(2022年9月8日 初回放送/12月27日 再編集放送)
狂言師・野村萬斎さん。松本潤さん主演の来年の大河ドラマ「どうする家康」で、今の静岡県を拠点にした戦国大名で、家康の育ての親と言うべき存在である今川義元を演じます。撮影の合間にNHK静岡が行った単独インタビュー。「たっぷり静岡」の放送では時間の都合で盛り込めなかった言葉もできる限り掲載しています。ご覧ください。
(インタビュアー/記者・三浦佑一)
※萬斎さんの声とビジュアルは、文末の動画から!
【今川義元をどう演じる】
「よろしくお願いします」
松本潤さんと関わるシーンを演じた衣装のまま、インタビュールームに登場した野村萬斎さん。今川義元役としての意気込みから聞きました。
(記者)
「駿河、遠江、三河を支配した大名で、静岡県民の期待が非常に高いのですが、この今川義元役を演じるにあたってどのようなことを心がけていますか」
(野村萬斎さん)
「今川義元というキャラクターは諸説あるようにも聞いておりますし、以前は割合“お公家さん”に寄った、ちょっと武将ならざるようなイメージもあったようにも聞いております。けれども最近の研究を含めて、今回の今川義元は文武両道。戦国時代というのは覇道、覇権争いなわけですが、家康に対して、武をもって争うことだけでなく政治、王道を説きます。つまり家康がそののち、江戸で非常に安定した政治をする1つのコンセプトを与えるという役どころなのかなと思っております」
大河ドラマへの出演は、テレビドラマデビューとなった1994年の「花の乱」以来、29年ぶりです。
※「花の乱」や「連続テレビ小説 あぐり」の一部を動画でご覧になれます。
それ以来、数々のドラマに出演している萬斎さんですが、「どうする家康」はどんな作品になるのか。
「(脚本の)古沢良太さんの才能が光る、元康(のちの家康)という人を中心にした群像劇でもあるし、いろいろなことが複雑に絡みながらもたくましく楽しく生きて行く人間像を描いている気がしますね。そういう意味で言うと、ファミリー全員で楽しめる作りになっているのではないかと思います」
今川義元は、駿河・遠江・三河の3つの国を支配し、尾張の織田や甲斐の武田といった強国と対峙してきました。今回、萬斎さんが表現する義元像とは。
「“海道一の弓取り”っていうのが(静岡で)ご覧の方にとって今川義元のキャッチフレーズなんでしょうけども、武人で王道を説く、文武に両方ござれというスケール感を心がけたつもりです」
(記者)
「静岡県民はこの数年、かつての『織田信長にあっさりと討ち取られた軟弱な武将』というイメージを払拭して、再評価に熱心に取り組んできました。そういった期待には応えていただけそうでしょうかい」
「そうですね。人物としてはそういうふうに描こうというのが今回のコンセプトだと思っております。ただまあ(信長に)負けることは覆せないので。負けますけどね。勝ち負けよりも、やはりその後の世の中にどういう影響を与えたか、家康にどういう影響を与えたかという意味での今川義元への再評価というものを目指しているのかなという気もいたします」
【“松潤”はかわいらしい?】
幼い頃の家康を預かり、武士として育て上げた今川義元。いわば息子同然の、家康役の松本潤さんの印象は?
「元康、のちの家康との関係をどう構築していくかという時に、ある種父親的な存在という役目もすべきだなというニュアンスを(ストーリーから)感じました。松本潤さん演じる家康が、私の前の演技では非常に“コケティッシュ”というか、かわいらしいところもありますので。そういうことにも触発されながら、いいドラマにしようと演じております」
「わが子のようにやっていただいているので、こちらも父親らしくなりやすいですよね」
(記者)
「かわいらしい家康、なんですね?」
「そうですね。それは松潤の1つの魅力だと思います。実際の年齢(39歳)からするともう青年というお歳ではないと思いますけれども、非常に青年らしく演じていらっしゃるし、そこが魅力的だなと思っております」
「松潤という個性が今回は生きている、生かしてやって(演技して)いらっしゃるなという気もしますね。非常に人好きのする元康という感じがいたしますよね」
【“息子たち”との関係】
ドラマでは、今川義元の実の息子であり、溝端淳平さんが演じる氏真(うじざね)との関係性も注目です。
「溝端淳平さんの演じる氏真は、ちょっとストイックな感じで役作りされているようにも思いますし、そのストイックさを生むプレッシャーを与えてしまっているようなところもあるかなと思います。非常に集中力が高い役者さんなのでね。彼のシーンは非常に必見なのではないかと思っています」
萬斎さん自身も、長男の裕基さんを含む弟子たちを育ててきた狂言師。自分と重なる部分があるといいます。
(記者)
「ご自身もご子息を幼い頃から狂言の道に導かれてきた。それは元康を武士として導いてきた義元像と重なる部分があるんでしょうか」
「人を育てるということは、わが子に限らず弟子たちも含め本質的なものを授けていかないと伝統は曲がってしまう。義元が元康に授けるのは伝統というより良い国づくり。理想国家を説くことなのかなと漠然と思っておりますけども」
「溝端淳平さんの氏真役と、松本潤さん演じる元康との関係というのも今回のドラマの1つの見どころだと思います。それに対する義元という位置は、確かに私も息子を含めて一門を教えていく立場になってくるとそれぞれの教え方、もちろん変わらず芸を教えるというのはありますけれども、わが子に厳しい時もあれば、お弟子に厳しい時もある。シチュエーションというかケースバイケースではありますけれども、もしかしたらやはり息子のほうに厳しくなるということの方が大きいような気もしますね」
「そういう意味では、今回溝端さんとの関係性というのは、厳しい父親とその重圧に苦悩する息子。かたや元康という、才能が重宝されたり(氏真の脳裏に)ちらついたりというところもドラマの必見のところなのではないかと思います」
【静岡への愛着】
先月、静岡市で開いた狂言の舞台。この市民文化会館だけでもことし2回目です。静岡には愛着があるといいます。
「静岡広いですからね。海あり山あり川あり谷ありですね。各地それぞれの良さ、もちろん温泉もありますし。修善寺にはあさば旅館という能舞台がある所もあれば、熱海にはMOA美術館の中に能舞台があり、ご縁があります」
「静岡は(能楽の)観世宗家が非常にゆかりがあり、浜松は隔年で大きな会をさせていただいています。磐田はこの間文化会館のこけら落としをしましたね」
「焼津はお酒がおいしいですね。浜松でロケをした時にギョーザとうなぎを頂戴しましたよ。ほかにも御殿場とか三島とか。本当に私、静岡、掛川も含めていろんな所を回っておりますので、非常に愛着がございます」
「どちらかというと伊豆半島のほうによく行くことが多いですね。今それこそ『鎌倉殿の13人』も含めた鎌倉幕府時代の武将にちなんだ町があって、そこに関係する能や狂言も多いのでね。そういう地方地方の都市の歴史と含めていろいろ楽しめると、いて時間が豊かになるんじゃないかなという気がしますよね」
(記者)
「富士山については?」
「移動中にとにかくよく見ますよ。三島から新富士にかけてですかね。やっぱりあれだけ単独の山が大きくそびえ立っている姿にいつも心打たれますよね」
最後に、静岡県の視聴者にメッセージを。
「このたび『どうする家康』で静岡県ゆかりの今川義元を演じさせていただきました。いろいろな解釈があるようですけれども、今回は武人として、また政治家として、家康に理想の豊かな国を説く、王道を説くというところでございます。ぜひそういう今川義元像を楽しみいただきたいと思います」
静岡のこととってもよくご存じで、うれしいですね。ドラマのシーンはまだお見せできないのですが、撮影現場の野村萬斎さんはこのインタビューの雰囲気以上に威厳のある今川義元を演じていました。
浜松が主な舞台になった「おんな城主直虎」では、静岡市出身の春風亭昇太さんが演じた言葉を発しない今川義元の存在感が話題になりましたが、野村萬斎さんによる義元にも注目ですね。松本潤さんとのシーンも楽しみです!
【動画(2022年12月27日 ドラマ初回直前版に更新)】
※12月27日「たっぷり静岡」の放送から一部の映像をカットしています。