白川総裁「日銀の独立性 尊重を」
安倍氏主張に否定的
日銀の白川方明総裁は20日、金融政策決定会合後の記者会見で、日銀による建設国債の買い取りなど自民党の安倍晋三総裁が提唱している大胆な金融緩和策について、一般論と断ったうえで否定的な考えを示した。日銀への政府の関与を強める日銀法改正などの主張には「中央銀行の独立性を尊重してほしい」と述べ、慎重な議論を求めた。
「やってはいけないリストの最上位」
日銀の白川総裁は政府が公共事業のために発行する建設国債を日銀が全額買い取る案に、一般論と断ったうえで「国際通貨基金(IMF)が発展途上国に助言する際に、やってはいけないことのリストの最上位だ」と強い懸念を示した。
日銀が反論する背景には、過去の歴史がある。戦前、軍事費を賄うために導入された日銀の国債引き受けは、戦後の超インフレを招いた。国が安易に財源を確保できる手法だけに、いったん導入すれば「歯止めがきかなくなる」(白川総裁)との懸念が強い。
「国民が望むのは、単に物価だけが上昇する状態ではない」
安倍氏が提案した2~3%のインフレ(物価)目標については、バブル期の1980年後半でも物価上昇率は平均1.3%だったと説明。「3%は現実的でなく、悪影響が大きい」と反論した。国民は物価だけの上昇ではなく、雇用や賃金など経済全体の改善を望んでいると指摘し、成長力強化へ政府も構造改革に取り組むよう求めた。
「中央銀行は経済における目覚まし時計」
白川総裁は「中央銀行の独立性」を尊重すべきだとして、自民党内で浮上している日銀法改正論議をけん制した。中銀を経済の変調を告げる「目覚まし時計」にたとえ、政治の都合で止めては役割を果たせなくなると指摘。中銀の独立性は「長い歴史の中から、国際的にも確立された」と主張し、政治の安易な介入に警鐘を鳴らした。
市場は衆院選後の12月か1月にも日銀が追加緩和に踏み切ると織り込み始めた。東短リサーチの加藤出氏は「選挙直後は政治圧力が高まるうえ、米国でも追加緩和観測があり、内外環境がともに日銀に緩和を求めやすくなる」と指摘する。国債などを買い入れる基金の規模を現行の91兆円から5兆~10兆円拡大する案が有力視されている。
緩和観測が強まり、外国為替と株式市場の基調は円安・株高に転じた。ただ、国債市場の反応は薄く、長期金利は0.73%台でほぼ横ばいで推移している。