそれを断るという選択肢があるからだろう。

 特殊な用紙に魔法陣を刻み、開くと同時に何からの魔術が発動するような細工というのもあるからな。

 そういうものを大量に作れれば、かなり効果的な攻撃が出来るだろうが、様々なコストを考えるとあまり実用的ではない。

 一番高いのは鳩だろうな。

 目的の場所まで飛んでいくように調教するのは時間も金も意外なほどにかかるのだった。

 それを一瞬で消費するのは、効率的ではない。


 俺達はそんな鳩を見、とりあえずロレーヌに視線を向けた。

 彼女の持つ魔眼により、鳩にそのような細工がないか確認して貰うためだ。

 そういった魔法陣の描かれた紙、というのは一種の魔道具であり、開くと同時に発動しなければならない関係で、すでに魔力が込められて、稼働しているのが普通だ。

 したがって、見る人が見れば分かる、というのも兵器としてあまり普及しない理由かもしれない。

 ロレーヌは少し注視し、それからうなずいて、


「……問題ないだろう」


 と言ったので、俺が窓を開くと、鳩はバサバサと中に入ってきて、《セイレーン》の頭の上に陣取った。


「……邪魔よ」


 と言う《セイレーン》だが振り払おうとはしないあたり、動物に対する優しさは持っているのかもしれない。

 そんな彼女のところに老人が近づく。

 それから俺達に、


「ほれ、動物に好かれると話しておったじゃろ? こういうことじゃな」


 といいながら、鳩の足から、結ばれた紙を取り外す。

 そして手紙を開き、俺達に見せた。

 残念ながら完全に暗号で、読めない。

 とりあえず老人に読んで貰うことにする。 

 その間、老人が言及した《セイレーン》の能力の話になった……。


「それにしても面白いな……。その鳩、一目散に《セイレーン》のところに飛んでいったもんな。楽しそうだ」


 俺が何となくそう言うと、《セイレーン》は、


「一匹くらいならかわいいもんだけどね……何百匹も鳥がいるところに行ってみなさい。殺される気がするわよ」


 とげんなりとした顔で言う。

 確かに《セイレーン》が言ったような場面を想像してみると……怖い。

 そもそも、鳥は……特に野生のものは意外なほどに汚いからな。

 糞だってそれだけいればボタボタ落ちてくるだろう。

 嫌すぎる。


「だが……森にいても問題なかったんだろ?」


 ついこないだのことである。

 特にどこかに鳥や動物が死ぬほど集まっている、なんて不自然な様子を観察することは出来なかった。

 これに《セイレーン》は理由を答える。


「抑えようと思えば抑えられるのよ……。昔はそれも出来なくてね。苦労したわ……」


 そう言いながら、実践して見せてくれたのだろう。

 《セイレーン》が、フッ、と体中に力を入れるようなそぶりを見せる。

 すると、鳩が何かの呪縛から解き放たれたかのように《セイレーン》の頭から離れて飛び上がり、部屋の端に置いてあった帽子立てに着陸した。

 

「……ふぅ、やっぱりつかれるわ」


 《セイレーン》がそう言って体に込めた力を抜くと、再度、鳩は《セイレーン》の頭にはじかれたように飛んで着地した。


「そんなすぐに疲れていたのでは、先日は大変だったのでは?」


 ロレーヌが尋ねると、


「距離もあるのよ。これだけ近づかれるとかなり強く意思をもたないと離れてくれないの。ただ、そうね……この部屋の外側以上くらいかしら。そのくらい離れていると、それほどがんばらなくても近寄ってこないように出来るわ」


 《セイレーン》はそう答えた。

 ひどく便利で、魔術のように魔力という燃料を使わない、メリットしかないような力に思えるが、それなりに力自体に伴う苦労というものもあるらしい。

 そもそも異能を持っている時点で結構な苦労が約束されてしまうわけで、単純にいいなぁ、とは言い難い力なのかもしれなかった。


「……それで手紙には、なんて書いてあったんだ?」


 手紙を老人が読み終わったようなので、俺がそう尋ねると、老人は答えた。


「とりあえず、《おさ》と会い、話をまとめることは出来たようじゃ。やはり《ゴブリン》に任せて正解じゃったな」


「へぇ、やるね」

 

 オーグリーが《ゴブリン》の成果に口笛を吹く。

 仕草が軽いが、彼らしくはある。

 続けて、 


「それで、どこに会いに行けばいいんだい? 今すぐかな?」


 オーグリーがそう尋ねると、老人は言う。


「いや、流石に今すぐではない。明日、拠点まで来るように、とのことじゃ」


「案内はおじいちゃんがしてくれるのかな?」


「不服がなければのう……ただ、全員で向かうのは少し不安じゃ。お主等のうち、誰か一人は残っておいた方が良いぞ。出来れば、わしも《セイレーン》はここに置いておきたい」


 老人がそう言うのは、やはり、任務を失敗した以上、行けば殺される可能性もあると考えてのことだろう。

 その場合、《セイレーン》だけでも逃がしたい、というところかな。

 それに、《セイレーン》がここにいれば、拠点の場所など、組織の情報を色々持っているわけで、俺達のうちの誰かと一緒にいさせれば、拠点に向かって殺されかけたとしても、俺達が戻らなければ組織について洗いざらいばらさせることになっているぞ、みたいな脅しも可能だ。

 そういうことを考えるに、老人の提案は呑んだ方が良さそうに思える。

 問題があるとすれば……。


「誰が残る?」


 ロレーヌが俺とオーグリーを見て尋ねる。

 これにすぐにオーグリーが反応して、


「ここは、僕が残った方がいいんじゃないかな。おっと、何も臆病風に吹かれているわけじゃないからね。そうじゃなくて、君たちがここを出た後、誰かが差し向けられないとは限らないじゃないか。そのとき、王都に詳しい僕の方が、色々と逃げたり隠れたりしやすいからね」


「なるほど、確かにな。私たちは王都の地理には明るくない……。では、そういうことでいいか?」


 ロレーヌが俺に確認したので、俺はうなずいたのだった。

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