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第13章 数々の秘密
第318話 数々の秘密と扱いの違い

 ライズやローラ達、捕まっていた冒険者たちを中年冒険者パーティに預けると、俺たちは迷宮を更に奥へと進み始めた。

 と言っても、それほど奥というほど奥ではないのだが。

 なにせ、《新月の迷宮》の第一階層にすぎないのだ。

 かなり歩き回るのは楽である。

 広大な広さを持つ石の迷宮である《新月の迷宮》の第一階層であるが、ニヴはしっかりとマッピングされた地図を持っているようで、角などでたまに見ているが迷うそぶりは一切ない。

 俺にしたって、アカシアの地図を持っているからな。

 ただ、不思議なのは完全にマッピングしているのに、屍鬼しき吸血鬼ヴァンパイアたちの存在は表示されないところだろうか。

 きっちり歩いている人間の名前は表示されているのだが……使い方が悪いのかな。

 ロレーヌと色々相談したりしながら機能の確認もしているが、すべてが分かったわけではない。

 この騒動が一段落したら、もう少し迷宮を歩いて色々使い方を考えてみるべきかもしれない。


「……む、また、いますね」


 迷宮の角で再度立ち止まり、ニヴがそう言った。

 吸血鬼ヴァンパイアをまた、発見したということだろう。

 ニヴは続ける。


「私がまず突っ込みますので、皆さんはその後に続いてください。今度はしっかりと動いている屍鬼しきもいますので、そちらはレントさんとロレーヌさんにお任せしますよ……」


 角の先を見てみると、そこには先ほどのような広場があり、そこには確かに彼女の言う通り、吸血鬼ヴァンパイアらしい、少年が一人いた。

 屍鬼しきも数体いて、少年との違いはその顔が腐食し、肉が剥がれ、乾燥しているところだろう。

 

「では……行きます!」


 ニヴがそう言って、角から飛び出していくと、


「何者だっ!?」


 という声が聞こえる。

 緊迫感にあふれた叫び声だが、しかし、知性を感じる声だった。

 

吸血鬼ヴァンパイア如きに名乗る名はありません、よっ!」


 ニヴはそう言いながら爪を振るう。


「……冒険者か、なるほど、気づいたわけだな」


 少年はそう言って、ニヴの爪を避け、戦い始めた。


屍鬼しきども! この女を襲え!」


 そんなことも続けていうが、その指揮が達成されることはない。

 ニヴに続いて、俺とロレーヌも広場に飛び込み、屍鬼しきと戦い始めたからだ。

 幸い、それほど数は多くない。

 全部で五体だ。

 下級の吸血鬼ヴァンパイアの一種とは言え、豚鬼オークなどと比べればそれなりの強力な魔物である。

 銅級程度であれば、二人で相手をするのは厳しいところだ。

 けれど、俺は銅級だが、魔物の体と魔力、気、聖気全部持ちというちょっとしたズルがあるし、ロレーヌは紛うことなき銀級冒険者だ。

 ものの数ではないとまでは言わないが、ニヴと吸血鬼ヴァンパイアの戦いに水を差されないように足止めしつつ戦うくらいのことは十分に出来る。

 あくまでも、二人で協力しながら、だけどな。

 俺が一人で色々と人間離れした動きも駆使して聖気も全開で使えば普通に片づけられるだろうが、そこまでやってしまうとニヴとミュリアスに色々見られてしまう。

 二人とも悪人だとは思っていないが、その根本を考えると全てを見せるわけにはいかない。

 俺が魔物だと露見するかもしれない、という以外に、何かのきっかけで敵対するとも限らないしな。

 ヤーランで宗教的な部分ではかなり大らかかつ平和に生きて来られた俺だが、ロレーヌに言わせるとロベリア教はマジヤバいということらしいし、警戒してし過ぎることもないだろう。

 まぁ、それでも結構色々知られてしまっている感じはあるが、まだ普通の冒険者ですと名乗っておかしくない範囲の中にはいるだろう。

 

 ちなみに、どんな風に戦っているかと言えば、主に俺が前衛で、ロレーヌが後衛という分かりやすいやり方だ。

 剣でもって屍鬼しきたちの爪や噛み付きをガードし、隙がある部分に切り付ける、というのを俺が繰り返し、ロレーヌはそんな俺の攻撃の合間を縫って、ニヴのところへと抜けようとする屍鬼しきに魔術を放ち、押し返している。

 もちろん、たった二人しかいないのに複数相手にこんな戦い方をしていると普通ならすぐに綻びが出てしまうものだが、その辺りは俺とロレーヌの十年の付き合いの賜物で、連携はほぼ完ぺきなため問題がない。

 お互いが次にどういう動きに出て、何をしようとしているのか、口にせずとも、また一切合図を出さずとも分かる。

 例えば、俺が屍鬼しきに切りかかったが、あえなく弾かれて少し吹き飛ぶ。

 直後、俺に屍鬼しきが迫ってくるが、背中の方から魔力をふっと感じ、そのまま俺が頭を下げるように上半身をずらすと、今まで俺の頭があった場所を射線に次の瞬間、炎の弾が撃たれ、屍鬼しきの顔面を燃やす。

 そんな具合にだ。

 こんなことを繰り返すうち、屍鬼しきは一体一体減っていき、そして最後の一匹になり、


「……これで終わりだ」


 俺が締めくくりに剣を横に振って首を落とした。

 それから背後を……つまりはニヴと吸血鬼ヴァンパイアの方を見てみると、すでにそちらも戦いが終わりかけていた。

 吸血鬼ヴァンパイアの少年の体は傷のない綺麗なものだったが、息が上がっている。

 おそらく、《分化》を使った再生を繰り返し、スタミナが切れかかっているのだろう。

 それでも、先ほどの少年少女吸血鬼とは異なり、体は砂化していない。

 ニヴは少年吸血鬼に言う。


「貴方はむやみやたらに《分化》されないのですね? 血武器(サン・アルム)もお使いにならないようですし……」


 それに対して、少年吸血鬼は馬鹿にしたように言う。


「ははっ。ジジューとウーゴンと戦ったのかい? あいつらと僕は違うよ。あいつらは最近仲間になったから、まだあんまり力について教えてもらってなかったのさ」


「……ほう? それはひどい話です。使い過ぎれば危険だと教えてやれば、あんなに無残な死に方はしなかったでしょうに」


 ニヴはそう言うが、そうでもないような気がするが……。

 結局ニヴが似たような滅ぼし方をしたんじゃないか?

 まぁ、それは言っても仕方がないか。


「……死んだのか。そっか……まぁ、別にわざと教えなかったわけじゃないんだ。本当なら、こんなところに君たちのようなのが来る前に、決着がついているはずだったからね」


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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