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第13章 数々の秘密
第352話 数々の秘密と確認

 ウルフに対する報告も終わったところで、俺たちはとりあえずコーム治療院に行くことにした。

 リナのパーティーメンバー、ライズとローラがいるためである。

 保護したとき、あまり大怪我をしている、という印象はなかったが、それでも衰弱はしていたからな。

 魔術や聖術による回復は傷を治しはするが、空腹や体調の低下それ自体を治すことはできない。

 体力などについては基本的に自然治癒しかないわけだ。

 だから、あまりにも体力が限界に達している場合には、治癒をしようとも死んでしまう、ということはありうる。

 老衰で死にかけている老人に治癒魔術をかけても意味がないのと同じだ。

 だから、ライズとローラについても心配はゼロではないのである。


 ◇◆◇◆◇


「ここですよね?」


 リナが言った。

 そんなわけでやってきたコーム治療院である。

 冒険者組合(ギルド)から歩いて十分程度の距離にあるこの建物は、大通りから少し外れた位置にあって、周囲は静かだ。

 病気や怪我を負っている人間が来るところなので、あまり喧騒の激しいところに建てるわけにはいかないからこその立地だろう。

 ただ、それでも毎日多くの人間が訪れるため、大通りから外れすぎると急にものが必要になった時に困ることがある。

 分かりやすいところで言うと、あまり見ない毒を放つ魔物にやられた冒険者とかがやってきたときだ。

 治癒術でどうにかできる場合も少なくないが、それが出来なかった場合は薬師頼りになる。

 しかし彼らには素材が必要で、けれど常備して置ける素材にも限界がある。

 そう言う場合には中央通りの店を回らないといけなくなったりする。

 急な仕入れに対応できる店が近い方がいい、というわけだ。

 日用品は普通に店の奉公人が毎日決まった時間に持ってきてくれるものだが、そういった特殊な品についてはどうしようもないからな……。


 それで、そんなコーム治療院の建物は周りの建物と比べると若干平べったい感じのする平屋建ての建物だった。

 周囲は大体二階建てが多く、中には三階建ての建物も見えるので、容積の無駄のような気もするが、これもまた、治療院に来る人々に対する配慮だろう。

 階段なんて登れなかったりする状態の奴も来るものだからな。

 どこかの商会みたいに昇降機なんてつけられればそんな配慮も必要ないのだろうが、あれは非常に特殊かつ高価な品であるわけで、冒険者組合(ギルド)と提携しているとはいえ、普通の治療院がそう簡単に設置できるようなものではない。

 だから、このくらいの作りが最善、というわけだ。


「……さて、入るか……ッ?」


 足を一歩、治療院の中に踏み出そうと後ろにいるロレーヌとリナに声をかけようと振り返ると、そこには燃えるリナがいたので驚く。

 と言っても、別に燃え盛る赤い火炎に包まれている、というわけではない。

 青白い炎が陽炎のように揺れてリナを包み込んでいる、そんな感じだ。

 リナ自身は気づいていないようで、目を見開いている俺の顔を不思議そうに見つめている。

 ……今のリナには見えないってことか?

 まぁ、それもなんでなのか想像はつく。

 この炎は普通の炎ではない。

 《聖炎》だ。

 そして今、この都市マルトにおいてそれを使いこなせる人物と言ったらただ一人である。

 ロレーヌにはしっかりと見えているようで、俺の顔を見ながら若干うんざりした表情をしていた。

 おそらく、同じ結論に至ったのだろうことは明らかだ。

 

 一体どこにいるのか……。

 そう思って燃え盛りながらも平然としているリナを後目に、二人できょろきょろと周囲を観察すると、


「……あれぇ? おかしいですね。吸血鬼ヴァンパイアじゃないんですか……」


 と酷くがっかりした声と共に、灰色の髪と赤い瞳を持った、酷く物騒な吸血鬼狩りヴァンパイア・ハンターが顔をひょっこりと出してこちらに近づいてきた。

 ニヴ・マリスである。

 当然ながら、あの戦いのあともしっかりと無事だったようで、特に怪我などしているようにも見えない。

 したがって、


「……ご挨拶だな、ニヴ。せめて一言くらい声をかけてからやってもいいだろう」


 何をか、と言えば当然《聖炎》での吸血鬼ヴァンパイア判別についてである。

 事前の予測通り、リナには一切通用していないようだが、それでもいきなり連れが青白く燃え出したら驚くに決まっている。

 だからせめて、という意味で言ったのだが、ニヴは、


「そんなことしたら、吸血鬼ヴァンパイアだった場合、逃げられてしまうでしょう? ですから仕方がないのですよ……いえ、私も分かっていますよ。これがかなり失礼だってことは。でも、危険と失礼とを天秤にかけると、どうしてもね……」


 と言って首を横に振った。

 言い分は分かるが……ちょっとイラッとするのは疑われていることになのか、それとも自分たちは間違いなく吸血鬼ヴァンパイアまがいの魔物であるから後ろめたく感じているからなのか分からない。

 まぁ、人類のことを考えるとしたら、ニヴが一番正しいと言わざるを得ないのは確かだ。

 しかし……。


「言わんとすることはわかった。でもまた、なんでこんなところに来たんだ? そういえば珍しくミュリアスがいないな」


 ニヴには傷が一つもない。

 つまり、治療院などに用などあるはずがないのだが。

 そう思っての質問だった。

 ミュリアスについてはいつも二人一組みたいな印象だったからなんとなく気になっただけだ。

 これにニヴは、


「ミュリアス様はあれで一応聖女ですから。今回の騒動で乱れた人心を慰撫するために、ロベリア教の教会で説教をされていますよ。あと聖女らしく治癒とか浄化とかかけたり。珍しいですよね」


 という。

 一応、とか、珍しい、とか直接言ったらブチ切れそうな台詞ばかり並べ立てているが、確かに珍しい。

 あんまり聖女らしいところを見ていないからな……というとこれも怒られそうだだが。


「ここに来た理由の方は? 答えてないぞ」


「おっと、失礼。ここに吸血鬼ヴァンパイアに捕まっていた冒険者がいるでしょう? 彼らが眷属化していないか、確認しに来たんですよ。あの場では忙しくて見れませんでしたからね。それに、ぱっと見では平気そうでも、しばらくしてから眷属化、なんてこともあるんです。ですから、ね」


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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