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第13章 数々の秘密
第349話 数々の秘密と魔石

 冒険者組合(ギルド)の中はかなり込み合っていた。

 それもそうだろう。

 あれだけのことがあったのだ。

 屍鬼しきにしてもその後の魔物にしてもその討伐の報酬支払いや魔石の換金など冒険者組合(ギルド)のしなければならない仕事は山積みになっていることだろう。

 その証拠に受付の向こう側にいる職員たちは慌ただしく動き、書類を整理し、そしてその瞳は死んでいる。

 この忙しさが過ぎ去ったあとには、自宅の床でそのまま崩れ落ちて数日は目覚めないかもしれない。

 

 そんな中、


「レントさん! それにロレーヌさんに……リナちゃん? 無事だったのね……」


 という声が後ろからかかった。

 振り向いてみると、そこには俺たちの事情をよく知っている冒険者組合(ギルド)職員シェイラが立っていた。

 彼女の瞳もまた、どんよりと濁り切って今にも崩れ落ちそうな疲労を湛えているように思え、


「シェイラ……大変そうだな」


 と一言言うと、彼女は首を振って、


「いえ……実際に魔物と戦っていた皆さんと比べれば、これくらいは。人手は欲しいですけどね……」


 と死にそうな声で言われた。

 まぁ、こればっかりはいろんな意味で仕方がないな。

 冒険者組合(ギルド)の仕事であるし、これだけ忙しいと実入りも多いはずだ。

 屍鬼しきたちの魔石なんかはそこそこ高値で取引されるし、素材も色々と需要が高い。

 他にも様々な魔物素材は、街の修繕に当たっても使えるものも少なくないし、これから冒険者組合(ギルド)は景気が良くなるだろう。

 それが職員の給与まで影響するかどうかは謎だけど。

 ……ウルフ次第だな。


「……頑張れよ。それで、生きて再会できたことを喜びたいところだが、まず俺たちはウルフに報告しなきゃならない。どこにいるか分かるか?」


「ああ、そうですね。というか、それもあって呼び止めました。冒険者組合長(ギルドマスター)は執務室にいますので、どうぞそちらへ」

 

 シェイラがそう言ったので俺は頷き、ウルフの執務室へと向かった。


 ◇◆◇◆◇


「……おう、来やがったか」


 執務室の扉を開けると同時に、ウルフが顔を上げてそう言った。

 あいもかわらずその右目だけの眼光は恐ろしく鋭い。

 が、別に恐ろしくもない。それはすでに色々と話して、身内の方に分類される存在であると思っているからかもしれない。

 だからと言って、油断も出来ないが。

 ラウラのことは今回は話さないつもりだしな。

 ちなみに彼の執務机の上には、よくここまで積み上げられたな、と言いたくなるくらいの量の書類が重ねられている。

 すべてが冒険者組合長(ギルドマスター)である彼の決裁すべきものなのだろう。

 ……激務だな。絶対になりたくない職業の一つだと俺は思った。


「ああ。今、ちょっといいか。報告に来たんだが……暇そうな感じはしないが」


 またあとで、と言われたら別に出直しても構わなかった。

 今のところ街に差し迫った危険はなさそうだし、そうなると俺の報告が少し前後したところで特に問題はないだろうと思うからだ。

 しかし、ウルフは、


「いや、気にしなくていい。今から聞く。そこの二人も一緒でいいのか?」


 そう言ってきた。

 彼の右目の視線はロレーヌとリナに向かっている。

 別に二人が邪魔だ、と言っているわけではなく、俺の秘密について、ばれかねないような行動をしていいのか、と聞いているのだろう。

 ロレーヌについてはもしかたら話しているかも、くらいの予想はしているかもしれないが、リナについては流石にそうではないだろう、と思っているのかもしれない。

 しかし俺は首を縦に振る。


「ああ、構わない。二人とも分かって・・・・るからな」


 意味ありげに強調した言葉にウルフは少し目を瞠ったが、


「……そういうことなら、俺は別に構わねぇ。嬢ちゃん、扉はしっかり閉めておけよ」


 最後に入ったリナにそう言った。

 どうやら少し、扉が中途半端に開いていたようだ。

 リナは慌ててしっかりと扉を閉めた。


 ◇◆◇◆◇


「……で、あの騒動のときに言ってた魔物はもう倒したってことでいいのか?」


 単刀直入にウルフがそう尋ねてきたので、俺は頷く。


「ああ、しっかりと倒したよ。これがその証拠だ」


 そう言って俺が魔石を差し出す。

 シュミニの体はほぼ全部灰になってしまったが、その灰の中にただ一つ残っていたのがこの魔石だ。

 昔の、とはいえかなり深い知り合いだったのだろうから、イザークに渡そうとしたが、あとで報告に必要なるだろうし、別に売り払っても構わないと押し付けられていた。

 ……シュミニ、若干ストーカーっぽかったし、遺品に当たるような品なんて持ってたくないよなぁ、と思うのは考え過ぎだろうか。

 ウルフはその魔石を受け取って、


「……こいつぁ、でけぇな。ここまでのものは中々見ねぇぞ。なるほど、相当な奴だったんだろうな……」


 と感心するように言う。

 別に魔石は必ずしも大きさがその価値に直結するわけでもないが、今回渡したそれはウルフの言う通り、中々見ることの出来ない大きさである。

 質の方も高いだろう、というのは色合いや透明度、それに内包魔力などからも分かる。

 魔力については特殊な装置がなければ正確なところは分からないが、持ってみれば、慣れている場合なんとなく感覚で分かるのだ。

 ちなみに、どれくらい大きいかと言えば、以前倒した骨巨人(ジャイアント・スケルトン)の魔石より二回りほど大きい、というところだろうか。

 あれは金級相当の魔石だったが、シュミニの魔石は白金プラチナ級相当の魔石に近いと言ってもいいだろう。

 しかし、それでもまだ金級程度に収まってはいるかな。

 骨巨人(ジャイアント・スケルトン)の魔石は相当の長い年月、魔力が凝縮され続けてあそこまでのものになったのだろう、ということを考えれば、魔物になって数時間でここまでの魔石を持つにいたったシュミニは相当の存在だったということだろうか。

 それか、迷宮化の魔術によって集められた力がかなり大きかったということなのか……。

 どちらにしろ、いい値段で売れそうな魔石であることは間違いない。

 まぁ、売るために持ってきたという訳ではないが、売っても構わないということだし……。


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