魔法科高校の音使い   作:オルタナティブ

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九校戦、懇親会編です。


第十三話

「ほー、映えんじゃん」

 

「新品特有の心地悪さはあるがな……」

 

「似合っていますよ、お兄様!」

 

達也と深雪の3人でそんなことを話しながら、テーブルに置かれている料理を皿によそう。さっぱりしてて美味いなこれ。現在懇親会の真っ只中。十師族でもある生徒会長や十文字先輩はご挨拶に回って他所の学校の奴と話してるが、ガチ一般人出の俺にはまあ関係ない。うめぇ飯で腹を膨らまそう。

 

「……八幡、結構沢山食うんだな」

 

「こんな美味くて質のいい食いもん、食える時に食っとかねぇと損だろ」

 

そうでなくても、俺は『そんなに食わなくても大丈夫』ってだけで『食おうと思ったら沢山食える』タイプだし。

 

「……お前、年収幾らだ?」

 

「んー……今年は学業もあって全然稼げてねぇけど、去年は多少休んでも問題ない中学校だったからな。4億は稼いだ」

 

「……そうか(……トーラス・シルバーとしての俺の給料80年分なんだが)」

 

もっしゃもっしゃ。2人と話しながらもほぼ無心で美味そうな料理をどこぞのピンクの悪魔ばりに吸い込むように食っていると、声がかけられる。

 

「お飲み物は如何ですか?ご主人様」

 

「……何をやっているんだ、エリカ」

 

「驚いたわ……エリカも来ていたのね」

 

「お前にご主人様って言われると蕁麻疹出るからやめろ」

 

「殺すわよ」

 

声をかけてきたのはエリカだった。ヴィクトリア形式のメイド服を着ているな。メイド喫茶とかであるような丈の短いやつじゃない、ロングスカートのちゃんとしたやつだ。

 

「……で、どうよこの服!」

 

「駄目よエリカ。お兄様は相手の外面じゃなくて内面を見ているもの。表面的な代物には囚われたりしないわ」

 

「そっかー……達也君はコスプレに興味無いか。ちなみに達也君から見た八幡はどんな感じなのよ」

 

「善人か悪人かで言えば善人。ただそれはそうとしてカスだしクズ」

 

「そうよね」

 

「ですね」

 

「さっき言われたことそのまんま返してやるよ。殺すぞ」

 

君ら俺の事なんだと思ってんの?自覚あるから余計ムカつく。

 

「で、コスプレと言うのは?誰かに言われたの?」

 

「ミキがね。しっかりお仕置きし(シメ)てやったけど」

 

草。名も知らぬミキくんに黙祷。で、誰だよミキくん。

 

「俺達と同じクラスの吉田幹比古だ。名前だけは聞き覚えがあるんじゃないか?」

 

「ああ、この前のテストで筆記3位だった方ですね」

 

あいつか。エリカのこれをコスプレ呼ばわり出来たってことはここに来てんだろうな。

 

「で、飲み物はどうする?」

 

「俺は何でも構わないが」

 

「私も特に」

 

「じゃあコーラを頼む」

 

「オッケー、それじゃあ待っててね」

 

三者三様……ってか俺がコーラを頼み、他2人は指定なしだったな。エリカがこの場を離れると、ふと何かに気付いたのか達也が問いかけてくる。

 

「それにしても、意外だな」

 

「何がだ?」

 

「いや、音楽家は炭酸を避けると聞いたことがあったからな」

 

「あー……ありゃあ殆どデマだ」

 

「そうなのか」

 

「ああ。『喉を痛める』なんて言われてるが、炭酸程度で喉をやるほど人体ってのは弱くない。基本的に音楽家が炭酸を避けるのは本番前とかの『ゲップで場を台無しにしてはならない時』だ。普段なら普通に炭酸も飲むさ」

 

「なるほどな」

 

「勉強になりました」

 

その後、飲み物を持ったエリカが戻ってきて飲み物を受け取った後仕事で離れたエリカを他所に3人で雑談。そして俺が他の食い物目当てに一言断ってから達也たちから離れ適当に物色していると、声をかけられた。

 

「……比企谷君」

 

聞き覚えのある声。なんか深雪の声に似てるがまあそれはそれ。頭をやや乱暴に掻きながら振り向くと……魔法科高校の制服を着た3人の男女。俺の『白と青緑』のカラーリングとは異なり、『白と青』のカラーリング。そして肩には4枚弁の花。そして、その制服を着ている者は……

 

「……お前らか。雪ノ下、由比ヶ浜、葉山」

 

……俺の中学時代の知人である3人。雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣、葉山隼人だった。

 

「……まさか、貴方が九校戦に参加しているなんてね。いや、そもそも魔法の才能があったことすら初耳だわ」

 

「そういうこと話すほど俺とお前は仲良くなかったろ。……あの一件で、殆ど関わらなくなったしな」

 

「……そうね」

 

「……ねぇ、ヒッキー」

 

俺と雪ノ下の話に、由比ヶ浜が割って入る。

 

「なんで……あの時、ゆきのんを庇ってくれなかったの?」

 

「……あのな。俺が庇う要素なんてなかっただろうが。寧ろあの時の状況を考えれば、雪ノ下を庇うならそれはお前がやるべき事だっただろう。俺は庇う部分がなく、お前は庇えたのに庇えなかった。その結果雪ノ下はそれ相応の罰を受けた。それだけの話だ」

 

「っ、ヒッキー!」

 

「テメェが俺にどんな幻想を抱いてるのかは知らねぇが、俺は俺だ。勝手に期待して勝手に失望した癖に、俺のせいにして責め立てるたぁ随分と偉くなったもんだな」

 

「やめなさい、由比ヶ浜さん」

 

「……ゆきのん」

 

「比企谷君、由比ヶ浜さんがごめんなさい。……九校戦、いい試合にしましょう」

 

「ちょ、ゆきのん!」

 

「……比企谷。結衣がすまない」

 

そう言って、雪ノ下は由比ヶ浜の腕を掴み歩き去る。葉山も俺に一言謝罪を述べた後、雪ノ下の後を追っていった。……肉冷めたんだけど。どうしよ。

 

 

 

 

 

懇親会は中盤に差し掛かった時。来賓者の紹介と共に来賓の挨拶が始まった。なお俺はその一切を無視して飯を食っていた。

 

「このマイペースが……」

 

達也のため息が漏れる中、次の紹介が始まった。

 

『それでは続きまして、かつて世界最強と目され20年前に第一線を退いた今も九校戦をご支援くださっております九島烈閣下より、お言葉を頂戴します』

 

「……八幡、いよいよヤバいから1回飯食う手を止めろ」

 

「えー……」

 

「おい」

 

「ゴメンチャイ…」

 

仕方なしに皿を側のテーブルに置き、壇上へと目を向ける。壇上には女の人が……いや、さらにその後ろに爺さんがいる。多分精神干渉魔法で……しかも、規模を大きく、出力を小さくして気付かれにくくしてるな。視線誘導(ミスディレクション)と極小出力の精神干渉の複合で、見事に欺いているわけだ。……良くやるよ。分かりやすく例えるなら、血のように真っ赤なボールが中央にあれば部屋中に撒き散らされ、濃度が薄まったピンクの煙など知覚できない……そんな感じだな。比較しようにも、比較対象が強すぎて基準がブレる。それ故に比較不可にして知覚不可というわけだ。

 

「……達也」

 

「八幡……お前も気付いたか」

 

「精神干渉に一家言あるからな……魔法も非魔法も基本は一緒だ。精神干渉で俺を欺こうなんざ2億年早い」

 

「……流石規格外だな」

 

「お前ん家鏡ねぇの?」

 

そんな軽口を叩いていると、九島烈は女性に耳打ち。女性は壇上舞台袖へと移動した。それにより視線の誘導先が消失。精神干渉魔法自体は極めて小さな出力であるために、すぐに魔法への抵抗能力により無効化され、生徒らに正しい光景……すなわち、九島烈が壇上にいる姿が見せられる。傍から見れば『いつの間にかいた』と錯覚するくらいにな。

 

『──────まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する』

 

『今のは魔法というより手品の類だが、この手品のタネに気付いたものは、見たところ6人だけだった。つまり──────もし私がテロリストであり、何らかの手段でこの場にいる人間を害そうとしても、私を阻むべく行動を起こせたのは6人だけだということだ』

 

『諸君、私が今用いた魔法は低ランクのものだが、君達はそれに惑わされ、私を認識できなかった。明後日からの九校戦はまさに()()()使()()()を競う場なのだよ。諸君の()()を楽しみにしている』

 

ランク主義の現代の魔法社会に対し、その魔法社会の頂点に座する十師族が異を唱える。……その意味は極めて大きく、たった1回の『手品』で未来を変えるかもしれない一石を投じたのだった。

 

 

 

 

 

一方、壇上を後にした九島烈。彼もまた、ある2人のことを思案していた。

 

(──────あれが深夜の倅か。思った通り、中々見所があるわい)

 

九島烈は達也のことをそう評し……続いて八幡のことを思い浮かべ、静かに笑った。

 

(あの筋金入りの性的倒錯者が後継者とした小僧……あの精神干渉魔法を即座に看破したあたり、音使いとしてだけでなく魔法師としても見所ありじゃな。この大会で見せてもらうぞ、『少女趣味(ボルトキープ)』の後継者。その実力を)

 

九島烈の脳裏には、燕尾服を着た二十代前半の青年の姿が過ぎっていたのだった。

 

 

 

懇親会が終わり、数時間が経った。深雪たちは温泉に入り、長旅と懇親会の疲れを癒している中。達也は割り当てられた部屋で時間を潰していた。

 

「うーっす」

 

「ああ、八ま──────?????」

 

男湯の温泉に入ってきた八幡が戻ってきたので、自分も温泉に入ろうかと思い見ていた端末の電源を落とし、顔を上げる達也。しかしその瞬間、理解し難いものを見てしまったかのようにフリーズしてしまった。

 

「どうした?なんか変なもんでも顔についてるか?」

 

そう言って顔を擦る八幡。だが達也は八幡の顔を見ていなかった。

 

「……お前、その服は?」

 

「ん?寝間着」

 

そう。見ていたのは八幡の着ている服だった。……着ぐるみパジャマなのだ。しかも魚系の。ちなみにネットでXLサイズのものを購入したらしい。サイトでの見出しは

 

「通気性抜群で夏でも涼しい!それでいてふわもこで着ていて心地いい着ぐるみパジャマ!」*1

 

である。

 

「……ここまで戻ってくる時、色々な人に見られただろ」

 

「すれ違った十文字先輩が三度見してた」

 

「……そうか。ちなみにモチーフはなんだ」

 

「ウバザメ」

 

「ウバザメ」

 

達也は頭痛を覚えた。

*1
税込4500円




葉山隼人の秘密
実は、四葉家の執事長を務めている葉山忠教の超遠縁の親戚。

比企谷八幡
実は、一番好きな海水魚はウバザメ。一番好きな淡水魚はRREAフルレッドグッピー。

司波達也
実は、頭痛を覚えたが同時に『こういう着ぐるみパジャマを深雪が着ていたらめちゃくちゃ可愛いだろうな……』と考えていた。

雪ノ下雪乃
比企谷八幡の中学時代の知人。『奉仕部』という部活の部長を務めていた。
中学時代に『ある一件』を起こしてしまい、それにより東京の第一高校ではなく関西の第二高校に進学することになった。『ある一件』で庇わなかった八幡のことに関しては当初は恨んで責め立てていたが、今では申し訳なく思っている。

由比ヶ浜結衣
比企谷八幡の中学時代の知人。『奉仕部』という部活の部員だった。
中学時代の『ある一件』で第二高校に進学した雪乃を追いかけて第二高校に入学した。『ある一件』で雪乃を庇わなかった八幡に不満を持っている。

葉山隼人
比企谷八幡の中学時代の知人。雪ノ下雪乃の幼馴染。
雪乃と結衣の2人に振り回されている苦労人。八幡のことは中学時代にかけてしまった色々な迷惑もあって申し訳なく思っている。

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