「……
もちろん、
きっと偉い人だろう、とは思っていたがいくらなんでも偉すぎるだろう。
俺のような下っ端に任せていいのか、と瞬間的に思ったわけだ。
しかしウルフは、
「別に戦ってこいとか、冒険者組合の改革を提案してこいとか言ってる訳じゃねぇんだから、問題ないだろ? ただ会って、ここに連れてくるだけだぜ。それがそんなに無茶な話か?」
と何でもないことのように言う。
……まぁ。
確かにそう言われると……そうかな?という気もしないでもない。
むしろ、下っ端
ウルフは続ける。
「まぁ、お前の言うことも少しは分かるぜ。
それは恐ろしい話であった。
さすがに冗談だろ、と思うが……その表情を見ると怪しげに微笑んでいる。
どちらとも取り得る、判断の難しい表情だ。
返答を間違えると本気でそんなことをしかねないところがあるのは分かっているので、俺は即座に断る。
「いや、謹んでご遠慮します……はぁ。分かった、俺が行くよ。迎えにさ。でも、
そう、まさかそんな重要人物がその辺の村にいるわけもなく、ヤーランすべての
実際、ウルフも頷いて、
「ああ、だからそこまでちょっと行ってきてもらうことになるな。ちょっとって距離じゃねぇかもしれねぇが、まぁ、別に国を跨げと言ってる訳じゃねぇんだ。速い《馬》に乗れば一週間もあれば着くだろうさ。都合大体、二週間の拘束になるから……報酬は弾むぜ。職員としての仕事だが、お前はあくまで臨時だからな。働いた分、しっかり報いるつもりだ」
だいぶ待遇もいいようである。
しかし、王都までか……。
あの古代王国跡の転移陣を使えばそれこそ一日とかからず行けるわけだが、今回はそうするわけにはいかない。
なぜなら、迎えに行って、そこからここに連れてこないといけないわけだしな。
まさか
会ったこともない人なのだし、どの程度信用できるのかもさっぱりだしな。
ウルフはかなりの信頼を置いている、と聞いたことがあるが、やはり人間というものは実際に自分の目で見て接してみないと、その性格は分からない。
だから、転移陣ではなく、まっとうな手段で行かなければならない、ということになる。
相当に面倒だが……まぁ、考えようによっては王都に行くのは悪くない、かな。
そもそも、俺には王都に行く用事があるのだから。
以前、王都ヴィステルヤで行きがかり上、助けることになってしまったあの主従を訪ねないとならない。
数日したら訪ねる、なんて言ったけど、それより時間が経ってしまっているからな……。
冒険者だと言っておいたから、その辺りについては許してもらえることを期待しておくしかない。
それか、オーグリーがうまいことやってくれるかだな。
まぁ、今のうちに頑張って言い訳でも考えておこう。
例えば、このマルトに迷宮が出来たことなんてちょうどいい言い訳になるかも知れない。
冒険者として!
どうしても新たに誕生した迷宮を見たくて!
おわかりいただけますでしょうか!
……押し切れるかな?
無理そうだ。
その辺は助けた強みでなんとか頑張ろう。
そこまで考えたところで、俺はウルフに言う。
「なら、さっそく明日にでも出発することにするよ。馬車の方も手配しないとな……」
「お、受けてくれるのか……助かったぜ……」
ウルフのその声に、ひどくほっとした雰囲気があるのは、やはりいくら忙しいとは言え、
まぁ、噂で聞くに、ウルフは冒険者として活動することが難しいほどの重傷を負ったあと、
そりゃ、かなりの恩を感じていてもぜんぜんおかしくはないな……。
それから、ウルフは言う。
「ああ、馬車の方は、こっちで手配しておくから、レント、お前は今日のところは荷造りだけしておいてくれればいいぜ。あと、向こうの
「忙しい割に、ずいぶんと至れり尽くせりじゃないか?」
猫の手も借りたい忙しさのはずなのに、かなり細かいことをやってくれるな、と思っての台詞だった。
ちょっと変な気がして。気のせいかな。
これにウルフは、
「さすがにいきなりマルトのただの冒険者がやってきて会ってくれるほど、
そう答えた。
かなり無理矢理俺に要求を呑ませているようでいて、結構細かく気を使ってくれているのはウルフらしいか。
俺は素直に彼の言葉を受け入れて、
「……そうか。ま、そういうことなら、ありがたく受け取っておくことにするよ。じゃ、俺は戻るから」
「ああ、頼むぜ」
そう言われて、俺は執務室を出て行った。
◇◆◇◆◇
がちゃり、と執務室の扉が閉まる。
それを、マルト
それから、扉の向こうから、骸骨仮面の男の気配が完全に消えたのを確認し……。
「……ふぅ。はらはらしたが、うまいこと押しつけられたか。あいつあれで勘が鋭いからな。どこで突っ込まれるか不安だったが……いい方に解釈してくれたらしい。助かったぜ」
そう不穏な独り言を述べ、続けて、
「健闘を祈るぜ、レント。俺は暇でも行きたくなかったくらいだからな……」
そう言い、それから部屋の中に積上がった書類の束を机の上に載せて、仕事に改めて取りかかったのだった。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。・特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はパソコン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。