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第13章 数々の秘密
第312話 数々の秘密と迷宮

「……よし、こっちだ!」


 マルト正門に、ウルフの声が響く。

 俺たちを呼ぶ声だ。

 そちらの方を向くと、馬車が結構な勢いでやってきていた。

 《新月の迷宮》に向かう馬車だ。

 どこかから連れてきてくれたらしい。

 今は、マルトから逃げ去る馬車ばかりで、迷宮行きのものは全部止まっていたからな。

 無理して引っ張ってきたのだろう。

 俺たちもそちらに走って向かう。

 

「これは特急便だ。すぐにつくぞ。さぁ、乗れ。俺はマルトで指揮を続ける」


 ウルフがそう言って馬車から飛び降り、そのまま街の中に消えていった。

 俺たちが馬車に飛び乗ると、御者は即座に《馬》に鞭を入れる。

 六つ足の馬……スレイプニルの血が混じっていると言われる、特に足の速い本物の馬だ。

 

 都市マルトから《新月の迷宮》までの距離はそれなりに離れている。

 走って行けないこともないが、馬車の方がずっと早く着く。

 もちろん、これは一般論で、ニヴなんかは自分の足で走った方が早い可能性はないではないが……流石に俺はな。

 少しくらいなら何とかなるかもしれないが、ずっと速度を維持するのは厳しく、それなら馬車に乗った方が良い。

 加えて、ロレーヌやミュリアスは当然、《馬》と同程度の速度で走れるわけがない。

 二人を置いていくというのなら、まぁ、ニヴと二人でダッシュという選択肢もあったかもしれないが……いやいや。

 そんなことしたら色々とバレるから、やっぱりなしだな。

 

 他にも二台ほど馬車が来ていて、それには他の冒険者が飛び乗った。

 ウルフも精鋭を選ぶと言ったが、流石に俺たちだけに探索を任せる、というつもりはなかったようで、俺たちも含めて三パーティーほどが《新月の迷宮》の探索班ということになる。

 まぁ、ロレーヌはともかく、ウルフから見れば、ニヴはちょっとあれだし、ミュリアスはロベリア教の回し者、俺は魔物であるということを考えると……ダメだな、こいつらだけに任せるのはヤバい、となるのは自明である。

 戦闘能力とかだけを見ると、マルトでは結構優秀な方じゃないかと思うが……それ以外の素性の部分で、信頼しきれない部分がありすぎた。

 それでも俺のことは信じてくれていたようだが、他の冒険者も行かせるのは信用していないというわけではなく、冒険者組合長(ギルドマスター)としての義務という責任があるからだ。

 

「……不安なメンバーだな」


 ロレーヌがぽつりと馬車の中でそう言った。

 俺とミュリアスは深く頷いたが、ニヴは一人口笛を吹いていた。

 聞いたことのない旋律である。

 作曲までできるのかな?

 だとすれば、無駄に万能であるニヴであった。


 ◇◆◇◆◇


「さぁ、屍鬼しき狩りの始まりですよ! 皆さん」


 テンション高く《新月の迷宮》の前でそう宣言して、中に突入したニヴである。

 それを追いかけるミュリアス、さらにその後ろに俺たちと続いた。

 

「……ふむ、ミュリアス。貴女は冒険者ではないようだが、それなりの訓練は積んでいるようだな?」


 暗い迷宮の中をひた走りながら、ロレーヌがミュリアスに尋ねる。

 彼女は頷いて、


「ええ、まぁ……聖女としての力が強ければそんなことせずとも構わないのですが、私の出来ることなど微々たるものですから。戦う力をつければ、少しは役に立つのではないかと思って訓練はしています。冒険者の方から比べれば、中途半端な代物ですが」


 そう答えた。

 しかしロレーヌは首を振って、


「いやいや、それほど捨てたものではない。基礎体力もそれなりにあるようだし、曲がりなりにもニヴ殿の速度についていけているわけだからな……とはいえ、やはり彼女は金級、私やレントも銀級程度の力はある。貴女には厳しいものがあるだろう……というわけで、身体強化をかけさせてもらっても?」


 それは気遣いであり、またニヴが暴走したときのストッパーとしてミュリアスに多少期待しているが故の打算でもあった。

 ミュリアスはこの言葉に素直に頷くが、


「ですが、いいのですか? ここから先、屍鬼しき吸血鬼ヴァンパイアがどれだけ出現するか分かりません。魔力は温存された方が……」


「確かにそれもそうなのだが……何、魔力量にはそれなりに余裕がある。それに、前を進むあの人が勝手に露払いも引き受けてくれるだろう。私たちがすべきなのは、とにかくついていくことだ」


 そう言ってロレーヌはニヴを見た。

 さっきから骨人スケルトンやスライムなど、通常の魔物も出現しているが、ニヴがばっさばっさとその自慢の鉤爪で切り倒している。

 ……なんだか、骨人スケルトンの頭蓋骨が吹っ飛んだり砕かれたりするのを見ると、仲間が死んでいくような気分がしてちょっと憂鬱になる。

 もう俺は骨人スケルトンではないのだけど、やっぱり最初に魔物になったときの体だけあって、ちょっと気に入っていたのかもしれない。

 その後に続くのが屍食鬼グールとか屍鬼しきと言った腐ってる系の種族だったから余計にな。

 

「……確かに、そのようですね……」


 ニヴの後姿を見ながら、ミュリアスは呆れた顔でそう言った。

 今、ニヴは骨人スケルトンをさらに一体、ひっかき倒したところだ。

 その顔はいい笑顔である。

 俺が骨人スケルトンだったらとりあえず近づかないな、あんなヤバそうな奴。

 ミュリアスは続けて、


「では、お願いします」


 そう言ったので、ロレーヌが補助魔術としての身体強化をミュリアスにかける。

 自分にかけるときほどの強化率は引き出せないというデメリットはあるが、他人にかけられるという利点はかなり大きい。

 非戦闘員にもそれなりの体力を与えることが出来るからだ。

 まぁ、他人の魔力というのは反発しあう性質があるので構成は意外と複雑らしいが、ロレーヌにとってはそれほどでもないようだ。


「どうだ?」


 ロレーヌがそう尋ねると、ミュリアスは走りながら自分の体を確認して、言った。


「……すごく体が軽くなりました。ありがとうございます」


「良かった。では、改めて気合いを入れて追いかけようか。気のせいでなければニヴ殿の速度がどんどん上がっている気がするからな……」


 それは本当に気のせいではない。

 おそらく、吸血鬼ヴァンパイアの匂いを感じているのではないだろうか?

 俺には流石に匂いは分からないが、それでも同族だからか、なんとなく気配が強くなってきているのは分かる。

 吸血鬼ヴァンパイアは、近い。


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