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第13章 数々の秘密
第314話 数々の秘密と目覚め

「さぁ、行きます、よッ!」


 そう言うと同時に、ニヴは通路の角から広間に向かって飛び出していった。

 俺たちも後に続く。

 ミュリアスは流石に戦闘員という訳ではないので出てこないが、彼女には聖女としての役目がある。

 つまりは、吸血鬼ヴァンパイアそれ自体、それに空間の浄化だ。

 今はまだ出番ではないので待機、ということだ。


「なっ!? 何者だ!」


「誰!?」


 吸血鬼ヴァンパイアと思しき少年と少女が、目を見開いてそう叫ぶも、ニヴはただ鉤爪を振りかぶり、


「さぁ?」


 そう言って振り下ろした。

 一切聞く耳持たないその態度は、人型の魔物に対するそれとして非常に正しい。

 すべてがそうとは言い切れないが、彼らは人語を解するがゆえに人の心を揺さぶることに長けていることが少なくないからだ。

 言い訳や事情を聴くと、同情的になってしまう……そして、油断してしまって結局そのあとばっさり、なんてことは枚挙にいとまがない。

 もちろん、彼らの発言の全てが嘘とか人をだますための擬態、とは限らないのだが、今回の場合、すでに大勢の被害者が確認されているし、目の前に明確にその証拠となる人々と屍鬼しきの蛹のような存在がいる。

 問答無用で倒してしまっても問題はない。

 強いて言うなら、先ほどの二人の会話の内容を詳しく聞きたいところだが……吸血鬼ヴァンパイアを目の前にしたニヴがどれだけそう言ったことを考えているのかは分からないし、俺たちは俺たちのすべきことがある。

 まずは、新人冒険者たちの救出だ。

 数はそれほど多くない。

 ライズとローラ、それに加えて四人の全部で六人である。

 吸血鬼ヴァンパイアの少年と少女は、ニヴが一人で戦っており、顔を見れば「ここは任せてください」と言っている。

 助けはいらないだろう。

 そもそも彼女は金級だ。それも、白金プラチナ級に最も近いと言われるほどの手練れ。

 俺やロレーヌが助勢して、どれだけの助けになるかは疑問だ。

 だったら一人で行かせれば良かった、という気もするが、まぁ、そこは微妙なところだ。

 ニヴは結構色々な情報をくれてるし、冒険者として有能なのだが、どこか秘密主義な部分も感じるからだ。

 俺と最初に会った時からしてそうだからな。

 何も言わず知らない内に余計なことまでやらかしそうな感じが強い。

 そういうことを考えて、ウルフは、じゃあニヴひとりで行け、とは言わなかったのだろう。

 ……色眼鏡で見すぎかもな。

 今のところただひたすらに魔物の処理を一手に引き受けてくれているいい先輩冒険者であるのが客観的な事実だし、お金も一杯くれたし。

 改めて考えるとすごくお世話になっているなぁ……今度好物でも聞いて飯でも奢ろうかな。それくらいはな……とちょっとだけ思わないでもない。

 藪蛇な感じもしないでもないけど。

  

 っと、それよりも……。


「おい、ライズ、ローラ! 生きてるか!」


 目が虚ろで、気を失っているのか朦朧としているのか分からない二人の肩を軽く揺すりつつ、そう尋ねる。

 すると、


「……うぅ……ここは……あんたは……?」


 と返事が返って来た。

 瞳の焦点もあって来たので、俺はとりあえず安心しつつ、言う。


「良かった……気が付いたか。俺はレントだよ。一緒に試験受けた……覚えてるか?」


「レント……レント!? なんで……いや、それより、ローラは……」


 驚きつつもそう尋ねてきたので、


「ここにいるよ。意識を失っているようだが……大丈夫だ。生きてる」


 そう言いながらローラに軽く聖気で治癒をかけると、


「……あ……あれ……。ここ、どこ……?」


 そんなことを言いながら、ローラの目が開いた。 


「ローラ!?」


 横でその声を聞いたライズが、立ち上がろうとするが、


「痛ッ……!」


 そう言って、倒れ込む。

 見れば、足に怪我を負っているようだ。

 襲われたときに怪我させられたのかな?

 その上で、何らかの方法で衰弱させ、意志の力を奪い、身動きもとれないようにしていた、という感じだろうか。

 魔術の構成は俺には見れないが、身体拘束系の魔術がかかっている可能性はあるな。

 かなり周到というか、念入りだ。

 とは言え、足の傷は重傷という訳でもなく、これなら俺の力でどうにかできる。

 まぁ、出来るだけ聖気は節約したいところだが、当然、見捨てるわけにはいかないからな。

 

「……レント。悪い……」


 ライズがそう言ったので、俺は、


「気にするなよ。俺もパーティメンバーなんだろ? 仲間を助けるのは当たり前だ」


 前に銅級試験を受けた後、言ってくれた言葉を思い出しながらそう言うと、ライズとローラが感動したような顔で、


「もちろんだ」


「覚えててくれたんですね……」


 と言って来た。

 そりゃ、当然覚えてるさ。

 ここ十年で、俺のことをパーティーに誘ってくれた奴は皆無とは言わないが、それでもそんなに大勢いるわけじゃないんだ。

 それに、そのほとんどが仲間に、というよりかは俺の器用貧乏なところに目をつけて誘って来た奴ばかりだったからな。

 まともに、真正面から一緒に、なんて感じで言ってくれた奴は、ほとんど初めてに近かった。

 そういう相手は、強いて言うならロレーヌとオーグリーくらいしか思い浮かばないが、二人ともパーティー、というタイプではないからな。

 

「……ま、今はそれよりも、ここを出る支度をしろ。もう立てるか?」


 俺がそう言うと、二人も頭が徐々にはっきりしてきたようで、


「ああ、立てる……というか、さっきまで感じた怠さもないな。これは……?」


 何か酷い怠さを感じていたらしい。

 別に俺は特に聖気で治癒した以外のことはしていないが、やはり何か魔術がかかっていたのかもしれないな。

 恒常的に効く様な麻痺に近い身体拘束系の魔術は、聖気に触れると吹っ飛ぶ。

 怠くなくなった、というのはそのせいだろう。

 となると、他の四人もかな?

 横を見ると、ロレーヌが他の四人を叩き起こしていたが、その際に解呪の魔術をかけているのが見えた。

 やはり、そういうことらしい。

 俺には細かい魔術を見る技能がないから、そこまで分からなかったが……まぁ、結果的に外れたようだし、いいか。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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