「……なんでリナがここに」
俺が思わずそう漏らすと、ラウラがリナに固定していた視線を俺に向けて尋ねる。
「お知り合いですか?」
俺は頷いて、
「ああ、迷宮でよくしてもらった新人冒険者だ……リナがいなければ、俺は街に入ることすらできなかった……」
実際、彼女がすんなり俺の存在を受け止めて、かつ前向きなことを色々と言ってくれなければ俺は折れていた可能性がある。
なんだか接しているとこっちが楽しくなってくるというか、楽観的になれる少女なのだ。
冒険者としての腕だって、まだ新人ではあったが、剣術の方はしっかりとしたものだったし、これからというときだった。
それなのに、なぜこんなところにいる。
というか……。
「これは一体、どうなってるんだ? 手にくっついてるその黒い球体が、いわゆる《迷宮核》なんだろう?」
大事なのはそこだ。
そして、リナは大丈夫なのかどうかだ。
これにラウラは少し悩んだ顔をして答える。
「……ええ。それが《迷宮核》というのは間違いありません。ただ、厳密に言いますと……彼女、リナさんとその球体で、《迷宮核》として機能している、ということになるでしょう」
「おい、そうなると……リナはどうなるんだ? 助けられるのか?」
言い募る俺に、ラウラは言う。
「……その前に、調べなければならないことが……リナさんは、今、
その言葉に、俺たちははっとする。
そうだ、リナはシュミニに誘拐されたことは状況から見て明らかだ。
いつ、どういうタイミングで、という点については詳しくは分からないが……リナとパーティーを組んでるはずのライズとローラたちが特に言及していなかったからな。
大方、二人がいなくなったのを探そうとして捕まったとか、その辺りなのだろう。
そして、シュミニは上位の
厳密にどうなっているのかは俺には分からないが、リナを《迷宮核》としているということは、リナに指示を聞かせる必要があるのではないか?
そうだとすると、リナを《眷属》にしてしまうのが一番手っ取り早いのではないか?
そうなるのが論理的にも正しいだろう。
俺たちがその考えに至るのを待って、ラウラがさらに続けた。
「……そうなっていれば、そこから解決しなければなりませんから、少し手間です。ただ、ご心配なさらずに。たとえどうなっていても、リナさんをリナさんとして助けることは可能ですから」
それは、かなり安心できる台詞だった。
彼女が何者なのかは分からない。
分からないが……出来ると言えば出来る、そういう人間であることはここまでのことで分かっているからだ。
ラウラはリナに近づき、触れる。
するとリナは身じろぎするように体を動かす。
空中に浮いているため、妙な動きだが……。
当然、ラウラの手からは逃れられず、その腕を掴まれる。
そして、その腕の一部を、ラウラはその爪でもって軽く切った。
血が流れ、それを見るラウラの瞳が一瞬、赤く染まる。
しかし、
「……おっと」
そう呟いた瞬間、元の空のような青に戻り、リナの切り傷を注視した。
そして数秒経ち、リナの切り傷はすっと消えていく。
俺やイザークに比べると速度は遅いが、確実に人ならざる者が持つ、異常な再生能力の発露であることは疑いがなかった。
人間はたとえ切り傷程度であっても、あんなに素早くは治らない。
「……やはり。リナさんは眷属にされてしまっていますね……」
「……リナは、
そこから、存在進化を経て
しかしラウラは俺の質問に首を振って、
「いえ、リナさんは
その言葉にロレーヌが反応する。
「しかし、
魔物の研究者的には気になるところなのだろう。
それに対してラウラは首を横に振った。
「かなり力は使いますが、
「自分で支配すればよかったのに、なぜそんなことを……」
「迷宮の主にはそれなりに制限というものがありますから。そう言ったところを免れたかったのだと思います。まぁ、眷属にやらせればその制限を受けずに迷宮支配が可能になるのですから、合理的なやり方です。昔からあった手法ですね」
「昔から……?」
ラウラの言葉をロレーヌが不思議そうに繰り返したが、ラウラはそれに答えずに続ける。
「……ともかく、このままシュミニの眷属にしておくのは問題です。
リナがシュミニのように……。
それはそれでなんだか頼もしく、面白そうに思える。
自分に被害が及ばないのならちょっとだけ見てみたい気もした。
……が、実際にそういうわけにもいくまい。
そもそも、仮に俺に被害が及ばないとしても、マルトの人々に被害が及ぶのだからダメだ。
リナもそんなことしたくはないだろうしな。
しかし問題は、どうやって解決するのかだ。
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