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第13章 数々の秘密
第355話 数々の秘密と炎

「……流石に、吸血鬼狩り(ヴァンパイア・ハント)をたくさんするっていうのは……」


 ライズはニヴの言葉にがっくりと来ていた。

 その理由は極めて分かりやすい。

 銅級になったばかりの新人冒険者に、吸血鬼狩り(ヴァンパイア・ハント)なんてものは夢のまた夢だからだ。

 ニヴが手際よく吸血鬼狩り(ヴァンパイア・ハント)をしていくのでその難易度について最近、感覚が狂いつつあるが、本来、吸血鬼狩り(ヴァンパイア・ハント)というのは高位の冒険者であっても手を焼く高難易度依頼ばかりであり、普通の冒険者がいくつも片づけていけるようなものではない。

 そもそも吸血鬼ヴァンパイアは極めて隠れるのがうまく、人の間に一度潜り込んだら二度と見つけられないというのが基本であるし、戦闘になれば、下級吸血鬼レッサー・ヴァンパイアでもその実力は最低でも銀級に匹敵し、そして放置しておけば延々と屍鬼しきという眷属を増やし続けられると言う厄介さである。

 仮に吸血鬼ヴァンパイアを見つけても、その退治の仕方を間違えれば、その村や町に阿鼻叫喚の地獄絵図を容易に作り出すことの出来る悪魔的存在であって、そんなものに下級冒険者がおいそれと手出しなど出来るはずがない。

 ニヴがそれを出来るのは、ほぼ確実に吸血鬼ヴァンパイアを判別できる能力と、極めて高度な吸血鬼ヴァンパイアに対する理解、そして恐ろしいほどの執念深さと、それを可能にする分析力と計画能力を持ち合わせているからだ。

 そしてそんなものは、駆け出しの冒険者がそうそう持ちうるものではない。

 だからこそのライズの落胆だった。


「……ライズ、別にそんなに無茶なことしなくてもコツコツ頑張っていけばいいんだよ。レントさんも前そう言ってたでしょ?」

 

 ローラがパーティーメンバーをそう言って慰める。

 俺は……そんなこと言ったかな?

 雑談とかしているときに言ったかもしれないが、あまり覚えていない。

 覚えていないとはいえ、別に適当に言ったわけではないと思うが。

 本当にそう思っているしな、俺は。

 なにせ、コツコツやり続けて十年の俺である。

 結果として、イレギュラーな方法によって強くなってしまったが、結局、冒険者でもなんでもコツコツやるのが一番効率的で近道なのだ。

 特殊な才能や能力を持っているなら話は別だろうが、そういうものに漠然と期待しているだけだと結局何もできずに終わってしまうからな……。

 

「へぇ、レントさん、いいこと言いますね。私もそう思いますよ」


 と、意外なところから賛成される。

 言ったのはニヴであった。

 彼女は続ける。


「もちろん、吸血鬼狩り(ヴァンパイア・ハント)が出来るならそれをした方がいいに決まってますが、吸血鬼ヴァンパイアは私の獲物ですからね。他の方法で実績を積んだ方がいいでしょう。自分の実力に見合った適切な依頼を探し、それをしっかりとこなしていく。それを繰り返す。地味な作業ですが、それが最も良い冒険者を育てるものです。おかしな功名心とか、無意味な自信とかをいかに制御できるか、それが駆け出し冒険者が最初に乗り越えるべき試練ですよ」


 ……凄いまともなこと言ってる……。

 などと思うのは、ニヴのネジが外れたところばかり見てきたからだろう。

 ロレーヌも似たようなことを思っていることが、彼女のニヴを見る表情から分かる。

 ただ、同時に、流石は上位冒険者なだけあるな、という賞賛の色も見える。

 ライズとローラは憧れの金級冒険者が言った言葉に感銘を受けたようだ。


「そうなんですか……レントの言ってたことは、やっぱり正しいんだな……コツコツ頑張ろうぜ、ローラ」


「うん。無茶しないで、ね」


 ローラの方はニヴにありがたそうな顔をしている。

 この二人だと、無茶するのはライズだろうからな。

 ニヴがちょうどよくそのライズの無鉄砲なところを抑えるようなことを言ってくれたのが都合が良かったのだろう。

 

 それから、ニヴは、


「……それで、ですね。これからお二人には後輩として頑張っていただきたいところなのですが、少しばかり確認をしたいのです」


 と本題に入る。

 珍しく説明する気なのは……二人が無自覚であるから、かな。

 吸血鬼ヴァンパイアにこれからなる可能性もあるが、今はまだ分からない。

 二人は自分がそういう風になる可能性がある、とも分かっていないから。

 自覚ある吸血鬼ヴァンパイアなら、逃げるから問答無用だ、と。

 ぶれないな、ニヴ。


「確認? 何のですか?」


 ライズが尋ねると、ニヴは言う。


「お二人が、吸血鬼ヴァンパイアになっていないか、について、です。お二人は吸血鬼ヴァンパイアに攫われたでしょう? その結果、眷属化されている可能性がわずかながらあります。その心配を、私は取り払いたい」


 語るニヴの表情は、笑顔だ。

 形だけ見ると、ただ微笑んで説明しているだけだ。

 けれど、その赤い瞳に宿る感情はかなり厳しいものである。

 あの目の前には立ちたくないものだが、ライズとローラにはそれは感じられないのだろう。

 それでかえってよかったな。

 分かってたら逃げたくなるから。

 

 ことの重みが分かっていない二人は、顔を見合わせて、素直に返答する。


「別に構いませんよ、俺は。ローラも、なぁ?」


「うん。痛いこととかなければ……」


 そんな二人にニヴは、


「問題なければ痛いことなどありません。同意もとれたということで……失礼しますね」


 と言い、その掌に青白い炎を現出させた。

 人の頭ほどの大きさの火炎が燃え盛る。

 ライズにもローラにもそれは見えていないようで、手のひらを上に向けるニヴを不思議そうに見ていた。

 それから、ニヴは二人に向かって、その炎を放つ。

 そして、青白い炎は二人を包み込むように燃え盛るが……。


 二人は、特に反応は見せなかった。

 何か微妙な違和感はあるようで、首は傾げているが、それだけだ。

 苦しむそぶりも、火傷を負うこともなく、問題はなさそうである。


 その様子を見たニヴは、若干がっかりしたような表情をしたが、最初からその可能性は低いとは思っていたのだろう。

 頷いて、手を再度二人に向けて、握りつぶすような仕草をすると、炎はぽっと音を立てて消えた。

 

「ありがとうございます。特に、問題ありません。お二人が吸血鬼ヴァンパイアになることはないでしょう」


 ニヴはそう言って、今度こそ、穏やかな瞳で笑いかけたのだった。


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