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第14章 塔と学院
第406話 塔と学院、旅の目的

「あのときとは……?」


 首を傾げて俺が尋ねると、王女殿下は答える。


「つい先日の……皆さんに助けて頂いたときのお話です」


 なるほど、確かにあの時としか言いようがないか。

 そしてまさにあのとき、俺たちは王女殿下ご一行の目的を尋ねることはしなかった。

 特に三人で示し合わせたわけではないが、聞くことで藪蛇になることを恐れたからだ。

 可能な限り厄介ごとを抱え込まないようにしよう、という小市民の発想だな。

 ……別に小市民でなくとも、普通はそうするか。


「つまり、あれは古貴聖樹国からの帰路だった、ということでよろしいでしょうか?」


 ロレーヌが王女殿下に尋ねると、頷いて答えた。


「その通りです。しかし、その道中、幾度となく襲われ、あの辺りに辿り着くころにはナウスを始めとする近衛騎士たちも疲労困憊で……それであのような状況に」


 当時、ナウスたちは王族の近衛騎士とは思えないほどに消耗しており、何故だろう、と疑問を感じたことを思い出す。

 やはり、戦闘行為を何度も繰り返した結果のことだったのだなと納得した。

 しかし、そうだということは……。


「……古貴聖樹国のエルフたちから攻撃を受けたということですか? だとすれば大変な問題のような……」


 なぜそう思ったのかと言えば、ニヴが枝をもらいに行って狙われまくった話が頭にあったからだろう。

 しかし、王女はこれには首を横に振った。


「いえ、まさかそんな……エルフたちは確かに排他的なところのある種族ですが、基本的に非常に穏やかな性質をしています。もちろん、何かあれば戦うことは躊躇しませんが、他国の、一応とはいえ王族に当たる人間に突然攻撃を加えるような野蛮さは持ち合わせてません」


 ……まぁ、そりゃそうか、と思う。

 そんなことをすれば、下手をすれば……いや、下手をしなくても国家間の戦争になるからな。

 ヤーランがいくら辺境の田舎国家とは言え、動員できる兵力は決して少なくない。

 いくらエルフと言えども、無意味に戦いたいと思うような相手ではないだろう。


「しかし、でしたらどうして……」


「襲撃をした相手でしたら、正直なところよくわからない、というのが正確なところです。魔物だったり、盗賊だったり、傭兵だったりしたものですから……ただ」


 と王女殿下が先を続けようとしたところで、ナウスが割って入る。


「そちらについては私の方から」


「……ナウス。お願いします」


 王女殿下はこれに不敬とは言わず、素直に場を譲った。

 一体どうしたのだろう、と思っているとナウスが話しだす。


「あまり確実ではないことですので、殿下がおっしゃれば問題になります故……。これはここだけの話にしていただきたく」


 かなり慎重な様子だったが、俺たちが頷いたのを確認すると、ナウスは続けた。

 俺たちを信用して、というわけではなく、何かあったら自分が責任をとるつもりなのだろう。

 どういう取り方をするのかはあれだが……とりあえず俺たちは牢獄に、という感じかな。

 ……絶対、ここだけの話にしよう。


「おそらくですが、先ごろの襲撃を主導したのは、王女殿下の兄君、姉君たちのいずれか、もしくはその両方だろう、と推測しております」


 ……なるほど。

 それは簡単には口に出来ない話だなと納得する。

 王女殿下の兄と姉、と言うと第一王子と第一王女、ということになる。

 第一王子、ヨアヒム・プリンツェプス・ヤーランと、第一王女ナディア・レギナ・ヤーラン。

 ジア王女とは血を分けた兄姉である……が、そうであるがゆえに国王が崩御した場合には敵同士になるかもしれない相手だ。

 これはまた血生臭い話になって来たが……。


「……それは、何故です?」


 ロレーヌが尋ねた。

 そうだ、仮にジア王女が襲われたのがその二人のうちのどちらか、もしくは両方の差し金だったとして、一体何のために、というのがある。

 簡単に考えればいずれ現国王が崩御した場合に、後継ぎとなりうる人間を一人でも排除しておきたい、というものが考えられるが、ジア王女の王位継承権はあまり高くない。

 単純に考えて、最高でも第一王子、第一王女の次になるはずだ。

 細かく考えると王弟とかその係累とか色々とあるのだろうが、そこまで詳しいことは自分の国ながら知らないが……。

 ともかく、わざわざ今の段階で殺しにかかるほどのことでもないような、と思ってしまう。

 そんな俺たちの疑問に対し、ナウスは答えをくれる。


「それは、今回の古貴聖樹国への訪問によって、ジア王女殿下が王位継承者として指名される可能性があったからです。そうなる前に、早めに芽を摘んでおこう、ということだったのだろうと……」


 そう言う事情があるのなら、確かに第一王子、王女が行動に出た理由としては納得できる。

 ただ、ここでもなぜ、がある。

 どうして今回の訪問によってジア王女殿下が王位継承者となるのか。

 これについては、王女殿下自身が口を開いた。


「先ほど、王杖について、長年の酷使により限界に近付いている、というお話をしました。しかし、これを国王陛下はお使いになり続けられておられると。ですが、もちろんのこと、その状況は良いことではありません。まさに対策が必要です。単純に考えて、方法は二つでした。一つは王杖を修理すること。そうすればまだまだ使うことも可能であるかもしれない、ということですね。しかし、王杖は毎日、陛下がお使いになられますので……数週間、王都から持ち出すことはできません。修理するにはハイエルフに頼むしか方策がないものですから……」


 相当な効果を持つ品である。

 特殊な技術が必要であることは想像に難くなく、したがって製作者に頼むしかない、ということだろう。

 だが、王杖を持ち出してしまうと結局、その間は使用することが出来ないためにヤーランに不死者が溢れるかもしれない、と。

 俺にとってはある意味楽しく歌って過ごせる国が到来する感じかもしれないが……普通の人間からするとアウトだな。

 マルトはラウラやイザークがどうにかしてくれそうな気がしないでもないが、他の土地は無理だろう。

 したがって、採るわけにはいかない選択肢だと言うことだ。

 王女は続ける。


「ですので、もう一つの選択肢……新たな王杖の製作をハイエルフに依頼する、という選択を採る他ない、という結論に達しました。王杖はハイエルフの作り出したもの。新たな王杖を作り出せるとしたら、それはかの国のハイエルフ以外におりません。ですから私は古貴聖樹国に赴くことにしたのです」

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