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第13章 数々の秘密
第305話 数々の秘密と男

「……うぎゃぁぁぁぁぁ!!」


 三匹目の屍鬼(しき)の首を切り落とし、聖気で浄化しているとそんな悲鳴が上がる。

 実際には魔物を倒す冒険者なのだが、客観的に見るとただの快楽殺人鬼に見える行動である。

 周囲にいる街の人も若干引き気味だが、流石にニヴのときとは違ってしっかり屍鬼(しき)であることを明らかにしてからやってるので捕まったりするいわれは全くない。

 

 それにしても……。

 たくさんいるかも、とウルフが言っていたが本当に結構な数の屍鬼(しき)がいるので驚く。

 そのどれもがかなりしっかりと喋っていることも。

 俺が屍鬼(しき)だったときとはえらい違いだ。

 俺との違いは何なんだろうな……慣れとか?

 加えて俺の場合は声帯あたりが腐っていたのかもしれない。

 屍鬼(しき)の体はどの部分が崩れていたり腐っていたりするのかかなり個体差があるからな……。

 俺は運が悪かったのだろう。

 まぁ、普通の人間として暮らしていただろうに、屍鬼(しき)になってしまった時点で運が悪いのは同じだろうが。

 今回、屍鬼(しき)達は結構良くしゃべるが、生前の自我を保っている、とかそういうことはないと言われている。

 そのように振る舞っていても、それは相対する人間をだますための擬態に過ぎないのだと。

 実際は……どうなんだろうな。

 問答を重ねていくと色々と矛盾が出てくるため、正しいんだろうが、それでも人のように振る舞うために倒すのに後味はよくない。

 それでも倒さなければならないのは放置しておくと人を襲い、その血肉を食べ、いずれは吸血鬼(ヴァンパイア)となって、人の脅威となるからだ。

 

 ……そろそろいいかな。

 焼き魚の火加減を見るような感覚で浄化している屍鬼(しき)を見ると、その大半が灰に変わっていた。

 これでもう再生は不可能だろう。

 ちなみに、他の冒険者たちは聖水をぶっかけることによって対応しているはずだ。

 本来まぁまぁ値の張るアイテムであるが、今回は冒険者組合(ギルド)が支給してくれている。

 まぁ、そんなことせずとも、屍鬼(しき)を前にして、「吸血鬼(ヴァンパイア)だよ、ニヴちゃん!」と呼べば「はーい」とか言いながらやってきそうな冒険者もいるが、流石に体は一つしかないから……ないよな? 一人で街の各地で呼ばれても対応しきれないだろう。

 他にも街に滞在していたらしい聖者・聖女の姿を少し見かける。

 彼らは聖術使いであるから、屍鬼(しき)に対する攻撃力が絶大なのだ。

 とは言え、戦闘技能まで有している者は稀なので、とどめを刺す係として働いているようだが。

 浄化専門の聖者なら街一つ覆えるくらいの浄化を使えるらしいため、今ここにいればとても活躍してもらえるだろうが、そういう奴は滅多にいないからな。

 国一つに一人いるかどうか。

 しかも雇うには莫大なお布施が必要だったりする。

 こういうときくらい負けてくれても……と思わないでもないが、こういうとき負けたら使いどころもないしな。

 あまりにも強力すぎる力は使いどころが難しいのだ。

 

 それにしても、今回の吸血鬼(ヴァンパイア)の目的は一体何なのだろう。

 街に火をつけて、混乱させて、何をどうしたいというのか……。

 目的が見えないな。

 これだけ大きな群れをつくったのなら、それを基礎に少しずつマルトを浸食していく方がいいような気がするが。

 ……それはそれで大変かな?

 屍鬼(しき)はそれほど血は必要ないが、下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)にもなれば血は大量に必要になる。

 それくらいの吸血鬼(ヴァンパイア)が増えている痕跡が見つかれば、間違いなく吸血鬼狩り(ヴァンパイア・ハンター)たちが大挙して押し寄せてくる。

 そうなる前にことを起こしたかった?

 うーん、納得できるような出来ないような……。

 考えても分からんな。

 とりあえず、屍鬼(しき)狩りを再開しよう。

 全部狩りだしてしまえば、本体というか、親玉も出て来ざるを得なくなるだろう。

 そうならずとも、マルトから去るのならそれでもいいし。

 あとどれくらいいるのかは分からないが、エーデルのお陰で次の獲物の居場所も分かっている。


「さぁ、次だ」


 俺は肩に乗るエーデルにそう言って、再度走り出した。

 

 ◇◆◇◆◇


「……これだけやってもまだ、奴は出てこないのですか」


 《新月の迷宮》、そのどこかで、そんな声が響く。

 低く、憎しみに染まったようなその声は、その場にいる数人の者たちに向けられていた。

 年端もいかぬ少年少女たちが、脂汗を流しながら瞑想している。

 息も激しく、尋常ではない疲労が見られた。

 しかし、そんな彼らに囲まれるように中心に立って、少年たちを見つめるその男の瞳に同情の色はない。

 そこにあるのは少しのいらだちと、道具が壊れないかという酷く無機質な心配の気持ちだけだ。

 そんな中、


「……うぐっ!」

  

 少年たちの一人が血を吐いて体勢を崩す。

 男はそれは見て、またか、と頭を押さえる。


「……今度はどこです?」


 男の質問に、少年は答える。


「第二商業区画の屍鬼しきがやられました」


「ふむ……別にやられるのは構わないのですが、見つけるのが少し早すぎますね。この調子ですと奴が出てくる前にすべて消耗してしまいそうです」

 

 男の独り言染みた声に、少年が尋ねる。


「……本当にこの街にいるのですか?」


 その言葉に、男は頷き、


「ええ、必ず。突き止めるのにかなり手間がかかりましたが……この街に確実にいます。が、どこにいるのやら分からない。表舞台に出る気がないのでしょうね。しかしそれでは困るのですよ」


「その方の力が借りられれば……」


「そうです。目的に大きく近づく……。そのための我々の活動です。皆さんには負担をかけてしまっていますが、それもこれもすべては我々の未来のため。分かっていただけますね?」


 そう言って男が見回すと、少年少女たちは集中しながらも、深く頷いた。

 男は、彼らにとって間違いなく希望だった。

 これまで生きてきてずっと、見られなかった光を見せてくれたからだ。

 だから……。

 少年少女たちは屍鬼しきを操る。

 この力も、男によって与えられたもので……。

 

 男はそんな少年たちを見ながら、ふっと微笑んだ。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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