長田(猫舌)のblog

主にギターアンプの解析、回路図の採取と公開を行っております。 回路図の公開は自身で読み取った回路図に限っており、主に国産のアンプを対象にしています。修理やメンテナンスなどにご利用ください。ただし公開している回路図は無保証です。内容の正確性には万全の注意を払っておりますが、誤記入や誤解の可能性は免れません。本サイトで公開している回路図によって生じた事故や損害については一切責任を負いかねますのでご了承願います。 また、電子回路とくに真空管に関する高電圧回路を取り扱っています。電子回路の知識や経験がない方が同様の作業をすると感電により生命に危険を及ぼすことがあります。同様な作業を行って生じた事故・傷害に対して当方は一切責任を負いません。

カテゴリ: YAMAHA

これまで YAMAHA の F シリーズは F50-112, F100-112, F100-212 と
取り扱ってきました。ギターアンプで残るのは F100-115 とヘッドアンプの
F100G。これらの機種は機会があったら解析するかもしれませんが、
これまで解析した機種と大きく変わることはないと予想されるので
解析する優先度は低くなります。
なので F シリーズも F100-212 で第1部完結、と思っておりました。
が、まだベースアンプがありました。ついF100B を入手してしまいました。

フロントパネル
DSC04960A
左から入力ジャック HIGH と LOW。
ベースアンプなのでチャネルは1つだけ。
コントロールは VOLUME と TREBLE, MIDDLE, BASS のトーンコントロール。

DSC04962B

Fシリーズのギターアンプだとパラメトリックイコライザーがある部分ですが、
ロータリーノブによる「グラフィックイコライザー」が搭載されています。
5バンドで中心周波数が 60, 150, 320, 640, 1250 Hz。
グラフィックイコライザーと言えばスライドボリュームによるコントロールが
一般的ですが、これは通常の回転式のポットで実現しています。

背面
DSC04964C

DSC04971D
左から 3A ヒューズ、AC アウトレット、スピーカージャック 1, 2。
製造元は "OZAWA KK" になっています。F50-112 や後の G50-112 III と同じ。
F100-112 や F100-212 では "NIPPON GAKKI CO., LTD" でした。
Fシリーズの途中から OZAWA に変わったのか、機種ごとに違っているのか?
もうすこしサンプル数を増やさないとわかりません。

DSC04972E
XLR コネクタによるバランス出力。プリアンプ部から
平衡トランスを仲介して信号が送られます。
ただしこのバランス出力はパラメトリックイコライザーを通過して
いません。ボリュームとトーンコントロールでの調整になります。

DSC04977F
背面パネルを外したところ。
F100-112, F100-212 でも見られた大きな放熱フィン。
大きさも同じようです。
搭載されている終段トランジスタも 2SC1586 x 2。

ベースアンプ YAMAHA F100B です。

DSC04956a

1980年の YAMAHA のカタログには以下のスペックが記述されています。

--- ここから ---

F100B
¥70,000

パワー:100Wrms(200Wpeak), 計測条件 スピーカー4~8Ω, 10%THD
インプット:1ch 2in(HIGH,LOW)
入力感度・インピーダンス:HIGH(-44dB・1MΩ), LOW(-32dB・60kΩ) ただし 0dB=0.775V,
             計測条件 VOLUME & TONE max. EQ VALIZER flat, at 1kHz
アウトプット:SPEAKER OUT(phone jack) x 2, SIG OUT(XLR, 3・32, -20dB for 600Ω
       LINE BALANCED) ただし 0dB=-0.775V
マッチングスピーカーインピーダンス:4~8Ω
コントロール:VOLUME, TREBLE, MIDDLE, BASS, EQUALIZER (60, 150, 320, 640, 1260Hz)
定格電源電圧・周波数:100V・50/60Hz
定格消費電力:90W
サイズ:53.0Wx24.0Hx28.0Dcm
重量:13.5kg
付属品:VINYL COVER
 
--- ここまで ---

前回のカタログの記述の中に

●構成=プリアンプ TA-45 x 1・メインアンプ・スピーカー

という部分があります。
同時発売の YTA-200 や YTA-100 がヘッドとキャビネットの
「セパレートタイプ」でどちらもヘッドに PE-200 という
機種名が付けられています。それとの対比で YTA-45 の
プリアンプ部にも TA-45 という機種名をつけているのかも
しれません。(YTA-95 のプリアンプは TA-95)

とすると TA-45 は TA-30 の後継と考えられます。
TA-30 の記事の中で
「トランジスタアンプの草分けのような存在だったはずで
それゆえ回路的に発展中の構成が見受けられます。」
ということを書きましたが、TA-30 が発展した形が
TA-45 で見られます。

プリアンプ部で使われている三石直結回路。
三石直結回路
TA-30 で至る所に使われていた回路構成。 YTA-45 でも
1ch, 2ch ともプリアンプ部に使われています。
ところが TA-30 に続く TA-20 にはこの回路構成は
使われていません。また YTA-15A でも使われていません。
フィードバックが2重にあり、設計・解析が難しいので現在では
使われることはない回路です。
おそらく当時のトランジスタの特性のばらつきを抑えて
均一で安定した動作をさせるための構成でしょうが、
いつか LTspice での解析を行ってみたいと思います。

YTA-45 で1ヶ所だけ IC を使っているのがリバーブドライブ。
AN274

YTA-15A でも使われていた松下の AN274。
入手が困難な IC です。
幸いにも良好に動作しているので交換する必要はありませんでした。
リバーブユニット NB1662 の入力インピーダンスがおそらく 8 Ω なので
スピーカーを鳴らせる程度のパワーアンプとして使われています。
電源電圧 10V 負荷 8 Ω で 1.3W を出せるパワーアンプ。
これが壊れたら出力が少し小さいけれど LM386 を代替にするくらいしか
アイデアが浮かびません。ピン互換ではないので AN274 を取り去ったあと
IC ソケットを使って2階建基板上に LM386 を配置して代替する... などと
考えますが果たしてうまく行くか。

YTA-45 は次に挙げるカタログに記載されています。
DSC05001A

カタログの表紙は YTA シリーズのスピーカーグリル。

1970年代初頭のカタログだろうと推測されますが、年代を特定できる
記述が全くありません。それでも「New Series」という記述があるので
発売された当時のカタログのようです。


DSC05008B

YTA-45 は発売当時 YTA-200, YTA-100, YTA-95 に次ぐ最下位機種だった
ようです。
後に YTA-25 や YTA-15 が発売されるのですが、本カタログには掲載
されていません。

カタログから仕様を抜粋します。

--- ここから ---

YTA-45
現金価格= ¥68,000
ビルトインタイプ
●構成=プリアンプ TA-45 x 1・メインアンプ・スピーカー
●出力=50W
●チャンネル=2
●トーン=バス/ミドル/トレブル
●効果=リバーブ/トレモロ(チャンネル1のみ)
●スピーカーボックス=メインアンプとスピーカー(コーン形 JA-3052A x 1)
●フットスイッチ=リバーブ/トレモロ
●寸法=間口 550mm/高さ 495m/奥行 250mm/重量 17kg
●外装=レザー仕上げ

--- ここまで ---


入手した個体はとても程度がよく、美品の範疇に入るものでした。
あまり使われておらず、保存状態がよく、さらに掃除されているようです。
なかなかこの状態の物に出くわすことはありません。綿埃もなかったのですから。

DSC04921A

電源+パワーアンプ部の裏面です。
左側面に AC アウトレットがありますが、キャビネット内部にあるので使われる
ことはないでしょう。背面パネルにあるアウトレットは9ピンのコネクタを
介して別途に配線されています。TA-30 だと同様のアウトレットに延長コードが
刺さって背面パネルのアウトレットに接続されていましたが、YTA-45 では
それもありません。なんだか謎の存在になっています。

上部のプリアンプ部を背面下側から見上げるとこのようになっています。
DSC04914B

ごっつい金具でシャーシが保持されています。
緩み留めの菊ワッシャーのついたネジを左右4ヶ所取り外せばシャーシを
取り出せます。

取り出したシャーシの内部がこちら。
DSC04925C

中央に2スプリングのリバーブユニット。シャーシとの間にスポンジを挟み、
接着剤で固定しています。スポンジはボロボロではないものの固くなっており、
交換が必要です。

6枚の基板で構成されており、その間をワイヤで配線しているのがわかります。
ヤマハのアンプといえば木綿糸でまとめて空色の針金で固定する独特の配線。
木綿糸がタイラップに変わるもののこの独特の配線方式は F シリーズまで続きます。

DSC04931D

右上は電源スイッチ周辺の基板 LC1185-2。
パイロットランプやスパークキラー、AC グランド用コンデンサが搭載されて
います。高圧フィルムコンデンサなので TA-30 の時のようにオイルコンデンサが
破裂することもないでしょう。

DSC04932E
チャネル1 のプリアンプ基板 LC1187。
トランジスタが3つ並んでいますね。ふふふ。
VOLUME のポットが中点付きのものになっています。入手が難しい部品です。
中点に接続されているのは 100kΩの抵抗と 1200pF のコンデンサ(並列)。
推測ですが 抵抗は VOLUME ポットの A カーブ特性の補正、コンデンサは
ブライト回路だと思います。
中点付きのポットでなくとも(中点に接続しなくても)動作するので
通常の 100kA のポットで交換できるはず。VOLUME の操作感は変わるでしょうが。

DSC04933F

リバーブポット(二連、右)とトレモロ基板 LC1216-1。
リバーブポットは前が 50kB, 後ろが 200kB という特殊な物。入手困難。
おそらく入手不可能。
リバーブ回路の入口と出口の2ヶ所で信号の音量を制御する構造なので
このポットの交換が必要な場合は出口側の 50kB だけで制御するように
すればよいと思います。
トレモロの SPEED にも二連ポット(50kC)が使われています。
これも入手難。

DSC04934G
チャネル2のプリアンプ。これも LC1187基板。
回路はチャネル1と同じもの。基板の端にある端子に配線を接続するか否かで
チャネル1と2の区別を付けています。

DSC04935H

リバーブ基板 LC1226-1。
YTA-15A にも搭載されていた AN274 が見えます。リバーブをドライブする
パワーアンプ IC です。松下独自の IC なのでこれも入手難。
 YTA-15A の時に作った AN274 の回路シンボルが使えるので回路図作成には
手間はかかりませんが。

DSC04937K

背面パネルに垂直に搭載されているのがドライブ基板 LC-1227-3。
ドライブ基板、と呼んでいますが チャネル1(リバーブ、トレモロ込み)と
チャネル2の信号をミックスして1段増幅し、パワーアンプに渡す役割を
しています。この部分に関しては入手困難な部品はありません。

ヤマハの70年代前半のアンプです。
これまで扱った中では TA-30, TA-20 についで3番目に古いモデルの
ようです。ただ回路を探った後では TA-20 よりも古いかもという
感想を持っています。

前面パネルを見てみます。
DSC04890A

左から電源スイッチ。中点が OFF で上下に傾けることで ON になります。
ハムノイズが大きい場合にもう一方の ON ポジションに切り替えることで
ハムノイズを低減させることができます。
電源スイッチがアンプの左側にあるが当時のヤマハの特徴で J シリーズの
途中まで続きます。

続いて CH1 の HIGH と LOW の入力ジャック。
CH1 の VOLUME, BASS, MIDDLE, TREBLE, REVERB, INTENSITY, SPEED と
続きます。CH1 にリバーブとトレモロがかかる仕様。

これらのコントロールのアルミ製ノブは独特の形をしています。
パネルに 0 ~ 10 の数字が印刷されており、ノブの切り欠きから数字が
読めるようになっています。
このモデルの後にリリースされた YTA-15A では普通のプラスティック製の
ノブに変更されています。

CH2 のコントロール。
DSC04891B
同様に HIGH と LOW の入力ジャック、 VOLUME, BASS, MIDDEL, TREBLE
の順に並びます。

背面を見てみましょう。
DSC04895C

AC コードをしまうバスケットがあることがわかります。
TA-30 にもこのスペースがありました。ある程度大きなアンプでないと
このようなスペースを作ることができないという縛りはありますが、
TA-20 にはありませんでした。

DSC04899D
背面パネル。
AC アウトレット、REVERB, TREMOLO のフットスイッチ、
SIG OUT のジャック。SIG OUT は LINE OUT として使うようです。

バックパネルを取り外して内部を見てみます。
DSC04904E

アンプ底部に電源回路とパワーアンプが設置されており、電源や
信号を2ヶ所のコネクタを介して上部のプリアンプ部につながっています。

DSC04908H

スピーカーは YAMAHA JA3052A 8Ω 50W。
よくみるとダイキャストフレームです。TA シリーズの平面スピーカーでは
ないものの同じダイキャストフレーム。

DSC04910J
電源トランス GA0198 とその周辺。
シャーシ左側面にある9ピンのコネクタからスピーカーへの出力と
上部パネルの電源スイッチへのAC 電源が配線されています。

右手前の黒いロータリースイッチのノブのようなものは電源電圧切り替え。
ノブを上に引き抜いて差し替えることでAC100V ~ 240V の間の6段階を
選択できます。輸出前提の仕様ですね。写真の位置が AC100V。
そのため電源トランスの一次側に6種類のタップがあるようです。

奥にブロックコンデンサ 2200uF 80WV x 2 が見えます。

DSC04905F
ヒューズは3本。丁寧に各ヒューズの AC電圧に対する電流容量が
ラベルに記入されています。
DSC04909K
電源+パワーアンプ基板。
パワーアンプはトランジスタによるディスクリート構成。

TA-30 ではリバーブとリバーブドライブ回路もアンプ底部にありましたが
YTA-45 では上部のプリアンプ付近に設置されています。

右にある黒いコネクタは真空管のオクタルソケット(8pin) と同じもの。
ここから上部プリアンプの電源とプリアンプからの出力(SIG OUT)を
接続しています。

DSC04919L
 
電源+パワーアンプ基板の奥に黒い放熱フィンがあり、その奥に
終段トランジスタ 2SC898 が搭載されています。

ヤマハの 70年代初頭のトランジスタアンプ YTA-45 の回路図を
採取したので公開いたします。

DSC04876A

回路図

 20230128  初出
 20230408  エフェクト:R415, R416, C409, C410, R507, R508, C504 修正

  PNG:



  PDF:


schematics  YTA-45.pdf

G50-112 III の回路を見て気づくことはアンプの保護回路が
充実していること。
F シリーズではパワーアンプに3ヶ所も半固定抵抗がありました。
調整の手間がかかったと予想されることに加えて、調整を
誤ると終段トランジスタの熱暴走を引き起こすことも予想されます。
そのことを踏まえてか G50-112 III ではパワーアンプ部の調整箇所は
1ヶ所(アイドリング調整)だけになっています。
さらに加えてパワーアンプおよびスピーカーの保護回路が2ヶ所加わっています。

まずはサーマルガード。
DSC04838A

POWER AMP IN ジャックの後段、パワーアンプ入力部に付けられた
見慣れぬ部品。終段トランジスタ 2SB688 のすぐ近くに熱結合する形で
取り付けられています。
ネジ一本で取り付けられているので取り外してみると
DSC04840B
接触面にシリコングリースが塗られているので熱結合されている
と考えられます。
終段トランジスタが過剰に発熱した場合に何らかの作用をするのでしょう。
この素子は2端子だけしかなく、イン基板からの線(赤と白)のうち
白線は GND に接続されています。
基板から端子を外すと型式が現れました。
”Tokin OHD-90M47” と記入されていました。
Tokin = トーキン(元 東北金属)の OHD サーマルガード。
この素子自体はもう製造終了でしょうが、同様な製品のデータシートがありました。
同様な仕様だとすると摂氏90度に到達した時点で接点が短絡する仕様の
ようです(をを。キュリー効果を使ってる!)。
G50-112 III の回路だと異常な発熱を検知したらパワーアンプに加わる
入力信号をショートして電力増幅を中断させます。

もうひとつの保護回路はスピーカー保護。
DSC04857C
東芝の TA7317P が搭載されています。
回路構成からするとスピーカー出力に現れる直流電圧を探知して
過剰電流が流れた場合にスピーカーに直列に取り付けられているリレーを
OFF にします。
また電源 ON の OFF をいち早く検知してリレーを操作することで
「ボン!」という pop 音をスピーカーに伝えないようにします。

Hartke のベースアンプ HA3500 にも同じ TA7317P が使われており、
以前この IC が壊れているために修理不能だった悔しい経験があります。
製造終了品であるとともに入手困難です。
これが壊れていたら代替は非常に難しいと考えてください。

シャーシを取り出します。

シャーシ底面。
DSC04783A

突起物は電源トランスと放熱フィンだけ。
F シリーズでは放熱フィンに直付けされたパワーアンプが底面にありましたが
G50-112 III の底面はとってもシンプルになっています。
アルミ版を曲げただけの放熱フィンですが、これだけの大きさのものは
なかなか見ることはありません。

シャーシ内部。
DSC04784B

DSC04785C

小さな基板が周辺にありますが、一枚のメイン基板に電源、パワーアンプ、
プリアンプ、エフェクト関係がまとまっています。

終段トランジスタ 2SD718 (左, 黒)、2SB688 (右,緑) は前述の
底面の放熱フィンに取り付けられています。
アンプの出力の違いは電源電圧で決まるので、極端に言えば
電源トランスとその電圧と電流に対応した終段トランジスタを変えれば
よい。なのでこれらの部品以外はアンプの出力に関係なく
共通にできます。そのうち G100-112 III も解析したいと思いますが、
おそらくメイン基板は G100-112 III と共通ではないかと予想しています。

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