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第14章 塔と学院
第424話 塔と学院、誘拐犯

 誰かが近づいてくる気配がする。

 この状況で、部屋の中に入られれば俺は一体どんな扱いを受けるのかわかったものではない。

 だからこそ、その足音が俺の部屋の前で停止し、そして扉を叩いた時は少しばかり声に険が混じってしまった。


「……誰だ?」


 しかし、そう尋ねた俺に帰って来た返答は、そんな俺の緊張を解してくれるものだった。

 つまりは、良く見知った相手からの返答だった、ということである。


「……僕だよ。オーグリーだ。ちょっと夜中なんだけど話したいことがあってね。出来れば早く部屋に入れてくれないか。誰かに出くわさないか、気が気じゃないんだ」


 誰かわかったことで俺は安心できた。

 けれど、その返答の内容は……何か、少し様子がおかしい。

 ここが田舎の宿であり、少しおかしなことをすれば次の日には村人全体から妙な目で見られることもありうるようなところとは言え、ただ夜中に廊下を歩き回ったくらいで文句を言われるほどではないはずだ。

 それなのにオーグリーは……。

 まぁ、いい。

 扉を開けてやるか……ただ、その前にちょっとした忠告が必要なのは言うまでもないだろう。


「わかったが、部屋の中で何を見ても驚くんじゃないぞ? 念のため言っておくが、俺は、無実だ」


「……僕が君のことを何かで疑うことはないさ。ただ、その言葉は僕からも返しておくよ。僕もまた、無実だとね」


 そのやり取りだけで、お互いに何かがあったのだな、ということは察した。

 そしてそれが何に起因するのかも。

 俺はそのことに安堵を覚えて……というと何か変な気もするが、話が早そうだな、と思い、


「そういうことなら、今開ける」


 そう言って、扉を開いたのだった。


 ◆◇◆◇◆


「なるほど。これは色々と疑われると危惧しても仕方のないことだろうね」


 俺の部屋の中、その中でもベッド近くに転がされている物体を見て、オーグリーは納得したように頷く。

 

「……お前もな。なんで簀巻きにしてるんだ?」


 俺もまた、オーグリーに担がれた物体を見て、そう言った。

 厳密に言うと簀巻きと言うより緊縛だろうが、そんなのは些末な話だろう。

 普通に縄で縛っているわけではなく、布をかませて跡がつかないようにしてやっているあたり、オーグリーは紳士である。

 いや、これがただ誘拐してきただけだというのなら紳士でもなんでもないだろうが、まさか彼に限ってそのようなことはないだろうと確信している。


「言わなくても分かるだろう……? この娘が、僕に襲い掛かって来たのさ。見る限り、そっちも似たようなもののようだね」


 オーグリーは俺の足元に転がっているもの……つまりは、下着姿の女性を見てそう言った。

 もちろんだが、それはロレーヌではなく……ロレーヌであったら別の問題になってくるが、それは置いておいて。

 その女性は、オーグリーが今、ベッドに降ろした女性、フェリシーと酒場で飲んでいた人の一人だった。

 

 そんな人が、なぜ俺の部屋で服を脱いで転がっているのかと言えば、それは夜中に突然やってきて、何か話したいことがある、と言い始めたのでとりあえず入れたためである。

 フェリシーのように、飛竜に詳しいところがあるのかも、とか、それ以外にペトレーマ湖について何か聞けるかも、とか思ったのだが、そんなことを聞く暇もなく、自ら服を脱いで迫って来て、最後にはナイフが出て来た。

 この女性にとって不幸だったのは、俺に対して、普通の方法で武器を突き刺そうとしてもなかなか効かない、ということだろう。

 日々、練習している分化でもって、女性が刺そうとしている部分を分化させ、空振りさせた上で拘束し、気絶させて転がしたわけだ。

 刺されても死ぬわけじゃないし、見かけ上は普通に治せるが、それでもダメージは蓄積されることはマルトの迷宮騒動で分化が使えるようになりたての吸血鬼の末路を見て知っている。

 おそらくは素人の振るうナイフとは言え、わざと刺されてやる気にはならなかった。

 それで、女性を転がして一応、縄で縛ったのち、これどうしようかな、と悩んでいたらオーグリーがやってきたというわけだな。

 

 そう言ったことについてオーグリーに一通り説明すると、今度は彼からも同様の説明を受けた。

 それから二人で目を合わせ、やっぱりこれってそういうことだよね、と言葉にせずとも合意が出来た。

 ただ、セイレーンの名前やら何やらは口には出さない。

 どこで聞かれているのかわかったものではないからだ。

 ロレーヌがいれば静音結界を張った上で相談しただろうが、いないしな。

 そうそう……。


「俺とオーグリーがこうやって襲われたってことは、ロレーヌも同じような状況に陥ってるかもな?」


 俺がそう口にすると、オーグリーは頷く。


「僕とレントを襲ったってことは、僕たちパーティーを狙ったってことだろうからね。そう考えるのが自然だろうさ」


「見に行った方がいいよな」


「そうだね。ただ、この二人はどうする?」


 お互いに、縛られた女性二人を見ながら思案した。

 ここに放置しておくのは良くないだろうが、かと言って担いでいくのも流石にまずい気もする。

 しかし、そうはいっても結局、放置していくと言う選択肢はない。

 この二人がセイレーンやその仲間であるとすれば逃げるだろうし、そうでないとすれば口封じに殺されることもありうる。

 どちらにしろ、目を離すことは出来ないのは明らかだった。


「……連れて行こう。どっちかが二人を担いで、もう片方が先を進んで人を確認しつつ歩けば大丈夫だろう。もしものときは……正直に話すしかないな」


 つまり、宿の亭主や他の宿泊客に出くわした場合の話である。

 これにオーグリーは、


「信じてもらえるかな?」


 そう言うが、嘘をつくと後々面倒くさいことになる可能性が否めない。


「分からないが、仕方ない。見つからないことを祈ろう」


 そう答えるしかなかった。

 

 ◆◇◆◇◆


「……よし、いいぞ。来い」


 宿の廊下、その角で俺がその先の通路の安全を確認してから、後方にいるオーグリーにそう言って手招きした。

 俺は言わずもがなだが、オーグリーもあれで夜目が結構利く。

 だいぶ離れていても問題なく俺の手招きを理解し、こっちに来た。

 俺は更に進んで、もう一つの角で同じことを繰り返した。


「なんだか誘拐犯になった気分だよ……」


 両肩に担いだ二人の女性を横目で見つつ、オーグリーがそう言う。

 

「仕方がないだろ。ほら、もうすぐそこだ。行くぞ……」


 そう言って、俺が先を進み、ロレーヌの部屋の前に辿り着く。

 オーグリーに再度、手招きをすると、彼がいそいそと歩いて来て……


 ――がちゃり。


 とロレーヌの扉が開く。

 俺はまだその扉をノックしてはいない。

 ロレーヌが自発的に開いたのだ。

 さらにそこからロレーヌが顔を出し、


「あぁ、レントか……ちょうどいいところに……ん?」


 さらに、オーグリーの方を見た。

 オーグリーの肩には年若い女性が二人、あられもない姿で乗っかっている。


「……いや、これは。違うんだ。ロレーヌ……」


 慌てた様子で、言い訳を始めたオーグリーであった。

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