ミュリアスや俺の出番、とは何かといえば、聖気による浄化をしろということだろう。
ニヴも聖気は使えるが、浄化は不得意だ、という話だったからな。
どんな人間にも向き不向きがあるということだろう。
しかし……。
「いいのか? なりかけとは言え、
俺はニヴにそう尋ねる。
ニヴは
そんな俺の質問に対し、ニヴは首を横に振って珍しく曖昧な表情を浮かべながら言う。
「……なりかけですからね。まだ身も心も
意外なほどに物柔らかで慈悲にあふれた意見だった。
もちろん、全くおかしくない。
それどころか、ひどく優しい話だ。
「いや……ニヴがそんなことを言うなんて、ちょっと驚いただけだ。いい考えだと思うよ」
素直にそう言うと、ニヴは誤魔化すように笑って、
「ま、私は極めて慈愛に満ちた超存在ですからね。あまねく人々に優しさを注ぐことなど普通です」
と肩をすくめた。
いつも通りのニヴだが何を言ってんだかという感じである。
ともかく、とりあえず浄化だな。
「レントさん。やり方は大丈夫ですか?」
ミュリアスが近づいてきてそう尋ねてきたので、俺は頷く。
「ああ。普通に聖気で浄化をかければいいんだろ?」
「ええ。ただ、一人ずつ行った方がいいです。まとめてやってしまうと、消費が増えるので。私はこちらの方からやりますので、レントさんはあちらからお願いします」
そう言って、なりかけ
無反応ななりかけ
悲鳴もうめき声も何もない。
ただ、その目は、穏やかな感情を伝えているように思えた。
全員を灰へと変えると、そこに残ったのはなりかけ
そんなものの中から、その場にいる全員……捕まっていた者たちも一緒に、身許を確認できそうな品を全員で回収していると、
「……む、これは……?」
とニヴが俺の浄化した
それから、その中にあったもの……つまりは、なぜか俺が聖気を使うたびに生えてしまう植物を手に取った。
今回は芽ではなく、小さな苗木だ。
と言っても、ものすごく細く、小さいけど。
「これは一体……?」
と、ひどく不思議そうなので、俺は説明する。
「俺に加護を与えたのが植物系の神様だったから、聖気を使うとなんか生えてくるんだよ。特に害はないと思うぞ」
「ほう、植物系の……これはまた、珍しいですね。いただいても?」
「別に構わないけど……ただの木だぞ?」
そう俺が返すと、ニヴは首を横に振って、
「いえいえ、聖気を帯びているじゃないですか。しっかり育てれば、いずれ聖樹になるかもしれません。あれは非常に貴重な素材なので……身近に手に入ればいいなと思っていたのです」
「流石にそうはならないんじゃないかと思うけど……というか、手に入れたことがあるのか」
ハイエルフの治める古貴聖樹国は冒険者であってもそうそうに立ち入れない、鎖国的な国である。
さらにそんな彼らが崇拝し、大切にしている聖樹の一部を手に入れようとしたら、どれだけの労力が必要かわかったものではない。
葉っぱですら俺が持っている聖気の量を越える聖気を含有しているのではないだろうか?
前にクロープから聞いた話からすると、それくらいの品であることは確実だ。
それなのに、ニヴは……。
俺の質問にニヴは答える。
「ええ、まぁ、枝を少しばかり拝借したことが……あの時は流石の私も死を覚悟しましたね。いやはや」
「忍び込んだのか……?」
「他に聖樹の枝なんて手に入れる方法はほとんどないですよ。ハイエルフ共の放つ魔術が私を狙ってバンバン飛んでくるのです。当たったら蒸発してましたね」
そんな話を横で聞きながら、ロレーヌが、
「なんて無謀な……」
と呆れていた。
探究心の塊であるロレーヌでも、流石に古貴聖樹国の最深部、もっとも警戒されているところに侵入するというのは無謀な話だと捉えるようである。
当たり前か。
「ちなみに、何のために聖樹の枝を?」
「知りたいですか? でも、それは内緒です。いつかお見せする機会があればそのときをお楽しみに、というところですね」
そう言われてしまった。
まぁ、手の内を出来る限り明かさないというのは冒険者の基本であるし、それだけ苦労して手に入れたものを使って何をしたのかを教えたくないという気持ちはよくわかる。
だからこれ以上聞かない。
そして、なりかけ
「……おい、こっちで何か大きな力の反応がしたんだが……!」
と言いながら、他の冒険者がやってきた。
俺たちと一緒にマルトを出発した、精鋭パーティのうちの一組である。
そんな彼らにたった今、ここであったことについて説明すると、彼らの中でリーダーと思しき中年男が、
「……そういうことなら、こいつらはさっさと連れて帰った方がいいな。俺たちがそれは受けもとう。あんたたちは、探索を続けてくれ」
そう言った。
「良いのですか? 手柄は私たちが収めることになってしまいますけど?」
このメンバーだとランク的にも経験的にもニヴがリーダーということになるので、彼女が代表してそう尋ねる。
中年男は、
「最初に
そう言った。
ニヴはそれに頷いて、
「ええ、もちろんです。
そう返答したのだった。
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