長田(猫舌)のblog

主にギターアンプの解析、回路図の採取と公開を行っております。 回路図の公開は自身で読み取った回路図に限っており、主に国産のアンプを対象にしています。修理やメンテナンスなどにご利用ください。ただし公開している回路図は無保証です。内容の正確性には万全の注意を払っておりますが、誤記入や誤解の可能性は免れません。本サイトで公開している回路図によって生じた事故や損害については一切責任を負いかねますのでご了承願います。 また、電子回路とくに真空管に関する高電圧回路を取り扱っています。電子回路の知識や経験がない方が同様の作業をすると感電により生命に危険を及ぼすことがあります。同様な作業を行って生じた事故・傷害に対して当方は一切責任を負いません。

カテゴリ: PETERSON

P100G には特徴ある回路構成がいくつかあります。
最初の一つはトーンコントロールが4バンド・イコライザーになっていること。

4-bandEQ

CH1 と CH2 共通の回路で、トーンコントロールが2段になっています。
LOW と HIGH を取り扱う前段と MID1, MID2 を取り扱う後段に
なっています。それぞれ OP アンプ(4558) による NFB をかけることで
キレのよいフィルターを構成しています。
トーン回路自体はオーディオで使われるものでギターアンプでよく
使われる Fender Tone Stack ではありません。
P100G の特徴は MID1, MID2 の中音のコントロールを充実させたこと。
ギターアンプでオーディオ型のトーンコントロールが採用されていれば
この回路の前段の HIGH (TREBLE) と LOW (BASS)  の構成だけを
使い、 R114 を可変抵抗に置き換えて MIDDLE にします(例:Micro Jugg)。
そこをMIDDLE を別段にし、さらに音域を2つに分けて調整できるように
しています。

次は CH2 の第2段目以降。

CH2_OD+BEF

初段で増幅した信号を IC201-1 の OP アンプによるオーバードライブ回路で
歪みを加えます。これは CH1 ではない部分。
ただ GAIN で歪みの調整はできるものの、音色を調整できる部分は
ありません。次の段に行く間に IC203-2 によるノッチフィルター
BEF: Band Elimination Filter)を通過し、特定の周波数帯がカットされます。
フィルターの中心周波数は 880 Hz ですが、Q が 0.82 とブロードです。
歪みによって生じた倍音成分の中音に相当する部分をわざとカットしている
ようです。

最後にパワーアンプ。
MOSFET_PowerAmp
パワー MOS FET を使っているため、パワーアンプはとてもシンプルに
なっています。
PNP トランジスタ BC212L (Q001, Q002)  による差動アンプから
ドライブ段の BD139 (Q003) まではオーソドックスな構成。
バイポーラトランジスタのプッシュプル構成で必要なVBE に起因する
バイアス電圧調整や温度補償の回路がすっぱりとなくなっています。
1980年代後半から1990年代にかけての設計だと思いますが、
パワー MOS FET が出始めのころなので当時としては最先端の回路技術が
つかわれていたと推測しています。

回路図の作成が完了したので借りていた P100G を本来の持ち主である
知人に返却に行きました。回路を解析した上でいくつかの謎仕様が
あるので知人とその話で盛り上がったところで、ホロっと出てきたのが
PETERSON のカタログ!おそらく超貴重品!!
DSC06051A
DSC06058B

お借りして BLOG に掲載することの快諾を得ましたので仕様等の
引用をすることにします。

--- ここから ---
P100G  GUITAR SPECIAL

コンパクトなボディに秘めたポテンシャル・パワー。プレイヤーの創りだす
サウンド・イメージを確実に再現する操作性と、真のツイン・チャンネルを
装備した充実のスペック、 P100G

ピーターソン・ギター・スペシャルは妥協なしの、真
のツイン・チャンネル機能を装備しています。
完全に分離された各チャンネルのゲイン、ボリューム
4バンド・イコライザー、およびリバーブが独立して
コントロールされ、プレイヤーはその完全に分離され
た2チャンネルのいずれかを、付属のフットスイッチで
選ぶことができます。あるいはチャンネル・”リンク”・
スイッチを使用すれば、両方のチャンネルをブレンド
することも可能で、今までになかった、より多彩な音
のバリエーションが得られます。 P100G の充実したス
ペックは、決して、プレイヤーを失望させることがあ
りません。
●チャンネル
・Channel I クリーン・サウンド:透明でくっきりし
たロック・リズムや C&W、ジャズなどに適しています。
・Channel II 強力なディストーション・サウンドです。真
空管アンプでしか得れれなかった暖か味のあるサウンドから
メガメタルまで、幅広いジャンルをカバーします。
・Input 1:通常使用時のインプットです。
・Input 2:練習用。(Channel II 専用)
●オーバードライブ・サーキット
ピーターソンは特別に設計されたオリジナル回路により、小
音量でも大音量でも、イメージどおりのオーバードライブ・
サウンドが得られます。スタジオやレコーディング時の非常
に低い音量での最高のオーバードライブ効果から、耳をつん
ざくメガ・メタルまで、音量、音色ともに完全な電子コント
ロール回路から創り出されているため、プレイヤーのイメー
ジどりの自由な設定が可能です。
●チャンネル・”リンク”・スイッチ
音の変化の無限性を追求し、開発されたオリジナル回路です。
このスイッチを ON にすることにより、チャンネル I、II がブ
レンドされます。チャンネル・リンキングは8つのイコライ
ザー・コントロール、それにクリーンとオーバードライブの
ブレンド・バランスを別レベルにコントロールすることがで
きますので、ギターサウンドの可能性はさらに多彩なものに
なります。(リンク・スイッチを ON にした場合、チャンネル・
セレクトはできなくなります。)
●装備
・エフェクト・ループ <チャンネル I > エフェクト・センド/
リターン(チャンネル I 専用のエフェクト・ループです。チャ
ンネル I にのみエフェクト効果が得られます。)
<マスター>エフェクト・センド/リターン(チャンネル I 、
チャンネル II に共通のエフェクト・ループです。どちらのチ
ャンネルがセレクトされていても同じエフェクト効果が得ら
れます。)
●ヘッドフォン・ソケット
モノラル・ヘッドフォン端子です。プラグ差し込み時には、
スピーカーからの出力はミュートされます。
・ダイレクト・アウト
<ハイ・インピーダンス・アウト> プリ・アウトとポスト・
アウトの2つの標準ジャックを装備しています。
<ロー・インピーダンス・バランス・アウト>  レベル可変、
キャノン XLR ジャック、プリ/ポスト切り換えウイッチ装備
のプロ・レコーディング用端子です。(プリ/ポストは、イコ
ライザー部、およびエフェクトを通る前、<プリ>、あるいは通
った後 <ポスト> でのアウト・プットのセレクトです。)
・キャビネット ソリッド・マホガニーを手仕上げした、ピ
ーターソン独自のセミ・オープン・バック構造。 100W のアン
プ出力とスピーカーの音圧レベルとのコンビネーションを最
高に引き出すための材質設計により、おとの前方し構成を高め、
優れた音響特性を引き出します。本皮製キャリング・ハンド
ル装備。
・スピーカー エレクトロボイス10インチ(150W 120dB、ピ
ーク 600W、1年間保障付)のスピーカーを採用。世界のプロ・
ミュージシャンに圧倒的な支持を受けているこの高感度スピ
ーカーにより、音の立ち上がりやヌケ、そしてコードの音階
間のバランスまで、素材の音を大切にしたサウンドが生み出
されます。
・リバーブ U.S.A アキュートトロニクス社製。
・付属品 ヘヴィー・デューティー・カバー/LED フットス
イッチ/スペア・ヒューズ(バック・パネル <MAINS INPUT>
に内蔵 )

SPECIFICATION
Size: 381(H) x 279(D) x 330(W)mm Weight: 13.1kg Power
: 100W RMS MOS-FET  Speaker: Electro-Voice 10' 120dB,
150w(600W peak)<1年保障> Channel 1 : Clean, Input Sen-
sitivity 25mV, Separate gain, Reverb, Master Volume, 4-band
active E.Q. controls  Channel 2 : Overdrive, Separate Gain,
Reverb, Master Volume, 4-band active E.Q. Controls  Chan-
nel Link Switch : L.E.D Status Indicators  Reverb : Accutr-
onics USA, ON/OFF via footswitch, Thump-Free Mains Switch
--- ここまで ---

回路周辺を見てみましょう。

DSC05941F

上に伸びる赤と黒の線はスピーカーケーブル。
これを基板から外さないとキャビネットと回路部が分離できないので
回路を解析する間はハンダ付を外します。

回路は5枚の基板から構成されています。
(1) 電源+パワーアンプ       P100Ld
(2) インプットジャック      L100e
(3) CH1 +リバーブ+コントロール P100b
(4) CH2              P100La
(5) 外部接続(D.I., XLR, Send-Return) P100Lc

DSC05949BJPG

基板間の配線には信号名等の記載がなく、AWG26 くらいの細い線を
使っているため常に断線に注意しながら作業しなければなりません。

DSC05952C
電源+パワーアンプ基板を裏から見たところ。

P100G といえば多くの人が指摘する基板の変色。
パワーアンプに供給する±50V くらいの電源電圧から OP アンプの電源である
±15V を作成するために 470Ω 5W のセメント抵抗で電圧降下させています。
セメント抵抗の発熱のため変色が起きています。

DSC05965E

パワーアンプの終段は 2SK135 と 2SJ50 の MOS-FET。
温度補償がいらないためパワーアンプ回路がコンパクトにまとまっています。
中央のリレーは電源 ON 時のボンという音(Pop音)からスピーカーを
保護するためのもの。DC24V のリレーです。

DSC05967
 
CH1 の P100b 基板だけはガラスエポキシ両面基板。(他は片面基板)
両面基板ですが、スルーホール処理はしていません。
回路を読み取るのにちょっと面倒でしたが、両面スルーホールに比べると
とても楽でした。
回路規模は大きく、P100b 基板で OP アンプ 4558 が6個、P100La 基板で
3個、P100Lc 基板で 1 個の合計10個の 4558。
YAMAHA F100 (パラメトリック EQ 付き) でも 4558 が 5個でした。
それに比べるとコンパクトなアンプながら回路は複雑で多機能でした。

ジャズギタリストに人気の PETERSON のアンプです。
今回は知人の P100G をお借りして回路を解析しました。
製造されていた期間が短い上、回路図が公開されていないとのこと。
以前から興味を持っていたので溜まっていたアンプの解析を
そそくさと終えて今回の作業に臨みました。

予備知識もない状態で独特の回路構成に向き合い、少しずつ少しずつ
外堀を埋めていくように読み取り作業を行いました。
土日の休日を含めて3日で回路の読み取り完了。1日で回路図を
清書しました。4日で全工程完了。
知人に回路の解析完了を知らせ回路図をお渡ししたところ
「早いですね」
との感想をいただきました。
いや、回路図の部分部分をペンディングにしながら細かい部分を
埋めていくような作業をしているので、早くしないと記憶力が
持たない。。。 (^^;)
今回はペンディング(とりあえずここの解析は置いておいて、、、)
にする部分が多くてそれをとりまとめるのに苦労しました。

さて、P100G の詳細を見ていきましょう。
DSC05931A

キャビネットはハードウッド。ナチュラルな塗装で落ち着いた印象です。
ただハードウッドのためかキャビネット単体でも比較的重く感じます。

CH1 はクリーンチャネル、CH2 はオーバードライブチャネル。
コントロールは CH1 と CH2 に別れ、右上の SPLIT / LINK スイッチと
専用のフットスイッチで切り替えることができます。
フットスイッチと SPLIT / LINK スイッチの使い方が独特です。
またフットスイッチを接続しないとリバーブは全く効きません。

(1) フットスイッチを接続していない場合
  SPLIT :  CH1 ON, CH2 ON
  LINK: CH1 ON , CH2 OFF
(2) フットスイッチを接続した場合
  SPLIT (Foot Sw 無効):   CH1 ON,   CH2 ON
  LINK + Foot Sw OFF : CH1 ON,   CH2 OFF
  LINK + Foot Sw ON:    CH1 OFF,  CH2 ON

コントロールはCH1, CH2 とも左から GAIN, LOW, MID1, MID2, HIGH,
MASTER, REVERB の順に並んでいます。
フルアコなどのいわゆる箱モノのギターのための中音の設定 MID1, MID2 が
充実しています。

背面。
DSC05933B

左から電源ジャックと電源スイッチがあり、バランス出力のレベルと
XLR コネクタ、PRE / POST スイッチ。
H / P ジャックはヘッドフォンジャックで、これにヘッドフォンプラグを
接続してもスピーカーから音が消えることはありません。日本の家屋事情を
考慮した構成ではありません。

続いて D.I. 出力で PRE と POST の2つのジャックがあります。
これはプリアンプ初段(CH1 + C2, トーンコントロールなし)と
プリアンプ終段(選択したチャネル、トーンコントロール+リバーブ済み)の
信号をそれぞれジャックから出力しています。
さきほどのバランス出力部の PRE / POST スイッチは XLR コネクタから
出力する信号を D.I. 出力の2つの信号のどちらかを選択するものです。

続いて MASTER SEND, MASTER RETURN.
これは一般的なアンプの SEND-RETURN と同じ。
CHANNEL 1 SEND, CHANNEL RETURN は CH1 のトーンコントロール後の
信号(リバーブ含まず)での SEND-RETURN です。

このようにレコーディングに有用な機能が多数装備されています。

背面下部のパネルを外してみると...
DSC05936C
DSC05937D

リバーブユニットが現れました。Accutronics の 8AB3B1B です。
2番目の記号 "A" は入力インピーダンス 8 Ωを示しています。

スピーカー後部は斜めに設置された板で区切られており、クローズド
バックの構造でバスレフになっています。
電源トランスはスピーカー側に設置されており、回路側とは
写真の6ピンコネクタを介して接続されています。
DSC05939E

スピーカーグリルを外したところ。バスレフの長い穴が2ヶ所あります。
DSC05946G
DSC05954G
スピーカーは Electro Voice の 10 inch。迫力です。

DSC05958H
電源トランスはバッフル板の脇に搭載されています。

DSC05960J

トロイダルトランスですね。

Made in UK のアンプ PETERSON P100G の回路図を採取したので
公開いたします。
DSC05925A

回路図

  20230628  初出

    PNG:

 

      リバーブ  Reverb



    PDF:


schematics  P100G.pdf

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