王都までの道のりは極めて順調に進んだ。
《ゴブリン》たちも大人しくしていたし、魔物などもほとんど襲ってくることはなかった。
行きのときはそれこそ《ゴブリン》の異能による襲撃のせいで大変だっただけで、そこまで魔物が多い街道ではないからな。
それに加えて、あまり強くない魔物は老人の威圧感を本能的に感じて寄ってこないらしい。
それでもやってきた者は《セイレーン》の弱い思考誘導によりやはり、通り過ぎたり踵を返したりさせているのだという。
改めて聞くと、かなり便利な人たちである。
「……三人で護衛とかしたり、行商人とかした方がそれこそ儲かりそうだな」
とつい言ってしまうと、老人は、
「それもよいかもしれんな」
と笑い、《セイレーン》は、
「養ってくれるならいいわよ!」
と言ったが、老人に、
「そのときはお主も働くんじゃ」
と頭に拳骨を叩き込まれて摩っていた。
見れば見るほど憎めない人々である。
まぁ、こういう戦略かも知れないが……今更それをしたところでな、というのもある。
そもそもやったことを考えると憎めないなぁ、だけで整理も出来ないのだが、本質的には悪人ではないのかもしれないとは思った。
だからといって、油断していいわけでもないけどな。
それから馬車で走りつづけ、一度、野宿を挟んでから次の日の朝には王都についていた。
多少ゆっくり来たのは、すでに老人たちの組織に俺たちの情報が知られていないか警戒してのことでもあったが、そういうこともなさそうだ。
もしそうなら、道の途上でかならず何かしらの刺客が送られてきているはずだとは老人の言葉である。
やっぱりそういった刺客的には冒険者や商人などは街道でやってしまった方が後々の処理も楽らしく、あえて街に入ってからを狙うというのはそれほど多くないらしい。
なんだかこの老人たちといると妙な知識が増えていくが……何事も知っておいて損はないだろう。
王都に入るときは若干、緊張したと言うか、俺たちはともかく老人たちは入れるのか、というのと、老人については流石に雁字搦めはやめておいたとは言え、手足はしっかり縛っていたからな。
ロレーヌが努力してあまり見えないような色合いの魔術の縄に調整してくれたが、それでもどうこう言われるかもしれない、という緊張は多少あった。
しかし、老人自身が非常に協力的であったことにより、さほどの検査もなく通ることが出来た。
老人たちの身分証は皆、行商人のものだった。
いくつかあるらしいが、今は《ゴブリン》と行動するにあたって最も怪しまれないものを使っているのだと言う。
こういった街や村に入る場合の身分証明に一番手っ取り早く素性がばれにくいのは冒険者証だが、
うーん、自分が所属する組織ながら、そういうところは意外にちゃんと頑張っているのだな、と思わざるを得ない。
結構ざるなところはざるなんだけどな。
登録するだけなら普通にばれないだろうし。
なにせ、俺が魔物の状態でやってるんだから。
「……さて、それじゃ、俺は“拠点”に行ってくる。あんたたちは……」
馬車から降りた後、《ゴブリン》がそう尋ねてくる。
《ゴブリン》以外は全員、馬車から降りたが、《ゴブリン》は馬車に乗ったまま、その“拠点”に行くのだろう。
ということは結構大きなところということになる。
気になるからついていきたいな、と思わないでもないが、それをして藪蛇になるのは嫌だ。
とりあえずは彼にすべて任せておくのが賢明だろう。
そう考えていると、《ゴブリン》の質問にはオーグリーが答えた。
「そうだね……とりあえず、誰が行ってもいいけど依頼の品の納入をしておくかな。そもそも僕ら、そのために遠出したんだし」
確かにそうだな。
その結果、とんだアクシデントに巻き込まれてしまったものだが、冒険者に揉め事はつきものだし、それなりに楽しくなかったと言えばウソとなる。
楽しむのは問題なのかもしれないが、そもそも戦いやスリルを少しでも楽しいと思える心がなければ冒険者など向いていない。
いずれ疲れていき、最後にはその疲れから来る油断で死んでしまうものだ。
ただ、そういうものを楽しめるなら、いつだって臨戦態勢でいられる。
面白いものがどこかからやってくるかもしれないのだ。
わくわくしながら生きていられないわけがない。
まぁ、冒険者の多くにそういうところがあるからこそ、一般人からは、あまり近づくな、とか言われたりしてしまう場合があるわけだけどな。
「そうだな。この二人については私が見ておくのがいいだろう。縄は私が保持しているしかないし、逃げられても追いかけられるのは私だけだ」
ロレーヌがそう言った。
その言葉に老人が若干心外、と言った様子で、
「別にいまさら逃げるつもりもないが……まさか王都であの姿になるわけにもいかんでな。《セイレーン》とて流石に王都で能力を使ったら誰に捕まるかわかったものではない。我ら異能者の肩身は都会では狭いもんじゃ」
と思いの外、世知辛いことを言う。
まぁ、確かに王都には強い冒険者や騎士もいる。
金級クラスもいれば、場合によってはそれ以上の者が滞在していることも稀にだが、ある。
そんなところであんな巨大な的が現れれば余裕という訳にもいくまい。
そうでなくとも、いくらこの老人が強かろうと大量の冒険者に襲い掛かられればそれだけで危ないだろうしな。
《セイレーン》など個人的な戦闘能力はかなり低い。
街人なんかを十人単位で操ったところで、百人も冒険者がいたら何の意味もない。
そんな事情を口にする老人にロレーヌは少し気の毒そうな顔をするが、
「ご老人……しかしそれでも油断はするわけにはいかん。見張りくらいはしておかねばな」
そう言って首を横に振った。
「ま、そうじゃろうな。そこに文句はない」
老人も分かっているようで、そう言って黙った。
ロレーヌはさらに俺とオーグリーに、
「それと、
そう言ったので、
「あぁ、それもあったな」
「そうだね……まぁ戻ってきてないと思うけど、一応確認しておこう」
俺たちはそう頷いたのだった。
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