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第14章 塔と学院
第382話 塔と学院、弟子たちの扱い

 リナのこと、つまりロレーヌが言うのは、不死者と化した彼女を一人、このマルトにおいていくのは不安がある、ということだ。

 しかし、これについては……。 


「そんなに長く留守にするつもりでもないからな。イザークにフォローを頼んでおけばそこまで問題視することもないんじゃないか」


 完全に同じもの、とは言えないが概ね似たような存在である吸血鬼のイザークがこの町にはいる。

 それに加えて、今は眠っているが、おそらくは物凄く強いだろうラウラがこの都市マルトを裏から牛耳っているのだ。

 ……なんだか、考えてみるといつの間にか俺って悪の組織の一員みたいになってないか?

 という気がしてくるが、ラウラもイザークもその身は魔物のものであっても、その心は悪人ではない。

 なんていうか、昔は暴れ回ってたが丸くなった近所のおじさんみたいな、そんな存在である。たぶん。

 イザークはあのシュミニと仲間だったわけだし、その暴れ具合は街の不良相手に愚連隊を組んでいた程度の街のおじさんと比べるのはいろんな意味で問題かも知れないが、概ね似たようなものだろう……違うか?

 ともあれ、どっちも今は人を無闇矢鱈に襲ったりはしない、という点では共通である。

 無闇でなかったら襲うのか、と言われると……まぁ、吸血鬼だからな。

 ある程度は仕方がない部分はあるだろう。

 ただ、それほど血は必要としないということだったし、この街で行方不明者が定期的に続出、なんてこともない。

 シュミニ関連とか、何らかの他の理由でそういうことがあったことはあるが……イザークたちは何十年、何百年単位でここにいるのだろうから別問題だろう。

 まぁ、そんな彼らであるから、リナのことをある程度任せても大丈夫なはずだ。

 

「とりあえず、リナについてはそれでもいいか。ただ、アリゼのこともある」


 ロレーヌが魔術を、俺が冒険者の技術について教えている、孤児院の子供である。

 ただ、アリゼについても結構気の長い話というか、今日明日にも魔術師や冒険者として大成してもらわなければということでもないからな。

 

「そっちについては、リナに頼んでみてもいいんじゃないか?」


 ふとそんなことを思って提案してみた。

 リナもあれで冒険者である。

 身体能力も上がり、人ならざる能力も身につけて、ここのところ、めきめき実力が上昇している新進気鋭の……は流石に言い過ぎか。

 ただ、魔術も、冒険者としての技術も、アリゼよりは遙かに上だ。

 だからこその提案だった。

 これにロレーヌは少し面白そうな表情をし、


「なるほど、それもいいかもしれんな……。リナも後輩が欲しそうな顔をしていたことだし」


 そう言った。

 いつそんな顔をしたのか、といえば、リナにはここのところ、一人で、というか俺の使い魔、エーデルと一緒に《水月の迷宮》に一日中潜らせたりとかしていてな。

 リナにはもう、しっかりパーティーメンバーがいるわけだが、彼らはまだ、冒険者として十分に働ける、というほど体力が回復していない。

 その間、少しでもリナに実力をつけさせようと思って鍛え上げているわけだ。主に時間帯は夜なので、一応、このロレーヌ宅の居候の一人である彼女の姿を夕飯時に見かけないのはそのためだ。朝はいるんだけど。ちなみに俺と同じでほとんど眠らなくても問題ない体になっているからこそ出来ることだ。普通の人間は、まねしてはいけない。

 それで、ロレーヌが魔術を、俺が剣術やら冒険者として気にすべきことやらを教えているわけだが、なんだかんだ言って冒険者が実力を一番つけられるのは実戦だからな。

 こればっかりは、実際に魔物と戦って命の取り合いをしなければ身につかない部分がある。

 だからこその、迷宮探索だ。

 もちろん、本業として、リナには稼ぎ方も身につけてもらわないとというのもある。

 今の彼女なら、力押しでもある程度稼げはするだろうが、効率的な稼ぎ方というのがあるからな。

 何があっても食いっぱぐれない技能は必要である。

 それはただの腕っ節だけではなく、どう魔物を解体するのがうまいかとか、どの部分が高く売れるかとか、そういう知識面の話もある。

 そのためには、迷宮に潜ってがんばるのが一番なのだ。


 ただ、本当に一人で潜らせるのもかなり、心配だったからな。

 エーデルをお目付役というか、臨時パーティーメンバーとしてつけたわけだ。

 リナにしろエーデルにしろ、形式的にはおおむね、俺の使い魔扱いだからな。

 相性はいいだろうと思ったわけで、実際、一人と一匹でちゃんと迷宮を攻略している。

 だが、エーデルの方が俺の使い魔的には先輩に当たる上、もともと魔物だからか、魔力などの力の扱いもこなれているので、リナはまだまだ力の足りない後輩扱いらしい。

 迷宮から戻ってくると、リナは少しばかりそんな話を愚痴混じりにし、自分にも後輩が出来る日が……みたいなことを語るわけだ。

 ただ、その視線がなぜか俺を見て、期待しながらなのは勘弁して欲しいと少しだけ思わないでもない。

 まるで弟や妹を欲しがる子供のようである。

 使い魔はそうぽんぽん出来るものではないのだ。

 そういうことを言うと、がっかりとされるわけで……俺は別に悪いことをしたわけじゃないはずなのに、なぜか申し訳ない気分になる。

 

 ただ、そこのところ、解決してくれそうな貴重な人材がアリゼ、というわけだ。

 彼女はもちろん、使い魔などではなく、歴とした人間の子供であるので、厳密な意味ではリナの後輩というわけではないかも知れないが……まぁ、いずれ魔術師や冒険者の道に進むということを考えれば、後輩と言っていいだろう。

 

「これで、俺に弟妹を強請る子供のような視線も向けられなくなりそうだ、とか思っていないか?」


 ロレーヌが笑いながらそう言ってきたので、


「……まぁ、それもある」


 と答えざるを得なかった。

 

「ふふ……とはいえ、悪くない話だ。もちろん、リナも冒険者としてはまだまだだが、何も一緒に迷宮に潜れと言う話ではないからな。ここに通いで来るアリゼに少し先輩として教えてやってくれないか、と言えば喜んでやってくれるだろう」


「だろうな……ってことで、問題は大体片づきそうだ。ロレーヌも王都に?」


「ああ、付いていくことにしようか。いざとなれば、王都につけば一瞬で帰る手段もあることだし、な」


 それはもちろん、転移魔法陣のことだが、最後の手段である。

 そうそう、使うような緊急事態はないだろうし、普通に馬車で帰ってくることになるだろうな。

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