「……死なない?」
ニヴがそう口にすると、少年吸血鬼は言った。
「そうさ。俺たちは力を授かった。本来なら
「ふむ……なるほど、そう、です、かッ!」
頷きながら、ニヴは足に力を入れ、地面を蹴った。
そのまま少年吸血鬼をバラバラに切り裂いて見せるが、やはり、黒い蝙蝠となって飛び去り、集合してまた元通りになる。
少女吸血鬼の方も同様で、なんど切り裂かれても復活してしまう。
「いくらやっても無駄だ……!」
「はやく諦めなさい!」
少年も少女も、そう言ってニヴを襲い続けるが、けれど不思議なことにニヴの顔には一切、焦りはなかった。
それどころか、口の端に笑みを浮かべて楽しそうですらある。
彼女は言う。
「諦める? 何を馬鹿なことを……私が
狂気か、執念か。
彼女の中の一体何がそこまで
目に宿る光、それが伝えるものは一貫して変わらず、どこまでも
彼女が諦めるときがあるとしたら、本人の言う通り、彼女自身がこの世から消滅するときなのだろう。
そして、ニヴと
「……!?」
「……えっ……!?」
何十回目か分からないが、ニヴに切り裂かれ、復活した直後のことだった。
ニヴはそれを見て、笑う。
「……ふふっ。やはりね」
何が、と思うが、彼女の視線が向かっている方向を見れば、一目瞭然だ。
二人の吸血鬼、その指先を見てみると、さらさらと、砂のようになってきているのが見て取れた。
吸血鬼二人は慌て、叫ぶ。
「なんだこれ……なんなんだよ!」
「どうして……? 治れ、治れッ!」
そんなことを言いながら、《分化》を使い、腕の先だけまた形成しなおす、ということを繰り返すも、指先の砂化は一向に治らない。
ニヴはそんな二人に言う。
「……貴方方は無知に過ぎる。
「な、なにを言って……」
少年吸血鬼が震えるようにニヴを見て、言う。
ニヴは続ける。
「世の中、なんでもそうですが、無限のものなど滅多にありませんよ? 何かしらの制限があって、その中で暮らしている……それはどんな生き物だって同じです。意外な話ですが、魔物と言えど、その限界からは逃げられないのですよ。神がそう定めた……いえ、神ですら、その力には限界がある。ですから、ね。貴方たちのその《分化》にも限度がある。使いすぎると……そのようになってしまうという限度がね。貴方たちのような付け焼刃でない
「そんな……だって、シュミニ様は、そんなこと一言も……」
「それが貴方たちの盟主ですか? ま、そいつは滅ぼしますが……貴方たちにあえて伝えなかったんでしょうね。そんな限界がある、と分かってたら、貴方たちに恐れや躊躇が生まれると思ったのでしょう。貴方たちのような覚悟の足りない者に、曲がりなりにも戦わせるためには特別な方法が必要ですが、それが、その力だった、ということでしょうね……捨て駒にされましたね。酷い話です」
ニヴの無慈悲な事実を突きつける言葉に、二人は、
「そんなわけない……そんな、そんな方じゃ!」
「だって、私たちは、いつか私たちの国を作れるって、そこで幸せに暮らせるって……」
そんなことを言うが、ニヴは、
「……幸せな夢ですね。まるで母親が子供に聞かせるおとぎ話のようです。甘く、優しく、可愛らしく……そして全てが嘘だ。私が、貴方方を無に帰してあげましょう。その方が、心穏やかでいられますよ」
こつり、こつり、と一歩一歩距離を詰めていくニヴ。
二人の吸血鬼は、ニヴに聞かされた話に、そして自分の崩れていく体に、混乱が隠せない。
動くことも出来ず、何か言葉を発することも出来ずに、ただ、ニヴが近づいてくるのを見ていた。
「さぁ、お眠りなさい。暗闇は、暖かくあなたを迎えてくれるでしょう」
ニヴは、目の前までやってきて、未だに動けないでいる少年吸血鬼の首を、その鉤爪で刎ねた。
すぱり、と分かたれた首と体。
しかし、今度ばかりは黒い蝙蝠へと変化することなく、切断された部分からふっと砂に変わっていき、そして完全に消滅してしまった。
さらに、少し離れたところにいる少女吸血鬼の元まで歩く。
少女吸血鬼の方も、やはり、身動きが取れない。
声も出ない。
いや……。
「あ……あっ……私」
振り上げられたニヴの鉤爪を凝視して、何かを言いかけたが、
「貴女は、死にゆく人間の言葉など、まともに聞きもしなかったのでしょうね」
そう言って、その言葉を聞くことなく振り下ろした。
真っ二つに割かれた少女の体はそのまま、砂へと変化して、空気に解けていく。
二人の
「……ミュリアスさん、出番ですよ。こちらへ。レントさんもお手伝い頂けますか?」
そう言った。
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