長田(猫舌)のblog

主にギターアンプの解析、回路図の採取と公開を行っております。 回路図の公開は自身で読み取った回路図に限っており、主に国産のアンプを対象にしています。修理やメンテナンスなどにご利用ください。ただし公開している回路図は無保証です。内容の正確性には万全の注意を払っておりますが、誤記入や誤解の可能性は免れません。本サイトで公開している回路図によって生じた事故や損害については一切責任を負いかねますのでご了承願います。 また、電子回路とくに真空管に関する高電圧回路を取り扱っています。電子回路の知識や経験がない方が同様の作業をすると感電により生命に危険を及ぼすことがあります。同様な作業を行って生じた事故・傷害に対して当方は一切責任を負いません。

カテゴリ: Pearl

70年代中期のモデルだと思うのですが、詳しい資料がありません。
前面のバッフルが3分割されており、左右のバッフルが白い
プラスティック板で覆われたデザイン。なかなか印象的で Pearl の
アンプといえばこの機種を思い起こします。

70年代中期と判断したのはトレモロ(VIBRATO)が装備されている点。
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リバーブと兼用のフットスイッチでトレモロは ON / OFF できますが、
操作パネルでは INENSITY を 0 (OFF)にするか否(ON)かです。
VOLUME は一つだけ。トーンコントロールは TREBLE と BASS。
REVERB も装備しています。
VOLUME を上げる以外に歪みを作る機能がありません。

背面。いたってシンプル。
DSC02351B

前面バッフルが3分割されており、ちょっとしたホーン型の形状を
構成していることがわかります。スピーカーが取り付けられている
中央のバッフル板自体は比較的小さいですね。

DSC02353C
スピーカーは 12 インチ 8Ω。MODEL P30-20L と書かれています。

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キャビネット底にリバーブユニット。見るからにシングルスプリングと
いうユニット。磁気式です。残念ながら製造メーカー等の記載は一切
ありません。

背面パネルを取り除くと回路が見えます。
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とは言えこのままでは回路構成がわかりにくいので、シャーシを取り出します。
DSC02370G

左の電源トランスとパワーアンプ(SANYO STK015)。
STK015 は厚膜ハイブリッド IC。ヤマハ YTA-15A (STK032)、
AIDEAN ZOOM M-40 (STK036) よりも先発の IC です。
 CQ出版の「リニヤ IC 規格表 '73」に掲載されていました。
それによるとSTK015 の出力は 10W。電源電圧によって出力も大きくなる
のでしょうが、アンプキャビネットの大きさからすると 10W のクラスでは
ないと思われます。モデル名の PG-3020 から出力 20W くらいと
読んでいるのですが。

放熱板に取り付けられている STK015 を取り外して、パワーアンプ基板の
部品面を見てみます。
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STK015 の放熱効率を上げるためにシリコングリスが塗布されていましたが
微量でした。メンテナンスが終わったら適切な量のシリコングリスを
補充する予定です。

電源基板。
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電源の平滑に 2SD317A が搭載されています。
同様な回路は Pearl BAS-300 でも見られます。

プリアンプ基板。
DSC02424H

その部品面。

DSC02428K

基板全般に言えることは緑色のフィルムコンデンサの表面が劣化して
粉を吹いたような状態になっています。表面に亀裂が入っているものも
あります。回路図を採取する作業中に面倒だったのがこれらのコンデンサで
表面が劣化しているので数値の表示がとても見づらい状態になっています。
とりあえず綿棒にエタノールを付けて表面を磨いてみます。
ある程度表示が鮮明になるのですが、あまり磨くと表示のインクまで
溶けてくるので程々にして数値を確認しました。
これらのフィルムコンデンサは数値的にも安定しているので寿命と
いうわけではないのでしょうが、今回は新しいものに交換することに
しました。

BAS-300 のメンテナンスが終了したので回路図の電源部に
電源電圧の測定値を記入しました。(Ver. 20210404)

さて、 BAS-300 の写真を表示していない箇所がまだありましたね。
(よく忘れてしまうんです。)

まずはリバーブユニット。

DSC01085A

リバーブはシャーシの底部に振動抑制用のスポンジを介して(ゆるく)
取り付けられています。ネジを外してみると

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2スプリングのリバーブでした。断線やスプリングの外れなどの異常もなく、
正常に動作しそうです。

パワーアンプ基板の部品面。
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パワーアンプの入力に1段、トランジスタによる電圧増幅回路が追加されて
いますが、ELK FS-41 のパワーアンプとほぼ同じ構成の回路。
こちらの方が古いのでキャンタイプのトランジスタが使われていますが、
大きな違いはありません。


メンテナンスは主に電解コンデンサの交換。
回路図を採取する際に目視で異常がないかを確認しておりますが、
特に大きな問題はありませんでした。

メンテナンスを終え、試奏してみました。
クリーントーンが素晴らしい。ELK FS-41 とよく似た音です。
Brilliance control はやはり中音域の調整のようで、
Fender トーンスタックの MIDDLE に相当するのですが、
こちらの方が中音の輪郭がはっきりしているようです。
私自身は Fender 系のアンプだと MIDDLE をフルにして
Treble と Bass を調整して音を作るので MIDDLE 自体は
あまり使い勝手が良いとは感じていません。
それに比べるとこの Brilliance control は中音の調整が
スムーズにできるように思います。
また、Treble も Bass も CUT か BOOST の切り替えスイッチで
しか調整できないという仕様になっています。
ただ Bass を BOOST にすると低音がズンと響くので、なかなか
使えそうな機能ではあります。
使い込んでみると面白いアンプになりそうです。

このアンプの目玉の Brilliance control というトーン回路を
抜粋します。



250Hz のバンドエリミネートフィルターを 10kB のスライド抵抗で
調整しています。 それだけではなく、L101 の 4.7H のインダクタによる
HPF もあまり使われない回路です。"4.7H" と印字があるインダクタなので
回路図にはこのように記載していますが、4.7H くらいとなると
巻線抵抗も小さいとは言えない値になるはず。なので巻線抵抗を
測定しなければ HPF としての特性が明確にはなりません。
L102 の巻線抵抗は VR2 の 10kΩに比べて充分小さければ無視しても
構わないかもしれませんが、測定するに越したことはないでしょう。

L101 と L102 の巻線抵抗を測定しました。インダクタを基板からはずして
端子間の抵抗値を読み取ります。

L101: 525 Ω
L102: 100 Ω

L101 については無視できない値です。
基板から外したついでに LCR メーターでインダクタンスも測定してみましたが
測定周波数によって値が大きく変動します。ということは線間容量も無視できない
ということでしょう。標記のインダクタンス( 4.7H, 1.4H ) は2kHz 前後の測定値
または理論値なのかもしれません。

コイルは信頼性の高い部品なので交換の可能性は低いとは思います。
ただ故障した場合、同じインダクタは現状では入手できないかもしれません。
インダクタンスの値だけの代替品を使っても巻線抵抗や線間容量が変わるため
オリジナル通りの音になるとはかぎりません。
そういう意味でインダクタを使ったフィルターはあまり使われて来なかった
理由があるのでしょう。


さて、実物を見てみましょう。まずはアンプ上面の操作部から。
DSC01041C
左から 入力ジャック x2, VOLUME,  BRILLIANCE CONTROL のスライドレバー,
TONE SELECTOR の BASS と TREBLE の2つのスイッチ。トーンコントロールは
これだけ。これを書いている時点ではメンテナンスが完了していないので、
まだこのトーンコントロールの操作性や音色の変化などはコメントできないのですが、
ユニークな構成であることは言えます。


DSC01042D
残り右半分。REVERB, VIBRATO(実際は TREMOLO) の SPEED と DEPTH.
Pilot Lamp と POWER スイッチ。
1970年代前半のアンプとしてこれらのエフェクトが装備されているのは
標準的なものです。

背面パネル。
DSC01045E
 左から AC アウトレット、POWER FUSE,  SPEAKER FUSE、
EXT OUT x 2, REVERB + VIBRATO のフットスイッチジャック。
スピーカーは 12 インチ 8 Ω の P30-35S 。

さて背面パネルを外して、シャーシを取り出します。
DSC01050F
手前はシャーシ底面に配置されたパワーアンプ基板。
奥に電源トランスと3本のブロックコンデンサが配置されています。
ちょっと見づらいですが、シャーシ中程にヒューズケースがあり、
3A のヒューズ2本が設置されています。これは直流回路を保護する
ためのものです。

DSC01051G

パワーアンプ終段のトランジスタは 2SD180 と 2SA627 。
手前の真鍮のケースがリバーブユニットです。
この写真のトランスの下に...

DSC01060H

電源電圧切り替えプラグがありました。写真の位置は 100V の設定。
確か前にもこんなプラグが着いた機種があったなぁ。電源周りの
回路の分析がめんどくさいんだよなぁ。。。。

これを書いている時点では分析が終わっているので解説しますが、
この切り替えプラグで正常に動作するのは 100V と 117V の2つの
ポジションだけです。200V と 240V のポジションでは正常には
動作しません。日本国内あるいは米国のみを対象にした設定に
なっています。よって迂闊に触らない方が無難です。

DSC01058J

シャーシ内部。
あれっ? 既視感。
電源基板(左)とプリアンプ基板(右)。
特にプリアンプ基板の銅箔に 2SD317A が搭載されているのはどっかで...
これだよね。よく似ています。

ここで確信しました。
おそらく ELK が設計・製造して Pearl の名義で販売したモデルであろうと。
以前 解析した ELK FS-41 と共通点があまりにも多いのです。
直流電源用ヒューズ、電源電圧切り替えプラグ等。
回路図を見比べるとわかりますが、回路構成や定数がよく似ています。

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電源基板。プリアンプ回路用の直流電源を平滑する基板です。

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プリアンプ基板。
基板上側にある2つの金属円筒はインダクタ。
左はフラッシュが反射して数値が見えませんが 4.7H, 右は 1.4H 。
トーンコントロール部に使われています。
BRILLIANCE CONTROL は 1.4H と 0.3uF のコンデンサによる
共振周波数 250 Hz 近辺の増減をする機構のようです。

ドラムスメーカーの Pearl が 1970年代に発売していたギターアンプ、
BAS-300 です。BAS... という型式なのでベースアンプだと思われる
ことが多いようですが、れっきとしたギターアンプです。

1973年のカタログによると BAS とは Brillliance-tonecontrol Amplifiers System
の略だそうで、

「画期的なブリリアンストーンコントロールで従来のアンプのように
トレモロブースター(ママ)を必要とせずに、迫力あるロックサウンドから
輝くようなジャズサウンドまで思いのままコントロールできます。」

トレブルブースターの間違いでしょう。

DSC01040B

アンプ上面のコントロール部。
スライドボリュームが Brilliance control 。
これがこのアンプのセールスポイントのようです。
あまり見かけないコントロールですが、どのようなものか
回路的にも見ていくことにします。

仕様をカタログから引用します。

--- ここから ---

B・A・S-300 ギターアンプ
ブリリアンストーンコントロール、ボリューム、リバーブ、
ビブラート、トーンスイッチ(ロー、ハイ)
インプット:  X 2
出力:  ミュージックパワー 75W (RMS 30W)
スピーカー:  12"
その他: ラインアウト X 2 平均レベル各 -20dB.V  20kΩ
寸法: W410 X H530 X D235
重量: 13kg
価格: ¥ 48,000

--- ここまで ---

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