長田(猫舌)のblog

主にギターアンプの解析、回路図の採取と公開を行っております。 回路図の公開は自身で読み取った回路図に限っており、主に国産のアンプを対象にしています。修理やメンテナンスなどにご利用ください。ただし公開している回路図は無保証です。内容の正確性には万全の注意を払っておりますが、誤記入や誤解の可能性は免れません。本サイトで公開している回路図によって生じた事故や損害については一切責任を負いかねますのでご了承願います。 また、電子回路とくに真空管に関する高電圧回路を取り扱っています。電子回路の知識や経験がない方が同様の作業をすると感電により生命に危険を及ぼすことがあります。同様な作業を行って生じた事故・傷害に対して当方は一切責任を負いません。

カテゴリ: HILLWOOD/Firstman

ではシャーシを開けてみます。
キャビネット上部のネジを4点取り外すと容易に回路にアクセスできます。

DSC04515A

リバーブが目に付きます。
HOKUSEI DENKI のシングルスプリングのリバーブユニットです。
リバーブの裏に検査証があります。昭和55年11月のスタンプが
あるので、これが製造年月であると判断しました。
またリバーブ裏に放熱用アルミ板があり、終段トランジスタの
2SD812 と 2SB747 が取り付けられています。

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メイン基板 PA-5R の半田面。

DSC04518B

"AIDEAN" の文字。これから AIDEAN の OEM 製品であることがわかりました。
そういえばリバーブの裏にあった検査証は AIDEAN の製品、
ZOOM MESIA M-40FORWARD FX-600 についていたものと同じです。
また検査証の検査係お二人の名前も一致しています。
あ〜。こりゃ確実だね。このアンプは AIDEAN で製造したものです。

AIDEAN はスピーカーメーカーの AIDEN が楽器用アンプを製造するために
作った会社のようで、OEM で製品を提供していたようです。
ZOOM MESIA がフェルナンデス、FORWARD がウエキ楽器の販売網で
供給されていました。おそらくこの FG シリーズも HILLWOOD への
OEM で販売されていたのでしょう。

関連する情報がこのサイトにあります。

https://www.soundhouse.co.jp/contents/staff-blog/index?post=2103


余談ですが、Jugg Box JBX-Jr30 が日本ハモンドの製造ではなく OEM では
ないかと個人的にずっと疑念をもっておりました。密かに AIDEAN の OEM かなと
思っていたのですが、今回の FG-40 の例を見て AIDEAN ではなさそうだと
考えるようになりました。少なくとも JBX-Jr30 には検査証はなかったし、
AIDEAN の特徴的な配線方法とも異なるようです。

閑話休題。
FG-40 のメイン基板の部品面。
DSC04528D

ディスクリート構成です。OP アンプは使っていません。
HILLWOOD としての先発の 313GAと同様にディスクリートですが、
回路構成は ZOOM MESIA M-40 によく似た構成になっています。
やはり OEM か。

電源+パワーアンプ 基板 MA-11
DSC04530E

パワーアンプもディスクリートで構成されています。

DSC04532F

半田面にやはり "AIDEAN" の文字。
パワーアンプの回路構成はディスクリートで HILLWOOD 313GA と
同様なものになっています。

この個体は故障箇所もなく、あまり使った形跡もなかったのでメンテナンスする
前に組み立て直して音だししてみました。
電解コンデンサもあまり劣化していなかったのか、張りのある元気な
音が飛び出しました。高音寄りの設定なのかシングルコイルだと硬めな音になります。
おそらくスピーカーも AIDEN のものなのでしょう。すでになくなってしまった
メーカーなので情報が乏しいですが、興味が湧いてきました。

さて詳細を見ていくことにします。

入力ジャックは HIGH と LOW の2つ、コントロールはシャーシ上面に左から
LEVEL, TREBLE, MIDDLE, BASS, REVERB, MASTER。
至ってオーソドックスなものです。

背面。

DSC04504A

AC ケーブルの横に GND 端子があるのが珍しい。実用性は疑問ですが。
その横に AC アウトレット。80 年代以降はこれがついているアンプの方が
珍しくなってしまいました。
ジャック類は左から EXT. SP, HEADPHONE, MAIN IN, LINE OUT, 
REVERB フットスイッチ。
LINE OUT は "SEND", MAIN IN は "RETURN" です。


DSC04505D

製造はヒルウッド楽器製造。
ただ当時の雑誌広告(ロッキンf 1980年10月号)では
「ファーストマン・コーポレーション」が販売元になっています。

DSC04510E
スピーカーはちょっと独特。あまり見かけない形状です。

DSC04512F

スピーカーの下に電源トランス(カバー付き)が配置されており、
上部のシャーシと6pin のコネクタで接続されています。

ヒルウッド楽器製造の Firstman Little David FG-40 です。
DSC04500A

シャーシがキャビネットに鎮座する独特の外見です。
1980年(昭和55年) に発売されたモデルで、1980年11月に製造された
個体です。

ファーストマンといえば GS 期にギターやアンプを製造したメーカー(ブランド?)
で、森岡一夫氏が社長をしていました。

ファーストマンはのちに廃業、次に森岡氏はヒルウッドを立ち上げたと
理解しているのですが、森岡氏のWeb ページがプロバイダのサービス終了に
伴い(2022年3月)見ることができず、確認できなくなっています。
いずれにせよ、ヒルウッドの製品としてファーストマンの名称を使っているので
ファーストマンとヒルウッドは関連が深いことは明白ではあります。

20230116 追記
ファーストマンは1967年創業、1970年にヒルウッド楽器に名称変更。
1977年にブランド名として再度 "ファーストマン" を名乗るように
なったようです。

本 Blog ではこれまで両社を別ブランドとしておりましたが、
これを機に両社のカテゴリーを "HILLWOOD/Firstman" に統合することにします。


立東社ロッキンf 別冊「THE 楽器 1981」に仕様が掲載されていたので
抜粋します。

--- ここから ---
ファーストマン / FG-40
¥ 46,000

ガッチリとしたボックスに、25cm スピーカー
を一基マウント。パワーは40W。リバーブ・
オン / オフ・フット・スイッチ付き。
パワー:40W
スピーカー:25 cm x 1
インプット:メイン・アンプ in,
アウトプット:ライン・アウト, ヘッドフォン, 外部スピーカー
フットスイッチ:リバーブ・オン / オフ
コントロール:マスター、ベース、ミドル、トレブル、レベル、リバーブ
サイズ: 300W x 270H x 150D mm
重量: 9 kg  
--- ここまで --- 

313GA のメンテナンスは終了したのですが、リバーブの効きが悪いという
問題が残っています。

リバーブのノブを上げてキャビネットを(ちょっと強めに)叩くと
リバーブのスプリングが ”グワシャン”という音がスピーカーから
聞こえるのでリバーブユニットの出力側の回路は正常そうです。

ということで、リバーブユニットの入力側の回路に問題があると
あたりを付けて回路を見ていくことにします。
考えられるのはリバーブドライブ回路の能動素子 Q105 (2SC536) か
Q106  (2SD317) が壊れているのではないかということ。

メンテナンスがほぼ終わり、全ての電解コンデンサを交換した状態です。
DSC01267A

リバーブユニットへのシールド線(入力、出力)2本はプリアンプ基板に
直付けでしたが、長さに余裕がなくメンテナンス作業に不都合だったので
写真左上のようにラグ板を設けて中継することにしました。

リバーブへの入力回路はプリアンプ基板左下の部分。16C0 と表示がある
インピーダンス変換トランスの周辺から縦に3本並ぶ抵抗(220, 100k, 22k)と
黒いトランジスタ(2SC536)のあたりが該当します。

回路が正しく動作しているかを確認するにはオシロスコープとファンクション
ジェネレータを使います。ギターアンプの入力にファンクションジェネレータからの
信号(1kHz に設定)を入れ、リバーブユニットの入力につながるシールド線の
電圧をオシロで観察。うむむ。信号が出てないね。回路図からすると
アンプ入力からの信号は1段増幅されたあと、VOLUME などの音量調節を
通らずにリバーブドライブ回路を経てリバーブユニットの入力に達します。
なのでVOLUME や MASTER を絞っていてもここには一定の大きさの信号が
出ていないとおかしい。
次に Q105 2SC536 のベースの信号をオシロで見ます。きれいな正弦波が
出ています。ということはここまでは正常。 
Q106 2SD317 のコレクタの波形を見てみます。R133 300Ωの抵抗の一端に
プローブを繋いで.... おや、ここも正常ですね。実際には歪んでいて矩形波に
近いクリップされた電圧波形ですが、リバーブをドライブするには充分な
電圧が出ています。

となると、怪しいのはインピーダンス変換トランス。
DSC01268B

トランスを基板から外し、一次側、2次側それぞれの導通をテスターで
確認します。一次側OK。2次側の測定に手間取りました。なかなか抵抗値が
出ない。リードの表面が劣化しているようです。そういえばこのリードに
シールド線を半田付けするのに結構手間取ったことを思い出しました。
今度は入念にシールド線を半田づけし、導通を確認して再度テスト。

リバーブが効き始めました。原因はこれかぁ。

リバーブは動作し始めましたが、スプリング1本のリバーブのためか
奥行きのない単調なリバーブです。ちょっとがっかり。
アンプ自体としてはこれまで扱ってきた ELK のアンプ(FS-41など) に
似てクリーンで存在感のある音が出ています。
MASTER があることからある程度歪みを作ることも考慮に入れていた
のでしょうが、シングルコイルではなかなか歪みません。
この時期のアンプとしてはこんなものでしょう。

アンプ本体には製造年の記述は一切ないのですが、AC コードには1977 の
印刷がありました。

リバーブの周辺をみることにします。

背面下部のパネルのネジ留めを4箇所外すと黒いプラスチックカバーに
覆われたリバーブユニットが現れます。
DSC01231A
タッカーで3点留められています。スピーカー側も何箇所かタッカーで
留められていますが、手前の3点を外す方が修復も簡単そうです。
この3点をラジオペンチで力任せに引き抜きます。

DSC01234B

横置きですね。リバーブユニットの下のクリーム色(変色してますが)は
衝撃吸収用のスポンジです。
思ったより小さなユニットです。スプリングは1本のみです。
隙間から覗いてみました。
DSC01236C

現時点でメンテナンスは終了し全体的に正常に動作しておりますが、
リバーブがとても薄い。REVERB を 10, MASTER を 10 に設定して
やっと効いているのがわかるくらい。
ボディを叩くとスプリングが揺れる音がするので、リバーブユニットと
出力側の動作は正常そうです。出力側の回路図を見るとリバーブポット
(10kB) に直列に 56kΩ の抵抗が接続されており、レベルを強制的に
下げていることがわかります。とりあえずこの 56kΩを短絡してみると
リバーブのレベルが若干上がります。ところがすべてのコントロールを
10 にした時にリバーブ経由でハウリングが生じます。なので安全のため
この抵抗は必要であることがわかりました。
いまのところリバーブの入力側の回路がゲイン不足に陥っていることが
考えられます。リバーブについてはもう少し手をいれるべきでしょう。

HILLWOOD は 70年代後期から80年代にかけて存在した国内の楽器メーカーで
主にシンセサイザーなどの電子楽器を販売していました。
この時期に製造されたアンプの例に漏れず、 Mesa Boogie によく似た外観です。

HILLWOOD のアンプに関してはカタログを含め、私は一切資料を持っていません。
ネットで検索しても資料は皆無。おそらくこの記事が役に立つと思う人は
ほぼいないとは思いますが、微力ながら記録に残すことにします。

前面操作部を示します。
DSC01209B

入力1(H), 2(L), VOLUME, MASTER, TREBLE, MIDDLE, BASS, REVERB が
並びます。
ノブはおそらく TOYA 製。 Jugg Box や ELK の同時期の製品によく使われる
偶数のみ表示(奇数はドット)のスカートノブ。Jugg Box のものに比べると
数字がひとまわり小さいようです。もうメーカーも存在しないようで、
手に入りません。Jugg Box のメンテナンスではよく Fender のスカートノブで
代替するのですが、すべてのノブを揃えることになるのでちょっとお高くなります。
とりあえずこの個体のノブは大きなダメージがないので、洗浄して使い続ける
ことにします。

DSC01207C
前面操作部右側は HEADPHONE, POWER SW, LED が並んでいます。
POWER SW は GROUND 切り替えを兼ねています。

バックパネルを外した背面。
DSC01212D

ヒューズ(2A) だけしか背面にはありません。
スピーカーは松下製。30cm (12inch)  EAS-30P09SF  8Ω。
出力は不明。

DSC01213E

底面にリバーブが配置されていますが、写真に見えているのは
プラスチックフィルム(黒色)のカバーで、これがタッカーで留められて
います。中を覗くためにはタッカーを外さなければならず、とりあえず
このままにしています。

シャーシの中を示します。
DSC01221F

 この写真を撮影する前に、キャビネットから分離するためにリバーブ関連の
2本のシールド線を切っています。まあまあ長めのシールド線なのですが、
シャーシの中を操作するには邪魔になる長さ。作業後の復旧では接続箇所を
忘れないようにしなければなりません。

電源部。
DSC01225G
電源トランスはシンプル。二次側は 16V の巻線2つとセンタータップの 0V。
写真中央部にあるのがダイオードブリッジなのですが、2つのハーフブリッジで
構成されています。パッケージが黒(カソードコモン)と茶色(アノードコモン)で
区別されていますが、型名はどちらも S2VC です。紛らわしい。
この2つはリードが銀メッキだったようで、硫化して黒くなってしまっています。
新しいダイオードブリッジに交換しようと思っています。

DSC01223H
これはプリアンプ部とパワーアンプ部。

プリアンプをアップにします。
DSC01226J

ポット類はすべて 16mm Φ。プリアンプ基板から黄色いワイヤで繋がれて
います。これはメンテナンスが簡単そう。

パワーアンプ部のアップ。
DSC01227K

左に見えるヒューズはスピーカーヒューズ 3A。
特筆すべきは基板中央上部にある5本足のトランジスタ 2SA798。
エミッタコモンの2本組 PNP トランジスタ。おそらくもう手に入らない
だろうなぁ、と思っていましたが若松通商に在庫がありますねぇ。
これもリードが硫化しています。でもこれは交換せずに使うことにします。

DSC01228L

パワーアンプ裏の放熱フィンに 2SC716 が2つ搭載されています。
写真に写っているのはラグ板を介して 2SC716 と熱結合されている
ダイオード D202。ダイオードの型式がわかりません。
 D201 と D202 のふたつのダイオードが直列に接続されていますが、
熱結合されているのはこの D202 だけ。接着剤で固定されています。

1980年前後の国産メーカー HILLWOOD のギターアンプ 313GA の
回路図を採取したので公開します。

DSC01206A

回路図
20210421 初出
20210421-1 誤り訂正
20210422 電源部:Q206 訂正
プリアンプ部:R140 追加
20210423 電源部:電源電圧測定値記入
プリアンプ部:各種修正

PNG:

プリアンプ  Preamplifier

電源+パワーアンプ Power Supply & Power Amplifier



schematics   313GA.pdf

この機種を修理したのはもう10年も前。
当然すでに手元にはありません。
回路図は採取していたので今回清書して公開することにしました。

シャーシのなかはこのようになっています。
IMG_2715B

写真は入手したばかりのオリジナルの状態です。
平ラグ板3枚に回路が収められています。
たとえば電源部を一枚の基板にまとめている、というわけではなく、
機能が3枚のなかで分散しています。
コンデンサのほとんどがオイルコンデンサで、写真で見える限りでも
経年で変形しているものがいくつかあります。オイルコンデンサは
フィルムコンデンサに交換しました。


IMG_2717C

出力管は 7189 のプッシュプル。
7189 は EL84 (6BQ5) の改良型で、プレート電圧を 400V までかけることができます。
EL84 は 300V までなので、EL84 で代用するのはお勧めできません。
Sovtek の EL84M などで対応できそうですが、試してはいません。
ELK の Vesser V30 も同じ 7189 を使っています。

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