長らくお待たせして申し訳ありません。
俺が『対将輝&真紅郎』のための行動と、ここまで『とっておき』として隠してきた俺の能力……まあ達也にはバラしたが、俺の特殊な聴覚。そして、その聴覚を応用することで生まれた、俺だけが使える能力。それを打ち明けると共に簡単に証明となる動作をしてみたところ……。
「……お前、現代どころか古式を含めたあらゆる魔法に関連する現代社会に真っ向から喧嘩売ってるぞ」
「流石に僕もこんなのは想定してなかったよ……え、嘘じゃないよね?」
「マジだぜ。なんならお前のでやってやろうか?」
「マジでやめて」
あら、拒否されちゃった。まあ必要に駆られればやるが。
「……だが、八幡のその力を利用すれば戦略のパターンは飛躍的に増加する。もっと早く言えそういうことは」
「ごめーんちゃい☆」
「肋折っとくか?」
「折っとこうか」
「いやマジですんません……」
怖ぇよ。脅しの入れ方が怖ぇよ。
「……さて、改めてフォーメーションの再確認だ。俺が一条を相手して、八幡が吉祥寺を。そして幹比古が最後の一人を相手取るが、あくまで足止め程度で基本的には俺と八幡の援護。……そして、八幡が『条件』を満たしたら俺と幹比古が合流して速攻で落とし、
「普通は無理だが……お前らがいるなら余裕だ」
俺のその言葉に、示し合わせたかのように笑う達也と幹比古。──────さて。
一方そのころ、三高の天幕にて。他の選手らは歓声を上げ、祝勝ムードになる者が一定数いた。なにせ出場選手には中遠距離で広範囲の面制圧が可能な将輝と、視界全てが射程範囲な真紅郎がいる。しかもステージはその二人の魔法が活きる『草原ステージ』である。しかし、周囲の反応に反して当の本人である将輝と真紅郎はさほど上機嫌ではなかった。
「……問題は相手の出方、だな」
「司波達也に関しては、二高との試合での攪乱が殆ど封じられている。今回は遮蔽物が少ない……というより、殆どないステージだからね。そして彼には『
その言葉に将輝はしばし考え込み、数秒してから口を開いた。
「なら、向こうは司波達也を間違いなく俺にぶつけてくるだろう。そして八幡を真紅郎にぶつけてくる、ってところか。何せ真紅郎の魔法は互いの距離を無視した直接干渉だ。『術式解体』の性質を考えれば、真紅郎にとっては奴との相性は最高だ」
「だったら……」
「ああ。
そうして達也と幹比古の分析を終えた二人。……しかし。
「……なんだけどなぁ」
「八幡がマジで分からない」
徹頭徹尾ふざけ倒してる
「アレ間違いなく手の内晒し切ってないだろ?」
「本気でやり合っていたと断言出来るのも、二高の葉山隼人との衝突と『氷倒し』での将輝との一戦くらいだ。しかもその二つも『間違いなく本気だった』というだけで、持てる手段全てを使った『全力』とは言い切れない」
「開けてびっくり玉手箱って感じ。但し出てくるのは老化ガスじゃなくて笑気ガスと催涙ガスと毒ガスの混合最悪ガス」
「ヤッターワンの『今週のビックリドッキリメカ』が毎回十種類くらい同時に出てくる気分。何で俺らがドロンボー一味なんだよ」
「搦手を後出しで先にかませるから余計タチが悪い」
「ジャンケンしてるのにこっちはグーチョキパーの三つしかないのに向こうは出せる手が数十個あって、相手の出す手を読み切って有利な手を相手が倒れるまで出さなきゃいけないクソ相手」
「めっちゃ言うじゃん」
堪らずツッコミを入れる三高の生徒。名前呼びするほどの親交なのに実家に放火された相手に対してでもないと言わないくらいのこき下ろしだった。
「……それでも、『モノリス・コード』の優勝は譲れない。ただでさえ『氷倒し』新人戦の優勝を将輝が逃して」
「ごめんて」
「挙句一高が決勝進出したことで新人戦全体の優勝まで奪われたんだ。最後の勝ちまでは譲れない。……そうだろう、
「……ああ、そうだな。勝つぞ、
主役は揃った。故に、決戦の時は来た。新人最強のチームがどちらか、決めようか。
試合会場である『草原ステージ』に到着した俺たち。しかし、俺たち三人はモノリス・コードの際に選手がつける装備だけでなく、一人一セットずつローブとマントのようなものを身につけていた。それを翻しながら、俺は達也がこの衣装を持ってきた時のことを思い返す。何せ結構特徴的な代物だからな。俺たち三人が取りに行った時に、色々気になったらしい先輩方が勢揃いだった。
「これには着用した者の魔法が掛かりやすくなる補助効果がある魔法陣を組み込んでいます。勿論後でデバイスに違法性がないかのチェックは受けますが……まあ、問題ない範囲に収めているので大丈夫でしょう。二人とも、着け心地はどうだ?」
「悪かねぇな。気分はウルトラ六兄弟だ」
「別にブラザーズマントじゃないんだがな。これ黒だぞ」
「……気のせいか、精霊が多く集まってきている気がする」
「ああ。事実、幹比古の精霊魔法を補助する役割を付けているからな。せっかく決勝のために幹比古も色々とやってくれたんだ。こちらとしてもお膳立てはするさ」
「……気付いてたのか」
幹比古曰く、霊脈や龍脈と呼ばれる地球のエネルギーラインの中でも日本においては最高峰のパワースポット、エネルギー溜りである霊峰富士山の息吹を浴びてきたらしい。道理で心做しか感じる音も強いわけだ。っつーか精霊集まってくるとヤバいな。金属音に酷似した音や木々のざわめき、水の流れる音とかが入り交じって気持ち悪くなってくる。
「そして、もう一つ。吉祥寺真紅郎の『不可視の弾丸』対策です」
「確か……『加重系統プラスコード』による、対象への『直接干渉』だっけ?」
「ああ。……八幡、マントに硬化魔法を使ってみてくれ」
「おう」
達也にそう答えて、硬化魔法を施す。すると風に靡くマントは、瞬く間にシワひとつなくピンと広がった『盾』になった。
「『不可視の弾丸』の弱点は、『対象を直接視認しなければならないこと』です。逆に言えば、普段はマントとして纏って状況に応じて相手の視線を遮る『取り回しのいい盾』があれば……」
「魔法は届かない……ってこと?」
会長の言葉に頷く達也。……にしても。
「達也、もしかしてこれって魔法の行使に反応して形状変化するように仕込んでんのか?形状記憶合金のように、魔法が掛けられたら指定の形に変形するように予め取り決められてるみたいだが」
「その通り。これで、万が一吉祥寺が遠距離からの『不可視の弾丸』による狙撃に徹して来てマントを構える余裕がなくとも硬化魔法を使うだけで盾が展開出来る」
「天才かな?」
「大したことじゃないさ」
ってなわけで用意されたコートとローブを纏い、黒魔術の術師のような装いをする達也と幹比古に対して、ローブを纏いこそするも頭まで覆わず、コートも左手に持っている俺。
さっきエリカからのメッセージが来たが、これが本日最後の試合ということで観客が大集合した結果席がパンクしているらしい。なんとか全員座れたけど人多すぎってキレ散らかしてた。いや俺に言われても。後俺らの格好に爆笑してた。ぶっ飛ばすぞ。
さて、後1分で試合開始だ。どう突っ込むかだが……そうだな。
「幹比古、ちょっと頼めるか?」
俺はそう言って、幹比古に耳打ちをする。
「何だい?……なるほど。それなら問題なく可能だよ。開始と同時に景気付けに一発デカいのかまそうか」
「程々にしてね?」
下手すると俺吹き飛んじゃうから。
一方その頃。会場の一部分……来賓席は大騒ぎだった。
というのも、その来賓席に思いがけない来訪者が
「く、九島先生!このようなところに、どうされましたか!?」
本来であれば大会本部VIPルームに設置されたモニターで観戦しているはずの『トリック・スター』、九島烈が突如姿を見せたのだ。
「何、偶にはモニター越しではなく生で見るのも乙というものだ。……それに、今回は特別なのでな」
烈のその言葉に首を傾げるスタッフ。しかし、烈が連れてきたその『来訪者』を視界に入れて、その場にいたスタッフも、既に来賓席にいた要人も……烈を除いた全員が、言葉を失った。
「
「はい。予定時間ですと、後5分で試合開始時刻になります。……にしても、何故邸宅ではなく会場まで?」
「……仕方ないじゃない。妹……
現れた来訪者。……それは、
「……四葉、深夜様!?」
『
選手らの預かり知らぬ場所で騒動が起きながらも、時間は進み──────試合開始の合図が、フィールドに鳴り響いた。
「幹比古」
「ああ!」
試合開始と同時に、俺は『
達也がこの決勝戦まで隠しておいた『CADの同時使用』による二丁拳銃で将輝との撃ち合いを始めるのを視界の端に留めながら、足に力を込めて跳躍。そして、左手に持っていたマントに硬化魔法をかける!
「『旋翔』!」
任意の範囲の気圧を意図的に低下させることで、擬似的に台風の如き突風を生み出す精霊魔法『旋翔』。幹比古がそれを行使した次の瞬間、猛烈な風が吹き上がり、硬化魔法が施されたマントに直撃。それにより大きな揚力が発生し俺は地上30m近くまで押し上げられる。
「っし、サンキュー幹比古!」
「ああ、一気に突っ込め!」
体をひねり、硬化したマント……もとい、即席のグライダーに飛び乗る俺。硬化魔法を自分に行使し、グライダーとの相対位置を固定。転落しないようにする。ま、『バトル・ボード』で渡辺先輩がやってたのと同じだ。この高さならある程度気流もはっきりしてるからな。それに魔法でちょちょいと干渉し、一気に三高のモノリスへと向かう。……だが、呑気に通すほどあの二人は甘くない!
「──────ッ!」
身をひねり、波に乗るかのようにグライダーを動かす。その瞬間、グライダー……正確には
「撃てるもんなら撃ってみな、容易く撃ち抜かせねぇがなッ!」
「……なるほど。あのマントは僕の『
そう呟いたのは、地上から上空にいる八幡を狙い撃とうとしている真紅郎だった。『バトル・ボード』で一高の渡辺摩利が見せた巧みなボード操作程ではないが、見る者に確かにそれを彷彿とさせる操作でモノリスへと向かう八幡を視界に入れ、真紅郎は微かに舌打ちをする。
「性格からして、『コレ』は彼の仕込みではないでしょう。……となると、司波達也の仕業ですか」
奇想天外なやり方で出し抜く八幡と、想定外のやり方で穴を突く達也。スタンスもやり方も思考ルーティンも違いながら、こちらの手を確実に封じて上回ってくるその力量に舌を巻く真紅郎。……しかし。
「だからこそ、乗り越え甲斐がある!」
『天才』と呼ばれようと、まだまだ若い15,6歳の男子高校生。高い壁ほど越えたくなる、どこに出しても恥ずかしくない立派な男の子だった。
「(──────おそらく、向こうはこちらの攻撃タイミングを理解している。いや、テンポなどを把握しているわけじゃないだろう。……多分、視覚か聴覚を強化して『予備動作』を探知した瞬間に防御の態勢に入っているんだ)」
その予想は大当たりであった。八幡は起動式や魔法式を聞き取る聴覚を利用し、真紅郎が起動式を展開した時にグライダーの陰に隠れて直撃を回避していた。
「(……このままではモノリスまで辿り着かれる。ならば、一か八かでやるしかない!)」
そう考えた真紅郎は、自らの愛機である拳銃型CADを握り直し、銃身を八幡へと向ける。
……ここで、唐突だがCADを利用した魔法の行使過程についておさらいしよう。
まず、魔法師がCADに想子の波を送信し、CAD内部に組み込まれた感応石が受信した想子の波を電気信号に変換。そしてCADに事前に圧縮保存する形で登録してあった起動式を電気信号として出力。そして想子の波を電気信号に変換していた感応石が、今度は逆に電気信号を想子の波に変換する。
そして想子の波となった起動式を、想子に高い伝導性を持つ肉体を経由して魔法師が受信。脳機能のブラックボックスとも言われている魔法演算領域で起動式を読み込み、起動式が魔法式になるのに必要な欠落部分、つまり変数を代入する部分に座標や出力などを定義し入力。
そして魔法演算領域内で起動式によって定義されている手順の通りに魔法式を組み上げ、無意識領域の最上層『ルート』と無意識と意識の狭間『ゲート』を経由して外部情報世界……すなわち、『物理的世界の情報』を内包する『情報的世界』とも言える代物『イデア』へ魔法式を投射。そして投射された魔法式が『
今回真紅郎が八幡を地に叩き落とすために取ったのは、『時間差の代入』。変数を入力する際に、銃型のCADの銃身を八幡に向けることで『表面上の照準』を合わせながら、魔法式そのものは『出力だけ』を入力して構築。そして
「バカ正直に撃つだけじゃ効かねえぜ、そらよっと」
真紅郎の攻撃を、再び身をひねりグライダーで防御する。鈍い音が二、三度響くが、姿勢制御でその揺れを抑えて凌ぐ。ん、また撃って来たか──────っ、マジか!?
「うおわっ!?」
確かにグライダーでその身を隠した。だが……真紅郎は、初めから俺を狙ってはいなかった。そう、狙ったのは──────。
「俺の
しかも端っこ、相当の出力でぶち込みやがった!てこの原理のようにバランスを取っていたのが、急に端にデカい力を加えられたら否が応でもバランスが崩れる。……しかも。
「──────っ、うっぜぇなあっ!」
態勢を建て直そうとするも、追撃の『不可視の弾丸』によりただでさえ崩れたバランスが徹底的に崩される。やむなく俺は硬化魔法を解除、同時に再行使することで盾にしながら加重魔法で慣性を操作。落下速度を軽減して無事に着地した。
「……さーて、どーすっかな」
目算で約150m。一高の初期地点と三高の初期地点の直線距離が約600mなのを考えると、そこそこの速度を出していたとはいえ四分の三詰められたのは僥倖だ。……達也たちはどうしてるかな。
一方その頃、達也は拳銃型CADを二機同時使用する二丁拳銃スタイルで、将輝は発動速度を上げた特化型の拳銃型CADで撃ち合いを繰り広げていた。しかし、諸事情で持って来たCADのスペックでは高い威力を出せない達也は『術式解体』という初動が遅れてもどうにか間に合わせられる魔法で将輝の猛攻を凌ぐしかなかった。
将輝に充分なダメージを与えるには発動速度が足りず、発動速度を優先させれば威力が足りない。達也が
しかし、十師族相手に防戦一方であるとはいえここまで持ち堪えられる高校生が一体どれほどいるだろうか。達也のことを『一科生に劣る無能な二科生』としてしか見ていなかった一科生は、数百m……実弾銃であれば
「……これ以上の接近は、流石に厳しいか」
この一戦における達也の役割は、『比企谷八幡が全ての手札を揃え終えるまで耐え凌ぐこと』。ならば、達也の技量を持ってすれば衆人環視の中で使える手札でも充分である。達也はその場で立ち止まり、将輝の猛攻を捌き切ることに専念し始めた。
一方、達也に対して攻撃を続ける将輝は焦っていた。……何故なら。
「(……
そう心に決め、改めて進軍を開始する将輝。それに対しこれ以上の接近はさせたくない達也による攻撃がなされるも、魔法師が無意識に自らに施している情報強化で防げてしまう程度のもの。意にも介さず進撃を続ける将輝に、微かに汗をかきながら達也は独りごちた。
「(……さっさとしろ、八幡。お前の手札が揃えば、
更に一方、幹比古は将輝の予想に反して攻勢に出ていた。というのも、達也の改良によって発動速度が大きく改善されたことで本来ならばそこそこの時間をかけなければ行使出来なかった魔法も短時間での行使が可能になった。そのお陰で──────。
「とっくに、難攻不落の砦は出来上がってる!」
幹比古が構築した『砦』。幹比古により提供された古式魔法と精霊魔法の知識を使い、一高でも屈指の頭脳を持つ達也と性格の悪さでは随一の八幡によって編み出された『多重複合古式防衛魔法』。その名も……。
「『塞皇ノ砦』ッ!」
コンセプトは『攻守の過剰両立』。下手に近付けば精霊魔法による雷撃や水流、土砂が降り注ぎ、それを突破しても罠により足止めを喰らい、動きが止まったところを全方位から袋叩きにされる。それ故に出し抜かれてモノリスへと突貫されようと、自己加速術式なしでも充分追いつけるほどに手間をかけさせられる。基本的に『大体のことは過剰にやらかした挙句基本反省しない』八幡と『適度と適当は違う』と理解している達也が深夜テンションで作り上げ、朝起きて見直したら二人揃って『流石にやりすぎたのでは……?』と頭を抱えた傑作にして問題作である。ちなみに幹比古は魔法式を見た時に『この二人本気で頭おかしいんじゃないかな』と疑ったとか何とか。
まあそれはともかくとして。チームメイト二人が組み上げた信頼出来る魔法を行使したからこそ安心して幹比古は攻めに出られる。三高の選手と向かい合い、相手の攻撃を防ぎながら五行の属性の波状攻撃で相手を封殺する。流石に重傷を負わせるものの多い『火』や『金』は直接行使こそ出来ないが、二高との試合で八幡がやったように『泥に沈めて乾燥させて拘束』、更に『植物の根を操り張らせることで強度を引き上げる』など、自然を利用する精霊魔法だからこそ出来る手段で相手を翻弄し続ける。そして──────ついに、手札が揃った。
時間は少し戻り、八幡が真紅郎によって地面に引きずり降ろされた直後。八幡はマントの盾の後ろに隠れながら、これからの方針を思案していた。
「下手に飛び出た瞬間ぶち抜いてくるだろうからなぁ……とりあえず盾持って突貫するか?」
そんな頭の悪そうな案を出し……即座に却下する八幡。本来なら有効ではあるが、
「やっぱやることは変わんねぇか──────相手の攻撃に合わせて防御の基本突撃!」
──────頭の悪そうな度合いは余り変わらなかった。
「……っ、来るか!」
真っ向からの突撃、だがそのシンプルな行動に全てのリソースを注ぎ込んでくることこそが何よりも恐ろしい。『不可視の弾丸』を行使し、足止めを図る真紅郎。……しかし。
「……防がれるか。なら!」
『不可視の弾丸』だけでなく、他の魔法を織り交ぜて攻撃を行う。それに対して八幡は、『不可視の弾丸』のみをピンポイントで防御し、他の攻撃は体捌きで回避することで突破していく。
「……残り、2ってとこか」
そう呟く八幡。その不穏な言葉は真紅郎には届かなかったが……もし届いていたら、勝敗は変わっていたのかもしれない。
「……っ、これ以上は行かせない!『
すぐさま硬化魔法を施したマントの盾で遮り、真紅郎の一撃を防ぐ八幡。……しかし、真紅郎は『不可視の弾丸』を先程とはまた別の形で応用して八幡の防御を突破していた。
そもそも『不可視の弾丸』とは、『作用点に直接圧力をかける』魔法である。それ故に『作用点を視認する必要こそある』ものの、逆に言えば『
「っ、弾かれ──────」
圧力を一点に
「確実に仕留める!『不可視の弾丸』ッ!」
防御は間に合わない。盾のパリィにより崩れた態勢では、防御も回避も迎撃も──────あらゆる対抗手段が手遅れであった。そして、その不可視の一撃は。
「────────────」
比企谷八幡の左肩を、確かに撃ち抜いた。
あーーーーー……………ゲロ痛ぇ。めっちゃ痛ぇ。全部すっ飛ばして肩ぶち抜かれんのって超痛ぇね。正直叫んで転げ回りたい。あの野郎大出力でぶち込みやがったな。……さて。これで手札は揃った。
俺はぶち抜かれたせいで外れた肩を嵌め込み、痛みに顔を顰めながらも立ち上がる。
「散々な目に合わせやがってこの野郎。だが……こっからが、逆襲タイムだ」
俺はそう叫びながら、右手を銃の形にして人差し指・中指を真紅郎へと向ける。
「ぶちかませ──────『不可視の弾丸』」
『加重系統プラスコード』による直接加重の一撃が、真紅郎の右肩を撃ち抜いた。