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第14章 塔と学院
第458話 塔と学院、連絡

「……私たちの方から言い出しておいてなんだが、本当に良いのか?」


 話は一応まとまったが、未だに半信半疑というか、この老人があそこまであっさりと承諾したのはちょっと怪しい。

 歩きながらロレーヌが尋ねる。

 どこに向かって歩いているかと言えば、フェリシーのところまでだな。

 ちなみに、老人はしっかり魔術によって拘束されており、自由になっているのは足だけだ。

 巨大化出来ないようにはなっているのでそれについては安心できるが、それでも素の身体能力だけでも驚異的な存在だ。

 前を歩かせつつ、何かしようとしても即座に対応できるように警戒は解いてはいない。

 雁字搦めの老人に、歩け、と言いつつ後ろから監視している骸骨仮面、怪しげな魔術師、派手な男……。

 もうまるきり奴隷商か何かにしか見えない光景だ。

 この老人は実に高く売れそうだしな。

 今、奴隷商に鞍替えしても俺たちならそれなりに儲けられるかもしれない。


「さっきも言ったが、わしもこのままでは殺される可能性が高いからのう。どこからどう見ても、失敗したんじゃ。普通に組織に戻っても危険じゃし……。わし一人なら逃げてもいいが、他の二人は無理じゃしな」


「《ゴブリン》と《セイレーン》か? 確かにあまり戦闘能力は高くない二人だったな……」


 俺がそう呟くと、老人はリラックスした様子で、


「それこそ今更じゃが、《セイレーン》は無事か? 殺されたかもしれぬと思っておったのじゃが……」


 と尋ねてくる。

 肩にまるで力が入っていないことが、反対に腹の座り具合を示しているようでやはり油断は出来ない存在という感覚が強まる。

 ほんと、とんでもない爺さんだ……。

 だからあまり情報は与えたくないが、しかし仲間の無事くらいはいいかもしれない。

 色々話して、かなり仲間意識の強い人だと言うのは分かっているしな。

 それは、異能者というのが世間から良い目で見られていないことから来る意識なのかもしれない。

 誰だって一人は寂しい。

 俺も、迷宮で、永遠に孤独なままかもしれないと思ったあの時の気持ちは、あまり思い出したくないところだ。

 俺たちは目配せしあい、それくらいはいいか、という合意に達したので、オーグリーが老人に言った。


「……無事だよ。特に何か酷い拷問をしたというわけでもない……ないよね?」


 微妙に心もとない声でロレーヌにそう確認したのは、彼女が《セイレーン》からどうやって情報を得たのか謎だからだ。

 よほど凄惨な目に遭わせて口を割らせた、という可能性もゼロではない。

 しかしロレーヌは、


「ないな。特に外傷は与えていないし、心も無事だ。人格も変わっていないことは保証するぞ」


 という。

 ……なんだか微妙に不安を覚える言い方だが、普通に解釈すれば、元気にしている、ということでいいだろう。

 いいよな?

 きっといいはずだ……。

 老人は特に引っかからなかったのか、珍しく、ほっと息を吐いた様子で、


「……そうか。なら、よい」


 と言った。

 それから、


「さきほど、雇い主に会わせると言ったが……」


「なんだ? 今更無しはやめてくれよ」


 約束を破らないでくれ、というのと、そうなった場合の面倒ごとを思って、げんなりとした口調になった俺である。

 これに老人は笑い、


「安心せい、一度言ったことは守る……が、そもそも向こうに連絡せねばならんからのう。《ゴブリン》か《セイレーン》を連絡役に使いたいのじゃが」


 と言って来た。

 手続き的な話だな。

 確かにそれはそうだろう。

 いきなりこの老人の首根っこを掴んで俺たちが乗り込んでボス出てきやがれ、と言ったらそれは話し合いではなく殴り込み以外のなにものでもない。

 究極的にはそれが最後の手段かも知れないが、最初からそれをするのは明らかにダメだろう。

 となると、とりあえず先ぶれを出しておく必要があるというのは理解できる。


「……確かに必要なことなのは分かる……けど、どうだろう。信用がね……」


 とオーグリーが懸念を口にする。

 そうだ。

 どちらかに連絡役を頼んだ結果、この老人のような化け物がわんさかこっちに向かってくる、なんて可能性もあるのだ。

 そう簡単に、いいよ!とは言えないのは当然の話である。

 そのことは老人も理解していたようで、こちらの気持ちを考えたうえで、提案をしてくる。


「お主たちからするとわしらが信用できないのは当たり前の話じゃろうな。とは言え、これはやらねばならんことなのも分かっておるじゃろう……。まぁ、手元に人質をとっておいて、一人を向かわせる、というのであれば少しは信用できるじゃろ? わしのおすすめとしては、《ゴブリン》を連絡役にすることじゃな。《セイレーン》の小娘の方は、少しばかり余計なことをしそうなので薦めん……わしが言えるのはそんなところじゃ」


 実際、そうするくらいしかないというのも確かだ。

 《セイレーン》は確かに自信家で、手柄を立てたがっているような感じがあったので解放すればこの老人と《ゴブリン》を見捨てそうな感じもしないでもない。

 この老人を解放すれば、正直何をやってくるか分からないので怖い。

 かと行って、《ゴブリン》と《セイレーン》の両方を出してしまうと、この老人は一人でも逃げ出すかもしれない。

 ということを考えると……組み合わせとして残るのは、《ゴブリン》を連絡役にし、この老人と《セイレーン》については手元に人質として残す、というのしかない。

 

「……分かった。それで行こう」


 とロレーヌが俺とオーグリーが頷くのを見て言った。

 しかし、とロレーヌは続ける。


「組織に戻れば危険、という話だっただろう? それは大丈夫なのか?」


 この老人より、《ゴブリン》の方がはるかに戦闘能力は低い。

 それなのに彼一人を戻しても大丈夫なのか。

 それこそ責任を取らされて殺されてしまうのではないか、という話だ。

 これに老人は、


「わしがこっちにいるなら平気じゃ。そんなことをすればわしが何をするのかわからん、と考えるだろうからのう。わしはこれでも組織の中では強い方じゃ。異能が使える限りは問題ない……」


「……ん? それはつまり……」


「なんとなく分かるじゃろう。異能者の組織じゃ。異能に対する対策ぐらいはあるということじゃな。そっちの化け物……レントと言ったか。お主も気を付けることじゃな」


 ……勘違いであって、その忠告は意味をなさないと思うが、一応、そんなことを言ってくれる辺り、この老人も血も涙もないというわけでもないだろう。

 というか、むしろ人情派な感じだしな。

 敵には容赦しないと言うだけで。

 だから俺はとりあえず、


「……分かった。気を付けることにするよ、爺さん。わざわざありがとう」


 そう言うと、老人は妙な顔つきで、


「……お主も、変な奴じゃな。わしに礼など必要あるまい……」


 そう言ったのだった。

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