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第14章 塔と学院
第435話 塔と学院、泥か粘土か

 結局、オーグリーはかなり遅く帰って来た。

 話を聞くと、どうもフェリシーのご両親と行き違いがあって、説明するのに時間を要した、ということだった。

 今回のことは非常に特殊で、そういうことになるのもしかたがない。

 とはいえ、明日の……もうほぼ今日だが、今日の依頼についてはしっかりやる予定であることは変わらない。

 宿に戻って来たオーグリーは早々に寝る、と言って寝てしまったので、するつもりだった打ち合わせは出来ずに終わった。

 ただ、この点についてはさほど心配はない。 

 そもそも、どうやって依頼を片づけるか、という点についてはここに来る前にある程度は話して決めていたことだし、その確認をするくらいのつもりだったからだ。

 もちろん、決して難易度の低い依頼ではないし、なめてかかると失敗するだろう。

 けれど、オーグリーもロレーヌもそういうタイプではない。

 オーグリーが早く寝たのだって、勤勉でないわけではなく、眠気のせいで依頼それ自体に影響が出ることを嫌った、のだろう。

 ロレーヌもオーグリーがそうすると言ったのを確認し次第、同様にしたことからも明らかだ。

 俺はもう、必要なだけの睡眠はとってしまったし、日が登るまで虚しく時間つぶししているしかないが……。

 

 無理すれば眠れないこともないが、あんまり意味がないことだからやらない。

 なんだかむしろ疲れたりもするしな。

 この体は便利なのだが、夜はひどく寂しい。


 ともあれ、人は何かを犠牲にしなければどんなものも掴むことは出来ないとも言う。

 俺が犠牲にしたのは、夜の幸せな安寧で、手に入れたのは神銀級に至れるかもしれないという可能性だ。

 それを考えると、文句は言いにくいところである。

 まぁ、それでも人間に戻りたくはあるんだが……どうにかこの力を保ったまま、人に戻れないものかな。

 それこそ、欲張りすぎるか。

 いずれ、選択を迫られるときが来るのだろう。

 そのときまで、よくよく考えておかなければならない。


 ……なんだか、一人だと無駄に真剣なことを考えてしまうな。

 早く、朝よ、来い。

 そう思った。


 ◆◇◆◇◆


「……さて。そろそろ行くか」


 次の日というか、ロレーヌとオーグリーが多少の仮眠をとった後。

 あんなことがあったのに宿の亭主が勤勉に朝食を作ってくれ、それを腹に入れてから、ロレーヌが宿の前で言った。

 俺、ロレーヌ、オーグリー。

 三人ともに、しっかりと準備して、過不足のない格好だ。

 それぞれの武具を身に付け、採取に必要な道具も持っている。

 旅装は魔法の袋にしまい、宿に荷物も残っていない。

 残しておいても良かったのだが、宿の亭主や集落の人たちはともかく、《ゴブリン》も《セイレーン》も全く信用できないからな。

 不用心なことはすべきではない、という判断だった。


「そうだね。二人とも、依頼の内容はしっかり覚えているかい?」


 オーグリーが最後の確認、とばかりに俺たちに尋ねる。


「もちろんだ。水猫(アクア・ハトゥール)の生け捕りと、泥魔導人形(ルトゥム・ゴーレム)の泥か粘土の収集、それと飛竜天麻(ひりゅうてんま)の採取だろ?」


 俺がそう言うと、オーグリーは頷いた。


「やり方は?」


 これにはロレーヌが答える。


水猫(アクア・ハトゥール)についてはまず居場所を見つけるのが先決だな。ペトレーマ湖に生息していることは確認されているが、ほとんど精霊に近い魔物だ。見つけさえすれば、そのあとは私が魔術でやる」


「そうそう、頼んだよ、ロレーヌ。それについては僕とレントは役立たずだから」


 俺も巻き込んで言うオーグリーだが、間違ってはいない。

 魔術でのみ捕獲が出来るわけだが、俺はまだ魔術については大した調整も出来ないし、高度なものはほぼ使えない。

 オーグリーについても似たようなものだ。

 彼も魔術よりも剣術で戦うタイプの戦士だからな。

 全く使えないと言うわけでもないが、そのスタイルは魔物になる前の俺に近い。

 つまり、魔術は補助というか、焚き火の火種にしたり、水を確保したり、そう言ったことに使う方が多い、ということだ。

 

「必ずしもそうとは言えんが。私が《網》を作り、お前たちが追い込む形にする予定だろう? どちらかと言えばお前たちの方が大変だぞ」


「体力勝負だからな。俺らは。そっちの方が楽だ」


「そうそう、その通り」


 オーグリーと二人で調子のいいことを言ってみると、若干呆れたような顔をロレーヌはするが、言った内容自体には同意する。


「そういう面では私は何段も落ちるのは確かだ。うまく分担した、ということにしておこう。それで、泥魔導人形(ルトゥム・ゴーレム)の泥か粘土の収集、についてだが……」


「これもね。難しいところだよ。泥魔導人形(ルトゥム・ゴーレム)を倒す、ならいいんだけど……その体を組成する泥か粘土を採取しないといけないからね」


 オーグリーがそう言う。

 俺はそれに続ける。


「泥か、粘土か……含んでる水分の組成がどうなのかは、運の問題なんだよな。出来れば粘土質のものに出会いたいところだが」


 泥魔導人形(ルトゥム・ゴーレム)には、ドロドロの、そのままほぼ泥が動き回っているような泥魔導人形(ルトゥム・ゴーレム)と、そうではなくほぼ固体の、粘土質の体で構成された泥魔導人形(ルトゥム・ゴーレム)がいる。

 これらは種類が異なるのではなく、同一の魔物とされている。

 どの辺が同一なのか、と分類した学者に文句を言いたいところだが、魔力の質とか、その体を作る泥や粘土の性質がほぼ同じことからも正しいとされているようだ。

 泥の方の水分を抜くと粘土に、また粘土の方に加水して混ぜていくと泥の方になるという。

 これはその辺の地層で採れる泥や粘土とは明らかに性質が違うので、泥と粘土なんだから当たり前だろう、とは言えないらしい。

 だからこそ、泥か粘土かどっちかを採ってくればそれでいい、という依頼になっているわけだ。

 それで、肝心のペトレーマ湖周辺の泥魔導人形(ルトゥム・ゴーレム)の分布なのだが、泥っぽい奴と粘土っぽい奴、どちらも確認されているという。

 だから、どちらに会えるかは運なのだ。

 粘土の方に出来るだけ会いたいのだが、選ぶことはできない。

 もちろん、時間をかければ可能だろうが、今回は三つの依頼を今日中に片づけると言う時間制限があるからな。

 最初に会ったのが泥の方であったとしても、見逃して次、ということはするつもりはない。

 粘土の方が汚れないし、採取しやすくて楽なんだけどな……仕方のないことだ。

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