「これで依頼は全部終わり……と。意外と時間がかからなかったな」
湖で水浴びをしつつ俺がそう言うと、同様にしていたオーグリーも頷いて答える。
「そうだね。二日三日かかるだろうなと思っていたから、良かったよ。ほとんどフェリシーがいてくれたお陰だけど」
そのフェリシーは今ここにはいない。
ロレーヌもだ。
彼女たちは別の場所で泥を落としている。
流石に男と一緒に、というわけにはいかないからだ。
やろうとは思わないが、覗きに行った場合にはロレーヌから雷撃をお見舞いされるだろう。
びしょぬれの体でそれをやられたら人生終了の合図が聞こえることだろう。
絶対に行かない。
「何が幸いするか分からないもんだな……」
これは村で起こった騒動全般を指して口にした言葉だ。
あの色々がなければ、フェリシーも協力してくれなかっただろうし、怪我の功名とはまさにこのことだと思わずにはいられない。
これにオーグリーは俺の体を見ながら言う。
「確かにね。君についてもそうだ……。青白いが、しっかりと人間に見える体をしているね。骨だった時を見てみたかったよ」
今は、俺もオーグリーも下ばき以外は全部脱いでいる。
必然、俺の体も丸見えだが、
少し青白いのは確かにその通りだが、それだけである。
仮面は相も変わらず外れないわけだが、泥は仮面の間にも入ってきている。
ぐにゃぐにゃと形を変えて顔も洗っており、今は顔の下半分を覆っている形だ。
この形にすることが最近は一番多いかもしれない。
町に出入りするときも、目が見えていればとりあえず衛兵たちは怪しまずに通してくれるからな。
「骨だった時なんて悲惨だったぞ。カタカタしてるだけだからな。かといって
「
「あぁ、それは俺もたまに思うが……たぶん、無理だろ」
なぜなのかは分からないが、今まで会ったことのある
俺はあの段階で結構な意識があったのに。
俺と他の
もともと人であったことか? 龍に食われたことか?
分からないな。
そもそも魔物とは一体……。
ロレーヌが色々と調べ、研究し続けてくれているし、俺も俺で足りない頭を絞って考えているが、未だに答えは出ない。
人がずっと考えて来た疑問であろう、“魔物とは何か”というものの答えを探しているのに近いのだから、当然と言えば当然だろうけどな。
ロレーヌは確かに天才だろうが、しかし、今日までそのような人物はたくさん生まれて来ただろう。
にもかかわらず、魔物についてはほとんど何も分かっていないのである。
特にその起源については……色々と説はあっても、確定だと言えるものなど何もない。
探し、考え続けるしかないのだろう。
「高位の魔物……それこそ
オーグリーはそう言ったが、これについても俺は答えなど持っていない。
いつか分かる日が来るといいんだけどな。
無理かな。
「ごめん、少し考えさせすぎたかな。ちょっとした世間話のつもりだった」
オーグリーが俺の様子が少しおかしく見えたのか、そう言って来た。
確かに考え込んだ部分はあるが、落ち込んでいるとか死にたくなったとかそういうわけではない。
ただ、生き物の不思議について思いをはせていただけだ。
「いや、俺もそうだったから気にしないでくれ。ただ、不思議だなと……」
「そうかい? なら良かったよ……そろそろ、泥もとれたかな。どうだい?」
オーグリーが回って泥がすべてとれているか俺に尋ねる。
まぁ、細身だが均整のとれた冒険者らしい体つきが見える。
問題ないだろう。
俺も同様に確認してもらい、服を着て、ロレーヌ達と約束した地点に向かった。
◆◇◆◇◆
「お互いさっぱりしたな。これで宿の亭主に文句を言われることもないだろう。さて、行くか」
合流してロレーヌがそう言った。
先ほどまでのお互いの惨状を見ているからか、なんだか新鮮であった。
帰り道は非常に気楽だった。
特に
往路では、いつ襲い掛かってこられるかとかなり気を張っていたからな。
帰り道は全く気を払わない、というわけではないが、ずっと緊張していなければならないわけでもないと分かっている。
まったくフェリシー様様だった。
このまま、村まですんなりと帰れれば気楽だったのだが、物事はそう簡単に進まないものである。
村まではもう、直進すればつく、そんな地点にまでやってきたところで、俺たちは奇妙なものを見た。
「……あれは……人でしょうか?」
フェリシーがそう言ったが、俺たちはすでに気づいていた。
俺の目には大分遠くから見えており、口にせずとも視線でロレーヌとオーグリーに伝え、その上でそれとなく道を少し変えようとしてみたりもしたのだが、なぜか向こうは俺たちの進む方向にしばらくすると現れた。
明らかに怪しい。
怪しいのは分かっているが、避けて通れないようである、ということも分かってしまった。
仕方なく、俺たちはその“人”に近づいて行っている最中だ。
フェリシーはどうしても守らなければならないので何かあると厳しいが、ここで一人で別の道を行け、とやるのも怖い。
一緒に行くのが一番安全なはずである。
そして、俺たちはその“人の”直前までたどり着いた。
どうすべきか、と思うも、方法は一つしかない。
つまりは、近寄って話しかける、である。
ローブを被った、やせぎすの腕が見えた。
老人のように見えるが……。
「……もし。もし、そこのご老人。何か難儀しているのなら、俺たちが相談に乗っても……」
そう話しかけた瞬間、俺の腹部に物凄い衝撃が襲った。
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