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第13章 数々の秘密
第313話 数々の秘密と虜囚

「……おっと、ストップですよ、皆さん」


 最前を進んでいたニヴが迷宮の通路の角で、そう言って俺たちに静止の合図を出しつつ、静かにするようにと口元で人差し指を立てる。

 俺たちの中で一番五月蠅いのはお前じゃ、と突っ込みたくなるも、ここでそれをしてはダメだと自分の衝動を収める。

 ああ突っ込みたい。

 が、そんな場合じゃない。


「……どうかしたのですか?」


 ミュリアスが代表してニヴに尋ねると、ニヴは頷き、静かに角の先を指さした。

 ミュリアスがそっと角から顔を出してその先を覗く。

 すると、


「……これは……なるほど、確かに」


 顔を引っ込めてからそう言い、俺とロレーヌにも覗くようにジェスチャーで示した。

 俺たちは顔を見合わせ、順番に覗く。

 そして、その先に見えた光景は……。


「……行方不明になってた、冒険者たち、か?」


 ロレーヌがそう言った。

 俺はそれに頷きながら答える。


「ああ……そうだな。間違いない。知ってる奴・・・・・がいる」


 俺たちの視線の先に見えるもの、それは、広間のような部屋で、人形のように待機している十人ほどの人間と、端の方で縛られて座り込んでいる、顔色のあまりよくない人々だった。

 さらに、その中には、俺が知っている顔もある。

 それは……。


「ライズ……ローラ。どうして……」


 一緒に銅級昇格試験を受けた二人だった。


 ◇◆◇◆◇


「……以前話していた二人か。しかし、リナとパーティを組んで楽しくやっているという話だったが……?」


「そのはずなんだけどな……リナの姿が見えない。二人だけでいるときに捕まったのかな?」


 細かい事情は分からない。

 が、あの二人は幼馴染で、お互い憎からず思っているようなところが透けて見えたし、リナも気を遣って離れるようなこともあったかもしれない。

 そういうときに捕まった、と考えればリナがいないことはおかしくはないだろう。

 しかし……。


「……屍鬼しきに、されてしまったのか……?」


 今ここで一番心配すべきはそれだった。

 屍鬼しきになれば、治す方法は、ない。

 少なくとも俺は知らない。

 ニヴも知らないだろう。

 知っていれば、公開しているはずだ。

 なにせ、吸血鬼ヴァンパイア撲滅は彼女のスローガンなのだから。

 そのために出来ることがあるのなら、公開を躊躇する理由はニヴにはないはずだ。

 つまり、屍鬼しきになっていたら……たとえ、ライズとローラと言えども、倒さざるを得ないということになってしまう。

 

 しかし、そんな俺の心配を察したのか、ニヴは、


「……ふむ。あちらに集められている方たちに関しては、まだ人間のようです」

 

 そう言って、ライズとローラが座り込んでいる方に視線をやった。

 気のせいか、ニヴのその視線には安心があるような気がした。

 ……そう見えるだけかな?

 こいつにも人間らしい心があるのかも、と思いたい俺の心がそう見せてるだけかもしれないが。

 けれど、それから、


「……反対側で無表情に突っ立っている方々の方は、手遅れのようですけどね。今は体を人のものから屍鬼(しき)のそれへと変化させている段階でしょうが、ああなったらどうしようもありません。引導を渡してあげましょう」


 そう言って向けた視線の方は、どこまでも冷たく、何か狂おしい光に輝いていた。

 ふっと手元を見ると、無意識なのか手がわきわきと動いている。

 その鉤爪を突きたてたくてたまらない、そんな印象を受ける。

 ……やっぱさっきの視線は気のせいだな。

 これでこそニヴだよ。

 そう思った。

 

「……さて、それでは、みなさん。とりあえず、あちらのまだ人間である方については救出しましょう。逆の方にいる屍鬼しきは全部殲滅です。いいですね?」


 ニヴは俺たちの顔を一人ひとり覗き込み、そう言う。

 逆らうことは認めない、そんな圧力の込められた強力な意思の宿った瞳は、すでに一種の脅しだ。

 言っていることは……まともで間違いないのだが、こうして屍鬼しきになる前と、なった後と、明確に分かれているのを実際に目にすると……まだなんとかなるんじゃないか、そんな風に思ってしまうのが人情だ。

 けれど、ニヴにはそう言った線引きに対する葛藤のようなものは一切ないらしい。

 俺たちは仕方なく、頷く。

 実際、言っていることは正しいし、屍鬼しきになったら助けられないことは通説的な考えなのだからそうやって割り切るしかない。

 ニヴが冷酷なのではなく、ただ、冒険者としての覚悟が違うだけ、と考えることも出来る。

 俺たちの意志を確認したニヴは満足したのかふっと微笑み、 


「さぁ、それじゃあ行きます……む? いや、ちょっと待ちましょう」


 腰を浮かしかけたが、そう言っていったん止まった。

 何か問題が?

 気になってニヴの顔を見ると、人差し指で静かに角の先を指した。

 どうしたのかと覗いてみると……。


「……だから、あんまり難しく考えるなって」


 そんな声が聞こえて来た。

 見れば、二人の人物が迷宮の奥の方から、俺たちが覗いている広間の方へと近づいてきていた。

 一人は十七、八と思しき少年、もう一人は、十四、五に見える少女だ。

 

「でも……本当にこんなことをして、いいの? これじゃ、人間たちと何も変わらない……」


「あいつらのせいで、俺たちがどれだけ苦しんでいると思ってる? 数だけは沢山いるんだ。どれだけ減らそうが、別にいいだろうさ……」


「そんなこと……」


「……分かってるさ。でもそうでも思わないとやってられないだろ。それに、シュミニ様はこれが必要なことだって言ってるんだ……理由はまだ、教えてくれないけど、あの人たちのお陰で俺たちの力が目覚めたのは本当の事だろ? だからさ」


 内容のよくわからない会話だが、なんとなく分かる部分もある。

 シュミニ、という人物がいて、それが彼らの上司か何かだということ。

 人を屍鬼しきに変えるという行為に対して、思う所はそれなりにあるらしいということ。

 ただ、その理由については彼らは何も知らされていないということ。

 そして……。


「……奴らは吸血鬼ヴァンパイアですね。私の鼻がビンビン教えてくれています。――とりあえず、殺しましょう」


 ニヴが楽しそうにそう言った。


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