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第14章 塔と学院
第384話 塔と学院、院長の依頼

「うーん……ちょっと二人で話をさせてもらえる?」


 アリゼがそう言ったので、俺とロレーヌは顔を見合わせ、それから俺がリナに、


「じゃあ、俺たちは一旦席を外した方がいいかもな。リナもそれでいいか?」


 そう尋ねた。


「はい。私は構いませんよ。アリゼちゃんもそれでいい?」


「ええ」


 二人でそう言ったので、俺たちは応接室を一旦出ることとなった。


 ◆◇◆◇◆


「……おや。お二人とも、どうされたんですか? アリゼと何かお話があるということだったと思ったのですが……」


 応接室を出ると、院長室と思しき部屋から出てきた、孤児院の院長であるリリアンがそう俺たちに話しかけてきた。

 以前は病にかかって臥せっていたが、今はそのときの面影のまったくない、ふっくらと健康そうな姿で少し安心する。


「あぁ、これはですね……」


 リリアンの言葉に、ロレーヌが経緯を説明すると、彼女は頷いて、


「そういうことでしたか。確かに、そのようなことは相性が大事ですものね」


 と納得したようである。


「リリアン殿から見て、大丈夫だと思いますか?」


 ロレーヌがリナとアリゼの相性について、尋ねてみる。

 といっても、そんな完璧な回答を求めているわけではなく、ただの世間話としてだろう。

 リリアンがリナと会ったのは今日が初めてだからな。

 それも、孤児院に入ったとき、ちらっと会話した程度である。

 人となりについて分かるはずも……。

 しかし、


「そうですね……リナさんは、かなり素直で純粋な娘に思えますから、アリゼとは相性は悪くないのではないかと思いますよ。アリゼはどっちかといいますと、少しひねくれている部分がある娘ですけど、心は優しい子です。変に真面目な方よりも、リナさんのような人の方が気楽に接することが出来るのではないかと」


 と、少し考えつつではあるが、俺やロレーヌから見てもなるほど、と思うようなリナ評をくれた。

 

「とてもよく納得できるお話ですが、リリアン殿はリナとは今日初めて会ったのでしょう? それですのに、よくそこまで分かるものですね」


 ロレーヌからすると、驚きのようで、感嘆をこめて、彼女はそう言った。

 これにリリアンは、


「これでもこの孤児院で院長をして長いですからね。若い子の性格や考えは、一目見ればなんとなく分かることが多いです。もちろん、そうでない場合も多くありますので、おかしな過信はよくないと思っていますが……リナさんは本当に素直そうですし、アリゼはそれこそ付き合いが長いですから」


 そう答えた。

 孤児院長としての経験が、他人の人となりを見抜く技能を彼女に与えているというわけだろう。

 こういう対人能力は俺にはかけているところで、ちょっと分けてくれやしないかと思ってしまう。

 やっぱりぼっちで迷宮の暗がりで生息していたスライムのような存在である俺に、そんな技能が身につくはずがないからな……。

 ちなみに、ロレーヌは意外とコミュニケーション能力がある方だ。

 このマルトに来たばかりの頃は世間知らず感満載で、そうでもなかったんだが、この十年ですごくこなれたというか……。

 理由はよく分からないが、やっぱり地頭の出来が違うとそういうところまで吸収力が違うのかも知れない。

 

「……ま、リリアン殿にそんな風に言ってもらえるなら、安心だな」


「そうですか? 心配するとしたらつまらないところで喧嘩しそう、というのもありますけど」


 俺が一安心だ、と言った途端にそんなことをいたずらっぽく言い始める辺り、この人も結構な人だと思ったが、リリアンはそれからふっと思い出したように、


「ああ、そうでした。お二人は王都に行かれるということでしたが……」


 と話を変えてくる。

 真面目な様子だったので、俺たちは居住まいを正し、


「ええ、そうですが、何か……?」


 ロレーヌがそう言って話を促す。

 するとリリアンは、少しあわてたように両手を振り、


「ああ、いえいえ、そんな大した話ではないので軽く聞いていただきたいのですが……もし少し、王都で時間があるようでしたら、東天教の教会に手紙を届けていただけないかと思いまして。もちろん、報酬は相場通りにお支払いしますので……」


 そんなことを言ってきた。

 軽く、とは言ったが、仕事の話である。

 真剣に聞かなければならない。

 ただ、魔物の討伐とか護衛とかと比べれば、命をそこまでかけなくていいだけ、気が楽な方の仕事になるだろうが。

 それでも全く危険がないわけではない。

 マルトから王都まで、距離が長いからな。

 盗賊や魔物の危険というのはいつでもあるのだ。

 しかし、それは今回、王都に行く俺たちにとっては当然織り込み済みの危険であって、それが増えるわけでもない。

 だからこれくらいの仕事は、受けても構わないだろう。

 とはいえ、少しロレーヌと相談してみる。


「……時間、あるかな?」


「まぁ……王都にある東天教の教会は街の中心部に近いところにあったはずだからな。冒険者組合ギルドともそれほど離れていないし、それほどの手間もかからんだろう。最悪、一日取られたとしても、今回のウルフからの依頼は一刻を争うという性質のものでもないだろう?」


「まぁ、そうだな。大体一週間で王都に着くっていっても、一日二日ずれることは最初から分かっていることだし……なら、問題ないか」


「と、思っていいのではないかな。まぁ、私は依頼を受けていないのだし、私が届けに行けばいいわけだしな。あまり心配はいらないだろう」


「それもそうか」


 今回の依頼を受けたのは俺で、俺が自分の依頼を片づけている間、ロレーヌが手紙を届けに行けばそれでよくもある。

 話がまとまったところで、ロレーヌがリリアンに言う。


「……レントの方は一応、依頼があるので時間が取れるかどうかは分かりませんが、私でよければそのご依頼、お受けします。冒険者組合(ギルド)を通す時間もないので、個人的にということになりますが、いかがですか?」


 俺の方について、時間がとれるかどうかわからない、と言ったのは一応、念のためであろう。

 まぁ、十中八九取れるだろうが、絶対とはいえないからな。

 ロレーヌなら確実だ。

 これにリリアンは、


「もちろん、それで構いません。ロレーヌさんには、アリゼがお世話になっていますし、信頼がありますので……。では、お帰りの時までに手紙の方は用意しておきますので、そのときに執務室にお寄りいただけますか?」


「ええ。分かりました」

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