それからしばらくして……。
「……む……ぅ……?」
頭を横に振りながら、老人の目が覚める。
意外にもいきなり暴れ出したりはせず、周囲の光景をよく確認した後、俺たちの顔をそれぞれ見て、ため息を吐いた。
「……巨人化しないのか?」
思わずそう尋ねると、老人は首を横に振って、
「わしが気絶してからどれくらい経ったのかは分からんが……何か対策ぐらいとってあるじゃろ。でなければわしの命がある説明がつかん。無駄なことはせん」
そんなことを言った。
しっかりと状況を認識できているようで、流石だと言える。
「話が早くて助かるな。しかし、一応説明しておくと……巨人化は許可なく出来ないようになっている。それと、私たち相手に嘘を言うこともな。どうだ?」
ロレーヌにそう言われて、老人も一応試すだけ試してみようか、と思ったらしい、
「……ぬんっ……!」
と、どこかよくわからない場所に力を入れた。
異能というのがどういう原理で発動するのか俺たちにはよくわからないところだが、巨人化、もしくは一部の巨大化か……をするとき、どこかしらに力を入れることがトリガーになっていたのだろう。
まぁ、ただのルーチンであってあまり意味はない、ということもありうるが。
しかし、とにかく俺たちの言っていることが正しい、ということは理解したようだ。
老人は再度、ため息を吐いて、
「……確かに無理なようじゃな。これではわしもその辺の老人と変わらん。この拘束を解いてくれても構わないのではないか?」
そんなことを言う。
老人には、ロレーヌが魔術によって拘束をかけており、それによって行動を阻害されているわけだが、それを解けと老人は言っているわけだ。
しかし、これにオーグリーが言う。
「お言葉を返すようだけどね、おじいちゃん。貴方は素のままでも腕力が半端じゃない。それ外したらやっぱり暴れるつもりでしょ? 外せるわけないさ」
実際、老人はそれを狙って言ってみたのだろう。
「……全く。少しくらい油断してくれても構わんのじゃがな」
と鼻を鳴らしたのがその証拠だ。
本当に油断も隙もない爺さんだが、流石にこの状態では彼にも何も出来ることがなさそうだ、とわかっただけ良しとしよう。
それから、老人は俺たちをじろりと見つめて言う。
「それで? こうしてわしの命を取らずに拘束したんじゃ。何か聞きたいことがあるんじゃろう? さっさと聞いたらどうじゃ」
どちらが捕まっているのか分からないくらいに不遜な物言いだが、ここまで完全に拘束されていては何も出来ないと開き直る気分も分からないではない。
「……調子が狂うご老人だな。まぁ、いい。では単刀直入に聞かせて頂こう。なぜ私たちを狙った? あの《ゴブリン》やら《セイレーン》やらも含めてだ」
「本当にまっすぐ聞くのう……しかし喋るわけには……あぁ、こりゃ無理じゃな。黙ってられん。理由は簡単じゃよ。お主ら、第二王女に招かれたじゃろ? あれじゃあれ」
嘘をつけないようになっている、と言ったからでは黙っているのはどうか、と老人は少し頑張ったようだが無理だったらしい。
素直に喋る。
魔術契約書で質問に対し、嘘をつけず無言もまた貫けない、とされたとき、無理に黙っていようとするとなんかむずむず変な感じがするらしいな。
俺はやられたことはないが、言いたくないのに口が回ってしまう感じなのだと言う。
一回くらい経験してみたいものだが、そのときは相当危険な立場に置かれた時だろうし、勘弁願いたいものだ。
それにしても、やっぱり理由はそういうことか。
「……はぁ。やはりか。しかし……あの程度のことでか? 正直言って、私たちがしてきたのは少し世間話をして、茶を飲んできたくらいのことだぞ。あれくらいで貴方のような化け物に狙われては命がいくつあっても足らん」
色々と細かいところを省いて説明すれば間違ってはいないかもしれない。
質問とは言え、あまりこの老人に情報を与える必要もないし、何か一つ伝えれば推測されそうな老人だしな。
与える情報は可能な限り少なめに、ということでこんな言い方なのだろう。
しかし老人は言う。
「とぼける気持ちは分かるが、第二王女との会話は大体分かっておる。王杖について話したのじゃろう? もちろん、陛下のご容体についても……」
「何の話だ?」
「無駄じゃ。大体、それが分からなければわしらがここに来ることもなかった……。大方、再度製作された王杖の運搬役にでも指名されたんじゃろ? これだけ腕が立つんじゃからな。しかし、あの王女もよくこんな冒険者を見つけたもんじゃ。目ぼしい奴らは抑えておったはずなんじゃがの……」
話した内容についてはまさにその通りだが、微妙にずれているな。
王女が王杖の製作を頼みに行ったのは事実だが、条件をつけられて結局頼み切れてないことも分かっていないようだし、俺たちについても、預言がどうとか言われたことについても分かっていないようだ。
しかしそれにしてもなぜ分かっているのか。
盗聴の類の魔道具はなかったと思うが……。
流石にそういうものについては調べている、と思う。
ロレーヌとて気づくだろうしな。
これにロレーヌは情報源がなんとなく推測がついたようで、老人に尋ねる。
「……占術師でも雇っていたか。それもかなり精度がいい……」
「ほう、よくわかるのう。百発百中らしいぞ。実際、試しにわしの過去を見てもらったのじゃが、これもかなり細かく当ておった。まぁ、それでもずれはあったが……なんにせよ、お主らが危険人物なのは明らかじゃったからな。殺せとのお達しがあったのじゃよ」
ハイエルフが王女に告げた預言どうこうからも分かるように、未来視や過去視の出来る占術師というのはいる。
しかも実際に当たる奴だ。
ただ、その真偽については中々判別しがたいのでペテン師扱いされることも多い。
つまり、老人の雇い主はペテン師ではない占術師を雇うことに成功した、ということだろう。
運のいいことである。
ただ、重要部分については結局分かっていないのは……なんでだろうな?
占術師だってそこは知りたかっただろうし、占ったと思うのだが……。
まぁ、考えても分からないか。
ただ、昔話なんかではあることではある。
神々が介入していることについては占いの力が及ばない、とかな。
今回は、ハイエルフの預言が関わっている。
つまり、聖樹だ。
あれは神に近いらしいし、だからこそ、半端に占うことしかできなかったのかもしれない。
ロレーヌはそして、最も重要なことを尋ねた。
「それで、そのお達しとやらをした人物は結局誰なんだ?」
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