「……とりあえず、街の状況から話そうか」
ウルフがそう言って、俺たちがシュミニを倒した後……厳密に言うと、シュミニを倒し、ラウラがリナから《迷宮核》を取り出した後、街がどうなったかを話し始めた。
「まず、街に現れてた
やっぱりニヴは戻ってきているのか、とウルフの言葉で察する。
いや、街の外まで来てたのは見たんだから、当然、あの町を覆う結界のような壁がなくなった以上、いるということになるんだが。
「……ニヴは今は?」
「
特にシュミニクラスの奴のことを言っているのだと思われた。
鼻が利く、とか言ってたからもういないこともなんとなくわかるんだろうな。
それに、街はシュミニがいたころの緊迫感がなくなって、穏やかになっている。
もう倒されたのだ、と察しているのだろう。
……なんだか会うと責められそうな気がする。会いたくない。
ウルフは続ける。
「あとは……街に出現していた魔物の方だが、これもな。こっちは唐突に消えてしまったよ。これも、おそらくシュミニがいなくなったからだろう。
ウルフが尋ねてきたので、俺は首を振った。
「いや……特には」
本当はある。
おそらくそっちは、シュミニどうこうではなく、《迷宮核》の方が理由なのだろう。
リナからラウラに《迷宮核》が移った時点で、ラウラが魔物たちを消滅させたのだ。
街の人々が魔物に変じていたのは迷宮があるがゆえのようだったし、それこそそれ以外に理由が思いつかない。
とはいえ、それを語ってしまうと色々と問題があるので言いはしないが。
「そうかよ。ま、そういうわけで魔物がいなくなったからな。街の方はもうかなり落ち着いてる。建物の倒壊やらけが人やらの問題はあるにはあるが、その辺りもなんとかなってるしな。領主と参事会が補助金を出してくれているし、けが人の方は教会関係が聖者や聖女を何人か派遣してくれてる。
かなり大規模な事件だったと思うが、それでもさほどの時間もかからず収束に向かっているのは、辺境都市というもともと難儀な土地に住んでいるマルト住人の強さかも知れないな。
……いや、それもあるだろうが、ラウラが記憶をいじってくれた効果もかなりあるだろう。
流石に隣人が魔物に変じることがある、と思いながらこの土地に住み続けることは難しい。
ただの魔物の襲撃だった、というくらいなら、この世界のどこにでも起こっていることで、引っ越したからと言ってどうにかなることでもないなとなる。
だからみんな悲しく、苦しく思いつつも、前を向いて頑張っていこうという気になるのだ。
それに加えて、地下に出来た迷宮というのもある。
これについて、ロレーヌが尋ねる。
「そう言えば、マルトの地下のことだが……」
迷宮、と言わないのはそう言ってしまうとなぜ知ってる、みたいな話になってしまうからだろう。
マルトの住人たちはすでに知っているような感じだったが、あえて自分から言及することもないだろう。
ウルフはこれに頷いて、
「ああ、今調査しているところだ。おそらくは迷宮だろう、ってことでほとんど結論は出てるんだけどな。魔物があそこから溢れだしたことで、今回の事件が起こった、と考えりゃ、いろいろと納得もいく。いきなり迷宮が出来た理由は分からねぇが……そもそも迷宮の発生原理についてはまだどこでも研究中だからな。こればっかりは仕方がねぇ。シュミニについては、迷宮がここに発生することを予測していたから暗躍してたんじゃないかって話になってるな……」
当たらずとも遠からずである。
シュミニが迷宮を生み出した、という話にならないのはそもそもそんなことが可能だとは思われていないからだ。
迷宮の発生は、確かにまだどこであっても研究中の事柄であるが、大体が自然発生的なものである、と結論付けている。
そう理解できる迷宮がいくつか存在しているのだ。
ただ、ラウラの話を思い出すに、迷宮には色々と種類がある、ということだったから……自然発生的なものと、今回のような魔術によって作り出されるものなどがある、というのが現実なのかもしれない。
この辺りはいずれラウラに聞かなければ分かりようがないが……。
「魔物が闊歩してるのも確認できてる。とは言え、迷宮の入り口まで誘導してもそこから出てくることはなかった。今回、魔物があふれ出したのは、迷宮発生時の不安定性って奴だって話だ。分かるか?」
ロレーヌにウルフがそう尋ねると、彼女は頷いて答える。
「ああ。と言ってもそのままだがな。迷宮は発生するときは存在が不安定だから、色々と変わった現象が起きるという話だ。たとえば街で発生した場合には街を取り込みながらその構造を大きく変えてしまったり、森や山などだったらそこにいる動物を魔物に変じさせたり、珍しいところだと……いや、それはいいか。ともかく、今回のマルトでの魔物の発生はそれが原因だと言うことか」
珍しいところだと、の続きはなんだろうな。
内部に街をそのまま取り込んでしまったり、とかかな。
あの古代都市を思い浮かべたのかもしれない。
しかしそれも言う訳にはいかない。
秘密がガンガン増えていく……。
ちなみにロレーヌが口ごもったことにウルフは特に引っかかりは覚えなかったようである。
ロレーヌが長く語りすぎて、途中ではっとしてやめる、というのはよくあることだからな。
いつも通りだと思ったのだろう。
ウルフは頷いて、
「ま、そういうことだな。俺は学者じゃねぇから理屈は分からねぇが……そこは専門の奴に任せる。しかしこれからマルトは忙しくなるぞ。新しい迷宮だからな……」
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