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第13章 数々の秘密
第324話 数々の秘密と贄

 三対一の格好になった俺たちは、中心にローブ姿の男を囲むような陣形になる。


「……全く、今日はとことん邪魔が入るようですね……」


 男は苦々しそうにそう言うが、イザークが、


「お前が街に余計なことをするからこうなったんだろう、シュミニ」


 と言った。

 シュミニ……というのは吸血鬼ヴァンパイアたちの親玉と思しき人物の名前であったはずだ。

 俺は、男に言う。


「お前が……この騒ぎの黒幕ってわけか」


「友人との語らいに人間風情が口を挟まないでいただきたいのですが……この街の住人のようですし、一応説明くらいはしておいてあげましょうか。そうです、私が今回この街を地獄に陥れた元凶、吸血鬼ヴァンパイアのシュミニ・エッセル。偉大なる《王》に仕える《反逆騎士》の一人」


 ……色々と突っ込みどころのある発言だ。

 俺はそもそも人間じゃないんだけどなぁ、とまず思ったが、それを言うと色々ややこしくなりそうなのでとりあえずそこは置いておく。

 魔物だよ!

 と言って、なんだ、じゃあ仲間じゃないですか!とは言いそうもない人物だ。

 そこまでフレンドリーなキャラじゃない以上、言っても仕方ないだろう。

 しかし、偉大なる《王》に《反逆騎士》と来たか。

 ……意味わからんぞ。

 でも突っ込むと怒りそうで何を言ったらいいのか……。

 どこに地雷が転がってるかわからない奴と話すのは面倒くさいのだ。

 そう思って色々と考えていると、イザークがその面倒な役割を買って出てくれた。


「つまり、シュミニ、お前を滅ぼせば屍鬼しきたちはもう増えない、というわけだな」


「……まぁ、そうなるでしょうかね。しかし私にも部下たちがいますので彼らが……」


「《新月の迷宮》にいた奴らか? そいつらなら、もう全員滅ぼしたぞ」


 俺が口を挟むと、穏やかかつ冷静そうに話していたシュミニの額に血管が浮かんだ。

 ……怒ったらしい。

 というか、吸血鬼ヴァンパイアにも血管って浮かぶんだな。

 まぁ、心臓は動いているのかどうか微妙だが、血は流れているのは確かだ。

 俺だって切られれば血は流れる。

 すぐに再生するけど。

 だから、血管が浮かぶのは……まぁ、理屈としてはそんなにおかしくはない。

 

「……彼らを、殺したのですか……」


 不死者(アンデッド)を滅することを《殺す》と解釈するかどうかはその人の宗教観や道徳感によって異なるが、吸血鬼ヴァンパイア側からするとそういう解釈になるようだ。

 まぁ、俺も存在を滅せられたら、殺された―!と思うだろうしな。

 分からんでもない。

 が、人間からすれば……。


「人に仇なす不死者(アンデッド)を滅ぼすことを、殺す、とは言わない。浄化したんだよ」


 言いながら空々しい気持ちになるが、人からすれば当然とも言える価値観だ。

 俺は魔物だからな……もし自分がそう言われたら、なにおぉと思うだろうが、まぁ、人に害を加えた場合って限定してるからセーフじゃないか?

 僕はいい吸血鬼ヴァンパイアだよ。うん。

 ……無茶な話か。

 

 そんな俺の内心など分からないシュミニは、ぎりぎりと歯を軋ませて、俺を睨み、


「勝手なことを……貴様らがそうだから、我々は……我々吸血鬼(ヴァンパイア)は……!!」


 と、恐ろしい形相を向けてくる。

 怖い、が、俺が自分で蒔いた種だから仕方がない。

 そんなシュミニにイザークは、


「……シュミニ。お前は、まだ夢見てるのか? 吸血鬼ヴァンパイアだけの世界を作ると。そんなことが本当に出来ると思っているのか?」


 と尋ねる。

 シュミニの部下たちは国を作る、と言っていたが、本当はもっと大きな目的を持っていたらしい。

 吸血鬼ヴァンパイアだけの世界を作る。

 それはつまり、この世界の大半を支配している種族である、人族を滅ぼす、というつもりなのだろう。

 吸血鬼ヴァンパイアを目の敵にしているのは主に人族だ。

 エルフやドワーフなどは人間に含まれはするが、亜人として扱われるし、他の種族に対して差別的意識は希薄だと言われる。

 単純にエルフとドワーフは仲があまり良くないとは聞くが、差別というより気性の問題らしいからちょっと違うかな。

 

 イザークの言葉に、シュミニは答える。


「……夢ではありませんよ、イザーク。目途が立ったと言ったでしょうに。あの頃夢だった何もかもは、今や手の届くところにある……。私はただ、この喜びを貴方と分け合いたいだけなのです」


「何度も言うようだが、私にはそのつもりはない。この街から、出ていけ。そうすれば追いはしない」


 ……追わないのか。

 というか、話を聞いているとこの二人は仲がいいのだろう。

 昔からの知り合いっぽい。

 イザークも吸血鬼ヴァンパイア

 確かにそんな疑いを持ったことも実はあるのだが……イザークからは吸血鬼ヴァンパイアの気配を感じない。

 前に会った時からそうだった。

 シュミニからはガンガン感じるのにな。

 何か特別な隠蔽方法があるのか、それとも全然別の理由で二人は知り合いなのか……。

 分からないな。

 ただ、イザークがシュミニと敵対していて、マルトを守るつもりなのは間違いなさそうだ。

 それならそれでいい。

 俺は人を種族ではなく立場で見るのだ。

 自分がそうしてほしいからな。


 ただ、仮にシュミニがここでマルトを出ても、イザークや俺が追わなかったとして、ニヴが地獄の底まで追いかけるだろうが……そこは言わないでおこう。

 言わなくても、色々対策していた時点でシュミニも分かっているだろうしな。

 そして案の定、シュミニは、


「……これだけやって、そんなことを今更するはずがないでしょう? ともかく……もう、言葉は交わすだけ無意味なようです。それならば、仕方がありません。私も、イザーク。貴方は諦めましょう。出来ることなら、貴方には後のことをお願いしたかった……」


「……? 一体何を言って……」


 首を傾げるイザークだったが、シュミニは胸元から突然、真っ黒なナイフを取り出して、掲げた。

 柄から刃まで、全てが黒く染まったナイフで、何か強い気配を感じる品だ。

 その刃を俺たちの方ではなく、自分の方に向けて、


「不足分は、我が身を贄に捧げることで補おう! イザーク、さらばです!」


 そう叫んで、ナイフを胸元に突き立てた。


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