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遅れて申し訳ありません。

第14章 塔と学院
第466話 塔と学院、異能者の推測

 宿に戻ると、ロレーヌと老人が仲良く話をしていた。


「……つまり、異能とはどんな人間にも眠る能力だ、と言うことか?」


「わしは、そう思っておる。ただ、それを使える者と使えぬ者がおるのは、たとえば才能のようなものじゃ。魔力や気と、同じ事じゃ。じゃが、異能はそれとは違った扱いを受けておる……」


「貴方はそれについて……?」


「……おそらくは、歴史的な問題じゃろう。古く、魔術も気も、人の手になかった時代、それでも異能者は生まれていたはずじゃ。彼らを、かつての何の力もなかった人間はどのように扱ったと思う?」


「……迫害した?」


「そうじゃな。きっと……だが、それだけでもなかったじゃろう。迫害し、しかしあるいは選ばれし者として、場合によっては神としても扱ったかもしれん」


「しかしそれでは、今の異能者たちの扱いについては……」


「もちろん、そうじゃ。お主も分かっておるじゃろう。いずれの場合も共通した価値観で見られたことが。つまりは……?」


「名前の通り、ということか」


「流石じゃ。そう……異能……その能力を持つ者は、異物として扱われた。それはどの場合も変わらん。じゃから……」


「今では、魔術や気など、不可視だが、ある程度の理論や理屈の解明された力が世間には広まっている。それによって、得体の知れない・・・・・・・力は、省かれてしまった、ということか」


「そうじゃ……残念なことじゃがな。考えてみよ。わしのような力を持つ者が、突然隣近所に生まれるのだ。誰もあらがう力を持たぬ……おそれるな、という方が無理な話じゃ」


「……お話はよく、分かった……」


 そのようなことをおおむね聞いてから、俺とオーグリーは、部屋の中に入る。

 ロレーヌも老人も、その技量で以って当然に俺達の接近には気づいていただろう。

 しかし、お互いに話したいことがあった、ということだと思う。

 異能者について、真実を探求したい、また、本当のところを伝えたいと。

 老人はやはり、もう敵対的なところはないのだろう。

 俺達とある意味で、一蓮托生の思いを持ってくれているのかもしれない。


「おぉ、帰ってきたか。それで、しっかりと依頼達成の報告は出来たのか?」


 老人にそう聞かれて、なんだかあまり違和感を感じないことが怖い。

 なんだかな。

 同じ、社会からの異物なのだと、認識してしまったからだろうか。

 俺は魔物で、老人は異能者だ。

 全く同じ、というわけでもないにしても、その存在の根幹が露見すれば、迫害されるものなのだ。

 俺はなんだか苦笑しつつ、老人に答える。


「ああ、いずれも結構誉められたくらいだ。特に植物採取の腕がいいと言われた」


「ほう。依頼の詳細については調べていなかったが、そのようなものを受けていたか」


「飛竜天麻の採取だよ」


「あれは解熱剤によく使えるものじゃな。根堀して採取したわけかの?」


「くわしいな、じいさん。その通りだ」


 そういうと、端っこの方で膝を抱えて座っていた《セイレーン》がぼそりと、


「そのじいさん、薬の作り方も詳しいわよ。私も小さいころは、じいさんの薬で命拾いしたこともあるもの」


 そんなことを言う。


「ほう、覚えておったのか? 最近の態度を見るに、そんなこと完全に忘れてしまったかと思っておったがのう」


「忘れるわけないでしょ! ……命の恩人なんだから」


 そういって、また膝を抱え、つっぷしてしまう《セイレーン》。

 本当に仕草からして、幼い。

 そんな《セイレーン》を見つつ、老人は笑いながら言う。


「反抗期なんじゃよ。これで、まだ十七じゃからな……」


「十七! 思った以上に若かったんだね……」


 オーグリーが驚きの声を上げる。

 かなり妖艶な雰囲気なので、二十代半ばくらいかと思っていた。

 年増に見える、と言っているわけではなく、妖しげな色気が強いというか……そんな感じだからだろう。

 しかし、言われてみて、改めてその顔を観察してみると、化粧が濃いが、元々の顔の造作は確かにまだ、かなり幼いように見える。


「まぁ、そんなもんじゃからの。これから、少しずつ一人前に、と思っておったのじゃ。わしや《ゴブリン》からすれば、なんというか、孫や娘といった感覚でのう……」


 その言葉にロレーヌが、


「貴方たちの組織でパーティーを組む場合には、そのような関係が築けるほど長期間にわたって組む、ということか?」


「まぁ、そうじゃな。というか、もっとも上の立場の者……この場合はわしじゃが、各地の異能者を探し、スカウトしに行くのじゃ。そしてスカウトされた者は、した者の下につく。家族のような集合体を作り、鉄の結束を築く……と言えばなんとなく分かるかのう?」


「なるほどな……となると、《ゴブリン》や《セイレーン》の他にも仲間が?」


「そうじゃな。今回はこの三人で十分じゃと思っていたから他の者は連れてこなかったが、他にも仲間はおる。他の……なんというかのう。派閥に属する者についてはわしもそれほど詳細を知らぬでのう。何とも言えぬがな」


 つまりは、老人の属する異能者組織、というのはいくつかの四角錐構造の集団が組み合わさったもの、という感じなのだろう。

 その一番上に、彼らのボスがいるが、他の集団との間の交流はそれほど多くない、ということだろうか。

 ある程度の意志疎通や、仕事がかぶらないように、という配慮くらいはあるだろうが、能力を完全に開示するほど仲がいいというわけでもない、と。

 そんな感じだと推測できる。


「今の話で想像できると思うが、今回の訪問を邪魔してくるとすれば、わしらとは異なる派閥の者になるじゃろう。つまり、わしの話など聞かん可能性が高い。それについては、注意しておく事じゃ」


「また物騒な話だ……」


 ロレーヌが額を叩くが、こればかりはどうしようもなさそうではある。


「まぁ、《ゴブリン》がうまく話をまとめてくれるのを願うのみじゃな……そうすれば、何も無しで終わる可能性もある」


 俺の運からすると、それはかなり微妙な気もするが……。

 いやいや、そんなことはない。

 嫌な予感など気のせいだ、と思っておくことにする。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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