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第14章 塔と学院
第449話 塔と学院、本性

「……どれ、見せてやるか……」


 老人がそんなことをふと、呟く。


「一体何の話を……」


 俺が尋ねようとしたその時、


「……レント! オーグリー!」


 後ろから声が聞こえた。

 振り返ると、そこにはロレーヌがいた。

 周囲の、木々がなぎ倒され、そこら中に穴が開きまくっている惨状に眉を顰めつつ、走って来た。


「大丈夫だったか?」


 合流してロレーヌがそう尋ねたので、


「見ての通りだよ」


 とオーグリーが前を向いたまま答える。

 俺が振り返っている間、オーグリーはしっかりと老人を注視していたわけだ。

 長い付き合いだけあって、ツーカーというか、言わなくても役割分担が出来るのは楽でいい。

 

「魔術師も来たか……あの娘はよいのか? わしにも仲間はいるぞ。お前たちが捕らえた以外の者も、な」


 老人がロレーヌを見て、そう言ってくる。

 明らかに揺さぶりだろうということは分かるが、しかし絶対に嘘だとも言えない。

 これに対してロレーヌは、


「貴方を倒せば問題ないと思っているのだが?」


 と、冷たい声ながらも、若干、挑発的に答える。

 これを聞いて俺が思ったのは、ロレーヌとしてもフェリシーを置いてきたのはやはり、不本意な行動だったのだろう、ということだ。

 どうも、珍しく少しイラついているようだからな。

 ただし、老人の方はそうは捉えなかったらしい。


「ふっ……この程度では動揺もせんか。つくづく舐めておったの。あの二人程度では相手にならんわけじゃ……もう少し、情報は正確に欲しかったわい」


「あの二人とは?」


 この期に及んで知らないふりをしても意味はあまりないだろうが、一応素知らぬ顔でそんなことを言ってみると、老人は鼻白んだ表情で、


「それはもういいわい……まぁ付き合ってやるがの。わしの仲間じゃ……片方は経験はあるが、能力は弱めの奴での。本人も商人の仕事の方が性に合っていると思い始めていたようじゃったから、今回の仕事を最後に引退させるつもりじゃった。もう一人は、中々に希少な能力を持っていたが経験が浅すぎて鼻が高くなりすぎておっての。多少難しい仕事を任せて、その鼻を一度折ってやり、一回り成長させようと考えておった……」


 そんなことを語りだす。

 隠す気がなくなった、のだろうか?

 いや、もうこうなっては隠しても意味がないと思ったのだろう。

 それに、この老人は俺たちを皆殺しにするつもりだ。

 死人に口なし、ということで何を話してもいいと考えてのことかもしれない。

 死んでも口があるのは、俺のような変なのだけだ。

 老人は続ける。


「……しかしのう、残念なことに、どちらもうまくいかんかった。それもこれも、上からの情報が半端じゃったからじゃ」


「上?」


 その上が誰なのか知りたくてたまらないので、一応口を挟んでみたが、老人はじろり、とこちらを見るだけで特に答えてはくれない。

 殺すから何を話しても、と思ってはいても、肝心なことはしっかりと隠すわけだ。

 まぁ、何事も絶対ではないからな。

 ここで喋って逃げられました、となったときに困るだろう。

 老人には分からないことだろうが、俺が本気になって逃げれば確実に逃げられる自信がある。

 “分化”をまともに捉えられる者などあまりいないだろう。

 絶対にいない、と言えないのはニヴみたいなのがいるからだ。

 冒険者には化け物がそれなりにいる。

 金級上位でもあのレベルだ。

 白金プラチナ神銀ミスリルにもなれば“分化”への対処など余裕でこなすのだろう。

 この老人も実力的には金級クラスはあるように思える。

 もしかしたらもっとかもしれない。

 こんな道端で遭うような存在ではないのだが……遭ってしまったからな。

 仕方のない話だ。

 老人はさらに続ける。


「……上は、普通の銀級二人に、話にもならん銅級が一人、などと言っておった……だが、ふたを開けてみれば目標はお主たちのようなものじゃった。一人はわしの一撃を受けても何故かピンピンしておる化け物、一人はわしの腕から長時間逃げ続けられる腕のいい奴、そしてもう一人は、あの短時間にわしの腕からも守り切るシールドを無詠唱で張った魔術師じゃ。始めからそう言われていれば、もっと下準備をしっかりしておったのじゃが……実に割に合わん仕事じゃ……」


「そう思うなら、ここで諦めて帰ってくれないか?」


 一応、言ってみるだけ言ってみるが、老人はそれに笑い、


「出来るはずなかろうが。どれだけ割に合わなかろうが、仕事は仕事じゃ。この老骨に鞭打ってでも、お主たちは仕留める。出来ねば失職じゃからな……」


 この場合の失職とは、職を失った挙句、命も失うという意味だろう。

 こういう影の人間の世界は厳しいからな。

 そこのところは同情する。

 けれど、俺たちとしてもここで手加減するわけにもいかない。

 手加減できるような相手でもないが……。


「……さて、雑談もこれくらいにしておくとしよう。目標が三人そろった。一人残らず、消えてもらわねばならん……」


「そう簡単にやられてやると思うか?」


 ロレーヌがそう言うと、老人は、


「思わんよ。もうわしはお主らを舐めておらん……先ほどまではそうではなかった、とは言わんが、ここからは本気じゃ……見るがよい! ふんぬぅぅぅ!!!」


 そう言って、ぐっ、と体に力を入れ始めた。

 何をする気なのかは分からなかったが、何かまずいことをしようとしている、ということは分かった。

 それを馬鹿正直に待ってやるほど俺たちは人が良くない。

 俺とオーグリーは剣を振りかぶり、老人に襲い掛かり、ロレーヌもまた杖を向けて魔力を練る。

 しかし……。


「……遅いわ!」


 老人がそう言った瞬間、とてつもない圧力が老人の体から広がった。

 俺とオーグリーはその圧力に弾かれるように吹き飛ばされ、ロレーヌもまた、吹き荒れる風の中に集中を奪われる。

 

「……一体、何が……」


 老人を中心として吹いた強風に、大きく後ろに飛ばされた俺たち。

 改めて老人がいた場所を見つめると、そこにあったのは巨大な質量だった。

 想像していなかったわけではない。

 老人の能力を鑑みるに、その可能性は十分にあった。

 しかし、そうなる気配はなく、おそらくはあれが能力の限界なのだろう、と考えていた部分もあった。

 だが、それはどうやら間違いだったらしい、ということが今、この瞬間に分かった。


「あれは……」


「まさかこんな……」


 俺とオーグリーがそれ(・・)を見つめながらそう呟き、そして、ロレーヌがはっきりと口にする。


「……巨人、か。こんなところで出遭うことになるとは、思ってもみなかったぞ」


 そう。

 そこには、確かにその存在が立っていたのだった。

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