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第14章 塔と学院
第451話 塔と学院、着地

 巨人の足の一撃。

 その攻撃は広範囲に及び、また速度も段違いに早いと言うふざけたものだった。

 それでも流石に潰されてしまった、なんてことはなかった。

 そもそも、潰されたとしても何度かは復活可能なのが俺である。

 巨人の方もかなりずるいと思うが、俺も人のことは言えない。

 普通は一度潰されたらそれまでだからな。


 しかし、何とか避けられたのは一発だったからだ。


『……これくらいは避けるか。では、これでどうじゃ!』


 そう言って、老巨人は今度は連続して踏み潰しをし始めた。

 ただ子供が駄々をこねるように足踏みを繰り返しているわけではないのが厄介だろう。

 そうではなく、正しく俺の位置を認識した上で、ピンポイントに狙い、そして避けるであろうあらゆる方向に素早く足踏みを繰り返すのだ。

 知恵のある巨大な魔物というのはいつだって恐ろしいものだが、この老巨人は知恵がある、どころかその中身は人間と同じであり、さらに言うなら相当なベテランであるらしい。

 人が、魔物たちと比べ、遥かに矮小な存在であるのにも関わらず、この世界でその命脈を保ってこられたのは、その知恵が魔物たちよりもずっと上だったからだ。

 なのに、そんな魔物たちと同等かそれ以上の体格と力を持ったうえで、人と同じだけの知恵まで持っているのがこの老巨人である。

 危険にもほどがあった。


 だが、それでも諦めるわけにはいかない。

 

 ――ドォォォン!!


 という音が耳のすぐ近くで鳴り響き、左肩から先に衝撃が走ったのを感じた。

 どうやら、避けきれなかったらしい。

 左肩から先の感覚が切れたのだ。

 しかし、痛みはほとんどない。

 このくらい、俺の体にとっては擦り傷に等しいからだ。

 ただ、そんなことは老巨人には分からない。


『……どうやら、致命傷のようじゃな……!?』


 と若干嬉しげな声でいい、そしてそんな俺に止めを刺そうとしたのか、今度は足ではなく、拳を振るって来た。

 やはり、とてつもなく巨大だとは言え、その体の形は人と同じだ。

 攻撃力はともかく、命中精度を考えると腕の方がいいのかもしれない……。

 俺の眼前に迫る拳。

 老人はそれが命中することを疑っていないだろう。

 それも当然で、肩から先が潰された直後にまともに動けるような奴は流石に人間には滅多にいないからだ。

 一人もいないわけではないのが、世の中の広いところで、俺もまた、その信じがたい例外の一つであることは言うまでもない。

 迫って来た拳を直前まで引きつけ、そして避ける。


『なんじゃと……!?』


 驚いて手を引こうとする老巨人だが、その前に俺はその腕に飛び乗る。

 そしてそのまま駆け上がり、老巨人の肩までたどり着くと剣を強く握りしめた。

 これから俺が何をしようとしているのか老巨人も気づいているのだろうが、流石に俺の方が小回りが利く。

 魔力と気の込められた剣の一撃が、老巨人の顔に向かって迫った。


 ――ザンッ!


 という手ごたえがすると同時に、ボンッ、という肉の弾ける音が聞こえた。

 とりあえずは命中した……ということになるが、しかし残念ながらその顔に、というわけではなかった。

 やはり、老巨人の反応速度は驚異的で、いつの間にか上がっていた掌によって俺の斬撃は阻まれていたのだ。

 そして、


『……ぬあぁ!』


 という唸り声ともつかぬ叫び声とともに、弾けた掌をそのまま動かして、俺を捕まえようと伸ばしてきた。

 もちろん、決して捕まるわけにはいかないが、しかしここから一体どうやって逃げるのか、という問題はあった。

 一番早いのは……まぁ、飛び降りることだろうな、ということは分かる。

 幸い、俺はここから墜落しても死にようがないし、別にいいだろう。

 他の手段としては、老巨人の体をよっこら降りると言うのもあるが、そんなことを待っていてくれるほど悠長な性格とも思えない。

 だから、俺は覚悟を決め、自らの体を宙に舞わせた。

 けれど、老巨人も流石にそれしか俺には方法がない、ということは十分に予測していたようで、


『逃がすか!』


 と叫び、俺にさらに手を伸ばす。

 おぉ、このままでは捕まる……なんて事にはならない。

 俺は自らの背中に気を思い切り込めた。

 老巨人の手が俺に迫り……そして握り潰される。

 その瞬間、ただ自由落下するだけだった俺の体は急に軌道を変え、横へと移動した。

 横移動するつもりはなかったのだが、調整が難しい……。


『な……! この!』


 巨人は諦めずに追ってくるが、しかしその瞬間、


「……氷流星グラキエス・コメーテース!!」


 そんな声が発せられ、それから老巨人に向かって巨大な氷の塊が横合いから襲い掛かった。

 流石に老巨人程の質量とまではいかないだろうが、かなり大きく、相当な魔力量を持つ魔術師でなければ形成できないようなサイズだ。

 老巨人の……三分の一ほどはあるだろうか。

 そして、流石に老巨人が化け物じみた怪力と反応速度を持つとはいえ、急に直前に出現した巨大な氷塊を避けることは厳しく、その直撃を受け、バランスを崩す。


「……タイミングのいいアシストだな」


 呟きつつ、俺は背中に再度、気を込め、今度は地面に向かって進むように努力してみる。

 すると、老巨人がバランスを崩したのを見て、だいぶ落ち着いたのが良かったのか、今度は調整がうまくいき、望んだ方向に飛ぶことが出来た。

 そう、俺は飛んでいた。

 今、俺を客観的に見れば、背中から蝙蝠のような翼が生えているのが見えることだろう。

 魔力を込めればわずかな浮力を生み出し、気を込めれば制御の難しい推進力を生み出す。

 そんなものである。

 使いどころが難しく、通常の戦闘ではあまり使う機会はなかったが、今この時こそがこいつの出番であるのは間違いないだろう。

 実際、これのお陰で老巨人の握り潰しからは逃げられたし、どうやら地面の感触を再度、味わうことも出来そうである。

 少し問題があるとすれば、ちょっとやばい速度で地面が迫ってきている、ということだろうか。

 こういうところがこの羽のうまく調整が利かないところだ……。

 方向はなんとかなったのだが、柔らかく着地する、というわけにはいかないようである。

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