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第14章 塔と学院
第457話 塔と学院、お願い

「第一王女ナディア・レギナ・ヤーラン様じゃ……いや、少し違うかのう。第一王女殿下はこんなことが行われていることなど知らん」


 老人がそう言ったので、ロレーヌがさらに突っ込んで尋ねる。


「では、誰が主導したのだ?」


「わかるじゃろう? ジゼル・ジョルジュ女伯爵じゃ。第一王女殿下、最大の後援者……いずれ殿下を陛下の後継にと推す、女傑じゃな」


「……なるほどな」


 やはり、概ね推測は当たっていたわけだ。

 俺たちが第二王女のところに行き、彼女とかかわりを持ったがゆえに、彼女を目障りに思う人間が俺たちを狙ってきた、と。

 ただ、第一王女本人ではなく、その後援者だと言うのが微妙なところだろうか。

 本人だとしたら、今回の襲撃の事実を第二王女に報告すれば、第二王女が第一王女を追い落とす良い材料になりそうだが、あくまでも後援者のものだとなると……。

 もちろん、それでもダメージを与えられはするだろうが、第一王女自体を引きずり下ろす、というわけにも行かなそうだ。

 その辺りの細かい政治力学は冒険者である俺たちの範疇ではないので、とりあえず伝えて後は頑張ってくれ、でいいかもしれないが、また俺たちが狙われるのは勘弁願いたいからな……。

 どうにかならないかと思うのだが、難しい。

 

 しかしそれにしても、王族というのは大変なものである。

 家族同士で謀略の立て合いか……いや、そうでもないのかな?

 今回については本人が立てたわけでもないようだし。

 第一王女と第二王女の仲もどうなのかはよくわからない。

 第二王女が狙われるとしたら第一王子か第一王女からだ、という話はしていたが、実際の仲の良し悪しについて聞いたわけでもない。

 今度聞いてみるか……。


「……つまり、お前たちの雇い主は、ジゼル・ジョルジュ女伯爵だということでいいか?」


 ロレーヌがさらに尋ねると、老人は頷く。


「いや、それも少し違うかのう。今回は、確かに、わし、《ゴブリン》、《セイレーン》はまとめて彼女に雇われたが……もともとわしらは組織の人間じゃ。そこから彼女に売り込まれて、期間を決めて雇われていたのじゃ」


「組織?」


「そうじゃ。わしらのような……《異能》《特異能力》、そういったものを持つ者たちで構成された組織じゃよ。わしらは必要に応じてそこからさまざまな現場に派遣され、仕事をこなす。今回の事も、そのうちの一つじゃ」


「そんな組織があったなんて……」


 オーグリーが驚いて目を見開き、そう言う。

 老人はその反応に笑い、説明した。


「お主らが知っておるかは分からんが……異能者というのはあまり、歓迎されん。どこででも、じゃ。特に田舎の村なんかじゃと、そのような者は排除される。村八分くらいならまだいいが、場合によっては殺されることもある。《組織》はそんな者たちを救い、いっぱしの刺客に育て上げ、仕事を与える……。慈善事業じゃよ。悪くなかろう? そこにいる化け物の……ご同輩なら分かると思うのじゃが」


 老人は俺を見ながらそう言った。

 化け物とは心外な。

 しかし、老人は俺を《異能》持ちだと勘違いしているようだ。

 気持ちは分かる。

 流石に魔物だ、なんて一目で見破れるわけもないし、見破られたらそれこそ始末するしか方法がないところだからな。

 このまま勘違いさせておこう。

 それにしても、そんな組織が存在するとは……。

 世の中広いな。

 俺もまた、その広さを感じさせる妙な存在ではあるが。

 ただ、老人の推測は間違っているとはいえ、言っていることは理解できる。

 異能者が歓迎されない、排除される、というのは、つまり、俺が骨人スケルトン屍食鬼グールだったときに感じていた恐れと同じものだからだ。

 人と違う、と一目で分かってしまう特徴を持っていると、人はそれを認めない。

 あいつは違う奴だと責めたて、追い立て、そして排除する。

 それはある意味では、この世界でも弱い生き物である人がどうにかして居場所を確保し、維持していくための本能なのかもしれないが、そんな人よりも弱い存在に落とされた者にとってはすべてに見捨てられたような、そんな気分になることでもある。

 俺の場合、運よくロレーヌやリナ、それにシェイラとか、オーグリーもそうだが……魔物になってしまっても受け入れてくれる優しい人々がいた。

 しかし、そんな人々がいなかったら……。

 俺は心も体も、本当にただの魔物に成り果てていた可能性が高い。

 

 人を食い、殺し、社会から外れて荒野を彷徨う生き物に……。


 考えるだけで恐ろしいことだ。

 それを思うと、老人が言うような組織があることは、異能者にとっては救いなのだというのも納得できる。

 ただ、敵だと思うと非常に怖いが。

 異能者は、この老人を見るだけで分かるが、ヤバい奴は本当にヤバいらしいからだ。

 こんなのが次々に来たら体がいくつあっても足りない。


 老人の言葉に、俺たちは少し考え、相談する。

 老人に聞き取れないように、ロレーヌが結界を張ってから、尋ねる。


「……どうする? 相手は分かったが……」


「とりあえず手を引いてくれるように頼んでみるとかは?」


 オーグリーが楽観的なことを言うが、それが成功するとは思えない。

 けれど、やってみて悪いと言うこともないかもしれない。


「一応、言うだけ言ってみるか? それがだめならそのときはそのときってことで」


 俺がそう言うと、ロレーヌが頷く。


「まぁな……あとは、女伯爵やその《組織》とやらに直接言いに行くとかもある。これはかなり危険そうだが……」


 あの老人と同じようなのがゴロゴロしているかもしれない場所には出来る限り行きたくはないが、最終的にはそうするしかないというのも事実である。

 第二王女に第一王女と仲直りしてくれ、とかどうにかしてくれ、というのもあるが、これは可能なのだろうか。

 分からないな。

 

「……とりあえず、一番簡単そうなのから行ってみるか」


 俺がそう言ったところで、一応の相談は終わった。

 ロレーヌが結界を解き、老人に言う。


「……無理だとは思うが、一応言うだけ言っておく。ご老人、もう私たちからは手を引いてくれないか? もしも、あなた単独で決められないというのなら、その決定を下せる人物に会わせてほしいのだが……」


 これは、女伯爵か組織の責任者のどちらか、ということだな。

 実に無理そうだ。

 しかし、意外なことに老人は、少し黙考し、それから、


「……ふむ。まぁ、よかろう。どうせわしもこのままでは死ぬだけだしのう」


 と承諾したので、頼んでおいてなんだが驚いた俺たちであった。

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