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第14章 塔と学院
第446話 塔と学院、老人と若者

「……いやぁ、これは意外だったね……!!」


 オーグリーは目の前に立つ老人に向かってそう言った。

 その台詞の意味は簡単だ。

 思っていた以上に、強い、ということだ。

 そもそも、純粋な攻撃力が尋常なものではない。

 腕が巨大化し、オーグリーがギリギリ差し出した剣の平に命中したとき感じた衝撃は、半端なものではなかった。

 直撃を受けていたらかなりのダメージを負っていたのは間違いない。

 実際、なんとか防御できたとはいえ、背中周りは森の木々にたたきつけられて、結構傷だらけだ。

 人間の体は弱い。

 こうなる前にうまく立ち回るか、気や魔術で強化して立ち回らなければならない。

 それでも一応、老人の攻撃を受けた直後、気で体を覆い、守ったつもりではあったのだが……練度がまだまだ、ということだろう。

 修行が足りなかった。

 ただし、まだ命はある。

 出来ることはある。


他の二人(・・・・)と同程度だと思っとったか?」


「……何のことだい?」


 一応とぼけてみたオーグリーだが、老人は笑う。


「その反応じゃと、やはりばれておったようじゃな……。どこで気づかれたのか分からんが、仕方あるまい。しかしの、あの二人とわしを一緒にすると痛い目を見るぞ? あやつらは力をまだ、全て使いこなせておらんからのう……」


 かなりうまくとぼけたつもりだったが、やはり年の功だろうか。

 一発で見抜かれる。

 まぁ、状況が状況だ。

 《ゴブリン》はともかく《セイレーン》の方はその謀略をすべておじゃんにし、かつ本人を捕獲してある。

 すべてバレている、と思ってこの老人がやってきたということは想像に難くない。

 とは言え、確かにこの老人が言うように、最後の一人というのも謀略や工作を得意にする者が来ると思っていた。

 そういう集団であると先入観を持って考えていたわけだ。

 なのに実際に来たのはこれである。

 まさかの物理特化だ。

 馬鹿正直にもほどがある。


「……おじいさん、貴方は間者とかには向いてないんじゃないかな? どっちかというとどこかのコロシアムで戦っている方がお似合いだよ」


 闘技大会を見世物にしている町や都市は沢山ある。

 そういうところでは常に強者を求めていて、しかもそれは面白く戦う者だ。

 この老人はそう言う意味で、素晴らしいカードになりそうだと思った。

 これに老人はにやりと微笑み、


「若いころはそれもやっとったが、厭きてしまってのう。叩き潰す以外の職業を探したんじゃよ。そうしたら……運よくな。仲間も見つかったことであるし、雇い主さまさまよ」


「仲間?」


「会ったじゃろう? ああいった者たちのことじゃ……ま、細かいことはよい。お主も珍妙な格好をしておるが、男じゃろう? 男はのう……黙って拳で語るもんじゃ」


「……僕の服装については、聞き捨てならないな。これはおじいちゃんには分からない、オシャレなんだよ」


「……ふっ。では、年寄りに体力で負けるでないぞ、若者よ。最近、年齢からか、ボケが進んできているようでのう。加減を間違えてしまうかもしれん」


「それなら出来ることなら、ターゲットが誰かも忘れてほしいんだけどな」


「ロレーヌ、レント、そしてオーグリーじゃったかの? 年をとるとのう、なぜか妙なことばかり忘れないものなんじゃ……よッ!」


 そう言って老人は地面を踏み切る。

 恐るべきことに、その瞬間巨大な音と共に、地面が揺れた。

 見れば、老人の足元は不自然に巨大な足跡がついている。

 先ほどのことから鑑みるに、地を踏み切る瞬間、その足を巨大化させた、ということなのだろう。

 そして振り上がった拳が目の前に来る。

 この先は、分かる。

 この老人の手は再度巨大化し、自分を襲うのだろう、と。

 目の前に迫りくる脅威。

 しかしそれに冷静さを失わず、いかにしてその攻撃を受け流し、そして反撃するか。

 オーグリーはそれを必死で考える。


 ◇◆◇◆◇


「……くそっ!」


 一体どこまで吹き飛ばされたんだ……。

 体中が不全を訴えている。

 見れば、骨が折れていたり、体の中から突き出しているのが見えた。

 人間ならこれ、死んでるぞ。

 しかし痛みはあまり感じない。

 全くのゼロでないのは、たとえこんな体でもあまりにも大きなダメージを負えば死んでしまうから、なのかもしれない。

 不死者で死ぬと言うか、それとも消滅とか言えばいいのか……。

 

 とりあえず、このままではしっかり戦えない。

 集中して、体を《分化》させる。

 体の表面が輪郭を失い、結合が外れていくような妙な感覚がする。

 何度味わっても自然なものとは感じられないが、それでも大分慣れてきているからか、以前よりはずっとスムーズだ。

 場所も関係しているかもしれない。

 森の中だと、なぜか集中が強くなる。 

 俺に加護をくれている精霊の力もあるのかな……。

 分からない。

 ともかく、分化し、再度自らの体を形成すると、どう見ても死んでいるだろう、という感じだった体がすっかりと普通の状態に戻っていた。

 肌は青白く滑らかに、骨はすべて元の位置に。

 ローブだけは汚れてすらいないのが恐ろしい。

 このローブがなければもっとダメージは深刻なものだったかもしれないな。

 それに今だって、見た目上は治っているが、ノーダメージというわけでもない。

 以前にニヴに教えられたが、分化は見かけを直すだけなのだ。

 何度となく同じように傷を負っていると、いずれ存在自体が希薄化し、消滅してしまう。

 もちろん、そのダメージも骨折などと同様で、日を置けばまた完全に回復するのだが……短い間に何度も大怪我するなっていうのはまぁ、普通の話だろうな。

 大怪我しても常に全快の状態と同じように戦える、というのはメリットだが、自分があとどれくらいで死ぬか分からないと言うのはデメリットだ。

 危険だからな。

 しっかりとその辺りは自分で管理しておかないと……。

 年経た吸血鬼ヴァンパイア連中――イザークやラウラが何か超然とした冷静さを持っているのは、そういうことも影響しているのかもしれない。

 

 ともあれ……。


「……これで行けるな。方角は……」


 体が完調か確認した上で、どこに向かうべきかを確認する。

 俺はロレーヌのように魔力で誰がどこにいるのかを判断することはできないが、この体特有の方法はいくつもある。

 耳を澄ませて音で感知する、というのも勿論、他には血の匂い、というのもある……。

 今はまさに、その血の匂いがするな。

 オーグリーのものだ。

 ……おい、まさか死んでないよな?

 ロレーヌのはしないから、そちらはまだ大丈夫そうだが、オーグリーは……。


「とにかく行かないと……!!」


 俺は急いで地面を蹴る。

 新品に戻った体はミシミシと妙な感覚がするが、すぐに慣れるはずだ。

 願わくば、まだ生きててくれよ、オーグリー……。

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