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第14章 塔と学院
第392話 塔と学院、方針

「……終わったのか? 面会の方はどうなった」


 近づいてきた俺に、ロレーヌがそう尋ねる。


「いや、どうも、今は留守にしているって話だった。五日もすれば戻ってくるらしいが……」


「留守……まぁ、総冒険者組合長グランドマスターともなれば、そうそう、一所にじっとしてはいられんか? しかし、王都からはあまり離れられないと言う話だったが……」


 ロレーヌが少し不思議そうにそう言った。

 確かに、と俺はマルトでの話を思い出す。


「ウルフはそう言っていたな。ただ、マルトみたいな辺境の遠隔地には中々いけないってくらいの意味だったのかもしれない」

 

 王都からマルトまでは普通に行こうとしたら一週間はかかるのだ。

 往復を考えると二週間以上かかってしまうわけで、流石にそこまでは王都を留守にする訳には行かない。

 ただ、王都に近い距離にある地方都市くらいなら、数日あれば行き来が可能であるし、それくらいなら頻繁に出ているというのもおかしくはない。


「なるほど、そうかもしれんな。ま、何にせよ、いないものは仕方あるまい。しかし、時間が出来たのだ。ある意味、ちょうどよくもある。色々とある用事を先に済ませるとするか……」


「そうだな……」


 俺がすでにたどり着いていた結論と同じことを提案したので、頷くと、ロレーヌは続ける。


「片づけなければならないのは、東天教の教会にリリアン殿からの手紙を届けること、王女殿下に挨拶をしに、王宮に行くこと、そしてアリゼとリナに土産を買うこと、と言ったところだな。最後のはともかく……まずやるべきは……」


 少し考え、俺の方を見た。

 お前はどう思う、ということだろう。

 まぁ、実際、どれを先に片づけてもよくはある。

 ただ、どういうことになるか読めないものよりも、すぐに片づく用事を先に終わらせておいた方がいいかな、とは思う。


「手紙かな。王宮の方は、どれくらい時間をとられるかわからないが、手紙はただ渡してくればそれで済むわけだし」


「確かに、それもそうか。まぁ、私が受けた話だから手紙は私一人で渡してきてもいいんだが、王宮には私も行かないとならないだろうしな……」

 

「その通りだ。それに、もう一人、王宮に一緒に連れてかないとならない奴がいる。あいつと連絡をとらないとならないが、冒険者組合ギルドに伝言を残しておく、くらいしか出来ないからな……あとは、あいつの行きつけらしいあの店に行ってみるくらいか」


 以前、王都に来たとき、オーグリーとの待ち合わせに使ったあの店だ。

 あそこに行けば、会える可能性はある。

 冒険者組合ギルドの伝言の方は、ここにオーグリーが来れば伝えられるから、遅くとも明日までには連絡がつく、と思うが長期の依頼に出ている可能性もあるからな。

 そうなると、王宮には俺とロレーヌだけで行くしかなくなるが……まぁ、そのときはそのときだろう。

 

「案外、派手な服を着ているおかしな冒険者を見なかったか、とそこらで聞いて歩けば簡単に見つかりそうではあるがな」


 ロレーヌが冗談混じりにそう言ったが、馬鹿には出来ない話である。

 あいつの格好はひどく目立つし、本当にそれが一番簡単な方法かもしれない。 

 だが、それはなんとなく最後の手段にしておきたかった。

 

「まぁ、どうしても見つからないときはそうしようか……じゃあ、東天教の教会に向かおう。確か、王都の東部にあるんだったよな?」


「ああ、そのはずだ」


 そして俺とロレーヌは、冒険者組合ギルドを出て、教会に向かって歩き出す。


 ◆◇◆◇◆


「……マルトの教会が掘っ建て小屋に見えるな」


 俺が、その建物の前でそうつぶやくと、ロレーヌが頷いて、


「まぁな。そもそも東天教はあまり資金の潤沢な宗教団体ではないが……ヤーランでは主要な宗教なのだ。本部に当たる王都の教会が、マルトの教会と同規模なわけもない」


 そんなロレーヌの評価に見合うように、高い塔の築かれた建物が荘厳に輝いている。

 多くの東天教徒たちが忙しく、しかし静かに出入りしている様子も見えた。

 活気があるな。

 マルトの東天教の教会にそれがないというわけではないが、ロベリア教に押され気味なところがあるし……。

 でも、王都でもロベリア教はそれなりに広まってはいるようで、少し離れたところにロベリア教の教会が建っているのも見えた。

 その前もここに来るまでに通ってきた訳だが、勧誘が結構すごくて引いてしまったくらいだ。

「ロベリア教の教徒になれば救いが約束されますよ」「聖者様や聖女様が頻繁にいらっしゃいますので、現世利益の方もばっちりです」「聖水の価格の方も他より勉強させていただいておりますので……」なんていう台詞が十メートル進むごとに誰かからかけられた。

 商人か、お前らはと聞きたくなったくらいだが、聞いたらきっと面倒くさいことになりそうな予感がしたので無視したり曖昧に笑って通り過ぎた。

 ロレーヌの方は隣にいたのにほとんど勧誘されていなかったが、あれはどういうことなのか。

 不思議に思って尋ねてみると、


「騙しやすそうな雰囲気でも出ていたのではないか? 私の方もちらりとは見ていたが、すぐにすいっ、とどこかへ去っていったからな……」


 と答える。

 ……俺って騙しやすいのかな?

 今の見た目は結構、怪しげで、むしろ騙してきそうな人間に見える気がするのだが……。

 生きてるときは、確かに人が良さそうな顔だとはよく言われたけどな。

 ただ、マルトではそういう勧誘みたいなものはほとんど受けたことはない。

 まぁ、もともとマルトはそういうのは盛んではなかったからな。

 王都のロベリア教がどん欲すぎるのだ。

 その証拠に、今いる東天教の人々はそんな勧誘してこないからな……。

 ただ、そんな姿勢が、今、ヤーランでロベリア教が徐々に拡大している遠因にはなっているのかもしれない。

 そう考えると、ヤーラン生まれの俺としては東天教にももう少し頑張ってほしいと思ってしまうが……基本的にはあまり信仰心はないからな。

 まぁ、いいかという感じではある。

 そこまで考えたところで、 


「さて、そろそろ行くぞ、レント。あまりここで突っ立っていても怪しいしな」


 ロレーヌがそう言って教会に向かって進み出したので、俺もその後に続く。

 それから、開かれた大きな教会の扉をくぐり、中に入ったのだった。

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