長田(猫舌)のblog

主にギターアンプの解析、回路図の採取と公開を行っております。 回路図の公開は自身で読み取った回路図に限っており、主に国産のアンプを対象にしています。修理やメンテナンスなどにご利用ください。ただし公開している回路図は無保証です。内容の正確性には万全の注意を払っておりますが、誤記入や誤解の可能性は免れません。本サイトで公開している回路図によって生じた事故や損害については一切責任を負いかねますのでご了承願います。 また、電子回路とくに真空管に関する高電圧回路を取り扱っています。電子回路の知識や経験がない方が同様の作業をすると感電により生命に危険を及ぼすことがあります。同様な作業を行って生じた事故・傷害に対して当方は一切責任を負いません。

カテゴリ: Ibanez

T15-J の回路上の特徴はやはりトーンコントロールでしょうか。
T15-J の TREBLE, BASS とも センタークリックがあって12時の方向が 0、
最小が -10, 最大が +10 の表示があります。± 10 dB ということなのか?
もしそうであるならばカットもブーストもできる回路であるはずです。

該当する部分はこちら。

tone

U4 の OPアンプを使った NFB 型トーンコントロールを構成して
います。通常のトーンコントロールはポットをフルに上げた状態
(0dB 原音の状態)から左に絞るにつれて帯域をカットするように
なっていますが、 NFB 型だとカットだけでなく原音より増強
(ブースト)することができます。
ただし基本的な構成は通常のオーディオ用トーンコントロールとも
異なっています。

典型的なオーディオ用トーンコントロールは Micro Jugg で使われている
次のような回路(ただし NFB 型ではなくパッシブ)。
MJ-3_tone

定数はギター用に変更していますが、 BASS と TREBLE の
部品配置は典型的なものです。
(図中 R16 と C22 はトーンコントロールとは無関係です。)

これに比べると T15-J のトーンコントロールの基本部分は明らかに
簡易的なものであることがわかります。
どのような帯域を調整(増幅・減衰)させるよう設定されているのかは
時間を掛けて検討が必要です。

現行機種ではないようですが、ここで取り扱う機種としては
かなり新しめ。それもアコースティックアンプです。

当たり前と言ってしまえばそれまでですが、アコースティックギターの
マグネティックやピエゾのピックアップからエレキ用のギターアンプに
接続してもアコースティックギターの繊細な煌びやかさを再生することは
とても難しいです。
おそらくギターアンプのトーンコントロールがエレキのピックアップに
会わせて作られているためです。では、アコースティックギターに適した
トーンコントロールってどうなんだろう、というのが今回の趣旨です。

T15-J はアコースティックアンプとしてはシンプルな構成です。
操作面を見てみましょう。
DSC01329B

上面右から、INPUT ジャック、 VOLUME, BASS, TREBLE の
コントロール。左端にあるのが CHORUS ON/OFF スイッチ。
スピードや深さを調整することはできませんが、 CHORUS が
ついています。

背面には POWER スイッチ、PHONES ジャックがついています。

背面パネルを外し、シャーシをキャビネットから取り外すと
DSC01332C

6インチほどのスピーカーが現れます。ただ、インピーダンスも出力値も
記入されていません。 直流抵抗値が 6 Ωほどなので、インピーダンス8Ω
だろうと思います。

取り外したシャーシ内の回路。
DSC01333D
  
DSC01334E

2つの基板で構成されています。基板間の接続にコネクタが使われており、
これらを外すとそれぞれの基板が簡単に取り出せます。
これはメンテナンス性に優れています。

電源+パワーアンプ基板  ACA15T-2 。
DSC01340F

パワーアンプ IC はおなじみ TDA2030A。出力 10W くらい。
この基板の中で三端子レギュレータ 78L12, 79L12, 78L05 が使われており、
+12V, -12V, +5V の電源をプリアンプ基板に供給しています。

プリアンプ基板 ACA15T-1 。
DSC01336G

シンプルに見えるかもしれませんが、基板面積の半分ほどを CHORUS 
関係の回路が占めています。
右の14ピンの IC が TL074。電源基板で作った±12V の電源はこの IC が
使います。プリアンプとしての機能はこの IC だけでまかなっています。

8ピンの DIP IC が3つ並んでいますが、右の IC が BL3207,  BBD です。
真ん中が BL3102, クロックジェネレータ。左は発振に使われる 4558 です。
これらの IC は +5V の電源で動作しています。
 BL3207, BL 3102 は松下の MN3207, MN3102 のセカンドソースでしょう。
 BL で始まる型式に覚えがないので、どこのメーカーなのか?
今調べたら SHANGHAI BELLING という中国のメーカーのようです。

回路図を採取しているとかなり凝った回路設計をしていることに
気がつきます。いくつか挙げてみます。

まず、電源が3系統あること。
真空管用高電圧、半導体回路用正負電源、真空管ヒーター用電源。
真空管ヒーターは直流点火しています。

heater_PS

通常だと電源トランスの6.3V のタップからヒーターに交流電圧が
直接供給されるのに対し、全波整流して平滑化した直流を供給
しています。ヒーターから放出されるハムノイズが軽減されます。
ヒーター間電圧を測定すると +5.2V と小さくなっていますが、
直流の場合ヒーターに電流が流れすぎることがあり、このくらいの
電圧で規定電流(12AX7 300mA, 6L6GC 0.9A)に達していると
思われます。

プリアンプ部は半導体と真空管のハイブリッド構成になっています。
12AX7 はプリアンプ部とパワーアンプ部のドライブ段に使われて
いますが、プリアンプ部はちょっと変わった使い方がされています。

kathod_follower

カソードフォロワ回路になっています。カソードフォロワは
ゲインが1の回路でいわゆるバッファとして使われています。
ギターアンプではあまり使われることのない回路ですが、
入力信号と同位相の信号が出力されます。
なお、この回路は BOOST スイッチが ON の状態で有効になる
回路なので、クリーンではこの部分を通過しません。

次はトーンコントロール。

tone_control

TREBLE と BASS はオーディオで使われるトーン回路で、OP アンプによる
NFB を構成しています。また MIDDLE はシミュレーテッドインダクタに
よるバンドエリミネートフィルタが使われています。
計算すると共振周波数は 1.26kHz となっており、中音というよりは高めの
設定です。

パワーアンプは 12AX7 をドライブ段にして、 6L6GC を固定バイアスで
使っています。
fixed_bias
シングル出力の場合、一般的なのはカソードバイアス(自己バイアス)
ですが、ValBee では Vbias -11V を加え、6L6GC のカソードは GND に
直結しています。半導体用の負電源(-22V)があるので、そこからバイアス電圧を
作っています。

Ibanez は星野楽器のブランドで、ギターやエフェクタが数多く
販売されているのですが、アンプを目にすることはあまりありません。
おそらく設計・製造は外部のメーカーなのでしょうが、
ValBee はどこの製造かわかりません。Made in CHINA とは表記されて
います。
PSE マークがあるので  2006年以降のモデルであろうと推測されますが、
製造年を特定できるものはありません。目立つルックスなので
よく見かける気がするのですが、データも多くはありません。

実物を見てみましょう。

DSC01183B

小型の真空管アンプで連想するのは Fender Champ。
12AX7 + 6V6GT のシングル出力(5W) の構成が代表的な仕様で、この
組み合わせに追随した小型真空管アンプは数多く存在します。
ValBee は "HIGH GAIN TUBE AMPLIFIER" を標榜しています。
プリアンプ部が 12AX7 1本だけならそれほど大きなゲインが稼げる
わけもなく、Fender トーンスタックに代表されるトーンコントロールを
装備するとガクンと音量が下がるので、Champ のようなプリアンプに
12AX7 だけという回路構成ではないことが予想されます。

操作部は右から、入力ジャック、BOOST スイッチ、GAIN, BASS, MIDDLE,
TREBLE, PRESENCE, VOLUME の順にコントロールが並びます。
左端に POWER スイッチと STAND BY スイッチがありますが、シングル出力の
真空管アンプに STAND BY スイッチを付けるのは珍しい。
(まさかプッシュプル?とも思いましたが。)
操作面には他に PHONES / REC OUT ジャックが並んでいます。

背面には AC インレット(ヒューズ付)、SEND, RETURN ジャック。
このクラスで SEND, RETURN が付いているというアンプも見かけません。
ユーザーが操作する部分にかなり力を入れていることがわかります。

バックパネルを外してみます。
DSC01186C
出力管が一本のみ。やはりシングル出力ですね。

キャビネットからシャーシを取り出して詳細を見ます。
DSC01189D
DSC01190E
2つのトランスのうち、黒い方が電源トランス、もう一方が出力トランス。
出力管は 6L6GC でした。これならシングル出力でも10W くらいは
出せるでしょうね。でも出力トランスが 10W にしては小さめです。

シャーシはネジ4点で留められており、外すと内部の回路が現れます。
プリアンプ部の基板はこちら。
DSC01202H
基板中に 4558 が3個搭載されていることがわかります。
予想通り、半導体と真空管が混在したハイブリッドアンプでした。
OP アンプで充分なゲインを稼ぎ、歪みを作って出力管に渡す構成です。

真空管周辺の基板はこちら。
DSC01199G
電源や信号がコネクタを介した配線で接続されるため、かなりごちゃごちゃした
印象があります。 12AX7 と 6L6GC がこの基板に搭載されます。

電源基板。
DSC01194F
この基板で真空管回路用、半導体回路用、ヒーター用の3種類の電源を
供給しています。

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