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第13章 数々の秘密
第335話 数々の秘密と軽い告白

「だが、どうやって……屍鬼しきになった者を人間に戻す方法はない。吸血鬼ヴァンパイアになった者をもとに戻す方法もやっぱりないんじゃないのか?」


 俺はラウラにそう尋ねる。

 そもそもそんな方法があるのなら他の誰よりも先に俺が試したいところだ。

 最終目的は人間に戻ること、なのだから。

 しかしラウラは首を振って、


「……いつ、わたくしがリナさんを人間に戻せる、と言いましたか?」


 そう言った。

 

「……え? だが助けるって……」


「ええ。助ける、とは言いました。しかしそれイコール人間に戻す、ではありません。もちろん、戻せるのならその方がいいのでしょうが……私にはそれは出来ないのです。出来るのは、リナさんを、シュミニの眷属から外すことだけ」


 それは……どうなんだろうな。

 シュミニの意志に操られて自分が望まない行動をとる、という事態は避けられるようにはなるのだろう。

 ただ、人でなくなるというのは……。

 俺は自分がそうだから分かるが、結構色々な葛藤がある。

 リナにとっては……きついのではないだろうか。

 ただ、ラウラも人間に戻せるならその方がいい、とは言っているので、彼女にはどうやってもそれは出来ないということも事実なのだろう。

 であれば、とにかくシュミニの意志に操られない方法をとるのが一番、ということになるか。

 こればっかりは、仕方がないな……。

 

「どうやったらリナをシュミニの眷属から外せるのですか? 吸血鬼ヴァンパイアは一度眷属になれば、死ぬまで主従は変わらないと聞きますが……」


 ロレーヌがそう尋ねたので、ラウラは答える。


「変わらないというか、変えない、というのが正しいでしょうね。私もその辺りの規則にはあまり詳しくないのですが、他人の眷属には手を出さない、という決まりがあるようです。結果として、主従が変わらない。ですが、他人の眷属を自分の眷属にすることは、可能なのです……」


 話が見えて来た。

 つまり、リナをシュミニの眷属から他の誰かの眷属にしてしまえばいい、ということだろう。

 他の誰か、というのももっと明確に言うなら、他の吸血鬼ヴァンパイアの、ということになる。

 つまり……。


 ここで視線がイザーク、ラウラにいった俺とロレーヌだった。

 ここまでほぼ触れずに来たが、こうなったらもう、触れないわけにはいかない。


「もう説明しなくてもお判りでしょう。わたくしも、イザークも、吸血鬼ヴァンパイアです。ですので、このようなことを知っている、というわけです」


 ラウラはなんでもないことのようにそう言った。

 まぁ、ここに来るまででもう、ほとんどはっきりしていたことだとも言える。

 隠す気はなかったのだろう。

 なぜ、隠す気がなかったのかと言えば……。


「……俺のことも、分かっているのか?」


 一応遠まわしに尋ねてみれば、ラウラは頷いて、


「ええ、まぁ。あの血は、役に立ちましたでしょう?」


 と言って来た。

 以前くれた吸血鬼ヴァンパイアの血のことだろう。

 分かっていてさりげなく見せて、選ぶようにしたということか。

 演技が自然すぎて全く分からなかった……。

 

「ああ。その節は……と言いたいところだが、今はリナのことだ」


「そうですね……ともかく、リナさんを誰かほかの吸血鬼ヴァンパイアの眷属にしてしまえば、一つ問題は解決します。あとは誰がやるかですが……レントさん。貴方がやってください」


 ラウラが俺に向かってそう言った。

 いや、確かに俺にも出来るんだろうが……。


「……そんなこと、やったことないぞ」


 そう言うと、肩に乗っかっている鼠がべしべし頭を叩いたので、


「……いや、小鼠(プチ・スリ)くらいしかやったことがない。しかも、偶然そうなっただけで……どうやればいいのか、俺には……」


「その辺りはわたくしたちがフォローしましょう」


「……どうせならラウラかイザークがやった方が失敗しにくいんじゃないか?」


 変なやり方をして、失敗しましたでは目も当てられない。

 リナには未来があるのだから、俺のせいでそれがどうこうなるのは嫌だった。

 ……まぁ、吸血鬼ヴァンパイアになってしまった状態で一体どんな未来が……という気もするが、それを言うなら俺だって、という話になってしまうからあんまり考えたくないところだ。

 少なくとも俺は何も諦めてはいない。

 そんな俺にラウラは首を振る。


「いえ、そういう訳には参りません」


「……なぜ? 少なくとも俺よりはずっと上位の吸血鬼ヴァンパイアだろ? ラウラも、イザークも……だったら」


「確かにそれは間違い……ではないのですが、正しくもありません。私とイザークは吸血鬼ヴァンパイアですが、レントさん。貴方は少し……違います。そしてその違いが、今後のリナさんの生死を分けるでしょう」


「俺が……違う? 吸血鬼ヴァンパイアじゃないってことか?」


「……そうですね、その辺りのことは……」


 と、ラウラが言いかけたところで、ごごごご、と辺りが揺れた。

 そして、周囲を囲む壁の脈動が激しくなり、部屋が一回り広がる。

 それを見たラウラは、


「……これは、時間がありませんね。放っておくと地下だけでなく、マルトそれ自体が迷宮化してしまいます。レントさん。細かいことはとりあえず置いておき、早くやってしまいましょう」


 と、見た目に反した大雑把な台詞を言う。


「だが、どうやって……」


「噛み付いて血を吸ってかつ、牙からレントさん自身の血を流し込んでやればいいのです。ほら、簡単でしょう?」


 ……急いでいるからか、説明が酷く適当だった。

 しかし、それだけ切羽詰っているということなのだろう。

 俺はもうこうなったら駄々をこねている場合ではないなと、リナの方に近づき、それからその肩口をまくって、その白い肌に向かって口を開く。


 そして、噛み付くと、ぷつり、という感触と共にリナの肌が破けたことを感じた。

 口の中に流れてくる血液の味に、ひどく甘やかな気分と高揚を感じるが、味わっている場合ではない。

 今日は人血ソムリエは休業だ。

 ある程度血を吸ったのち、俺は牙から血をリナに流し込むように意識する。

 そんなこと出来るのか?

 と思ったが、意外や意外、意識すると牙の先からリナの中に血液が流されて行っているのを感じた。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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