俺とオーグリーが近づいてくるのを敏感に察知し、
この仕草を見ると実に猫っぽいのだが、問題はその後の行動である。
魔力がしゅん、と集約する空気を感じ、そしてそれは
もちろん、ただの水ではない。
「オーグリー!」
「もちろん、分かってるよ!」
二人でそんなことを怒鳴り合い、その水の進行方向から横に飛んだ。
すると、
――ガガガッ!
という音と共に地面が削れていき、更に背後に存在する木々がその幹から縦に断ち切られ、バキバキという轟音を鳴らして倒れた。
つまり、先ほどの細長い水は、巨大なギロチンの刃だったわけだ。
人の使う魔術に当てはめれば、
それに人なら魔術を一度使うと数秒から数十秒時間を置く者が多いのだが
つまりは、次から次へと連発することが可能なのだ。
恐ろしい水の刃が、俺たちを狙っていくつも飛んでくる。
しかし、いずれも避けて、俺たちは徐々に
所詮動物に過ぎない……というと怒られそうだが、その知能は俺たちの進行方向を予測し、それをふさぐ形で魔術を放つ、というわけではないのがありがたい。
これに人間並みの知恵まであったら恐ろしい敵になっただろう。
もちろん、今の状態でも十分に恐ろしいのだが、いかに強力な魔術だろうと、命中しなければいいのである。
「……よし! 行けるぞ!」
オーグリーより俺の方が先に
そしてそのまま手を伸ばした。
もちろん、
しかし、その体が水で構成されているのに形を保っていられるのは、その体を魔力がつなぎとめているからである。
つまり、その魔力を外側に漏らさないようにしてやれば、掴むことが出来る……らしい。
らしい、とはそういう理屈を打ち立てて、実証した人が昔にいたということだ。
そのお陰で、
今回はロレーヌが製作して持っていたものを借りて俺とオーグリーが手に嵌めている。
手袋のような形だ。
それでなんとか捕まえられるなら捕まえる、というのが第一の手段だったのだが……。
「……おわっ! やっぱりだめか!」
がしっ!
と掴んだ感覚はあったのだが、残念ながらするりと捻る様にして逃げられてしまう。
ぴょんぴょん器用に跳ねて行き、逃走し始めた。
数匹いたのだが、すべてが違う方向に逃げていく。
オーグリーの近くも通ったので、彼もどうにかとっ捕まえようと手を伸ばすも、指先すらも触れずに逃げられた。
これは別にオーグリーが無能というわけではなく、
逃げてる最中も
倒すだけなら範囲魔術とか色々な方法があるのだが、捕まえると言うのは……。
だからこそ、この依頼、受ける人がいなかったんだけどな。
受けた手前、頑張らなければならない。
そもそも、俺もオーグリーも逃がしてしまったが、これはあくまで第一の手段だ。
本命は別にある。
逃げた
◇◆◇◆◇
「……何をしているんですか?」
フェリシーがロレーヌにそう話しかける。
先ほどから、ロレーヌは作業をしていて、それがどういう意味があるのか分からなかったために尋ねたのだ。
岩に囲まれた袋小路となっているその場所で、ロレーヌはその岩の数々に魔法陣を描いていた。
細かい文様なのだが、その長い指が魔力光に輝きつつ、素早く丁寧に描かれていく様は芸術的ですらある。
しかし、まだ効果が発生していないようで、何をしているのかは外側からは分からなかった。
フェリシーの疑問も最もだ、というわけだ。
ロレーヌはフェリシーに言う。
「
かなりのぐうたら発言に聞こえるロレーヌの台詞である。
彼女の言っていることに間違いは一つもないのだが、ただ言っていないことはあった。
それは、フェリシーに
やってできないこともないのだが、準備しておいた方が楽ならそちらを選ぶのがロレーヌである。
待っている時間は手持無沙汰だし、それで心配事を少しでも潰せるなら、労力をかけることを面倒くさがらない程度の甲斐性はあるのだった。
「……さて、こんなところで大丈夫かな。魔力も込め終わった。私たちは少し離れたところでレントたちのドタバタを高みの見物するとしようか」
本人たちが聞いたら憤慨するであろう台詞である。
しかしそう言ってロレーヌとフェリシーが距離がある、けれど罠を張った場所が見える地点で観察していると、物凄い勢いで駆けてくる
「待てっ! この!」
「大人しく捕まってくれ……!」
そんな声も上げている。
まさにドタバタしている、としか言えない状況であった。
けれどそんな状況も、
それでも
死んでしまったのか、と思ってしまうような光景だが、
自然に帰れば、ただの水となり、地面に染み込んでいく。
そういうものだ。
つまり、あれは生きてはいるが、気絶している、という状態なのだと分かる。
「どうにかなったな……さて、私たちもあちらに行こうか。あのままではレントたちにはどうにもできんからな。檻がなければ……」
そう言ったロレーヌの手にはいつの間にか鳥かごのような物体があった。
普通のかごでは逃げ去ってしまうことは明らかで、特殊な加工のものであることはすぐに分かる。
かごの上部と下部は装飾された外装が見え、芸術品のようなのだが、中ほどのところというか、網の部分は、先ほど
これによって、
実際、ロレーヌは気絶した
その瞬間、
魔法陣のものほど強力ではないらしいが、少し可哀想にも思える。
水の刃によって死ぬほどの攻撃を繰り出してきた魔物なのだが、やはり見た目がどうしても……。
そんなフェリシーの気持ちを顔から読み取ったのだろう。
ロレーヌが苦笑しつつ、
「……この
そう言ったので、フェリシーはなんとなくほっとしたのだった。
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