報酬としては確かに悪くはないだろう。
なにせ、
その事情は、
それに加え、今の状況においては、
つまり、この魔石は今、ちょっとした宝石のような価値があるのだった。
「いいのですか?」
俺がニヴにそう尋ねると、彼女は言う。
「ええ。私は別にお金が欲しくて吸血鬼狩りをしているわけではないですからね。倒せればそれでいいのです」
……それはそれで嫌すぎないか?
金が目的だと言われた方がなんとなくだがほっとできる。
人間的な感覚が見えてさ。
こう言われてしまうと……
……それで間違ってないのか。
「おっと、何か失礼なことを考えていますね?」
「いえ、別に……」
答えた俺を、疑わしそうな目で見るニヴであった。
その表情は、顔だけ見れば見とれるような美人なのだが、目の輝きがな。
直視したくない何かなのだ。
それこそ飢えた魔物の血走った眼に雰囲気が似ている。
見たら死ぬ感じ。ああ嫌だ。
しかし、ふっとニヴはその目から力を抜くと、
「……まぁ、いいでしょう。それより、レントさん。こんなときなのです。ちょうど偶然出会ったことですし、私と行動を共に……」
と言いかけた。
しかし、その瞬間、
「……ニヴさん!」
とニヴの後方から声がかかる。
そちらを見てみると、走ってきているのは神官衣に身を包んだ、銀色の髪と紫水晶の瞳を持った女性だった。
つまりは、ロベリア教の聖女、ミュリアス・ライザだ。
ニヴはその声に眉を顰めるも、すぐに微笑みを作って振り返る。
……なんか嫌なところ見たな。仲悪いのか?
と俺は思うが、ニヴはその心の内が全く読めない。
特に意味のない表情なのかもしれないし、もしかしたら俺に何かを誤認させたがために作った表情なのかもしれない。
あまり考えるのも危険だった。
「おやおや、ミュリアス様。そんなに走っては聖女らしさが半減しますよ。貴女はただでさえ聖女っぽくない……」
口に出した一言目が軽い罵倒だった。
ロベリア教は大陸でも群を抜いて巨大な宗教団体なのに、本当に度胸がある奴だな、と俺は思う。
ミュリアスは、ニヴの言葉にイラッとした表情を一瞬のぞかせるも、すぐに引っ込めて、
「もとはと言えば、貴女が突然走り出すからではないですか。一体……」
そこまで言ったところで、地面に積み上がった灰を見つけて、
「……これは?」
と尋ねて来た。
まぁ、尋ねてきている時点で、すでにそれが何なのかは想像がついているようである。
街の状況もロベリア教の聖女ならある程度掴んでいるだろうしな。
ニヴが答える。
「もちろん、低級な吸血虫の成れの果てですよ。私とレントさんでやっつけました」
虫扱いは酷いが、昔からある
ニヴの言葉にミュリアスは頷き、
「なるほど……ですから急に」
と納得したらしい。
ニヴは続ける。
「こいつは人に擬態していましてね。見た目上は酷く判別しにくかったのですが、レントさんが問答で少しずつ化けの皮をはいでいったのです。そして、人に襲い掛かろうとしたので、私が聖術による浄化を試みました。結果、やはり
……俺が会話をしていたところを結構聞いていたようだ。
一体いつから……。
それがあったから、ニヴは
まぁ、人に襲い掛かろうとしている奴だから、急に聖術をかけても許されはするよな……。
そうは思ったものの、一応尋ねておく。
「ニヴさんは、あの男が
「確信したのは……やはり、人に襲い掛かろうとしたときですね。ただ、この広場から
それが比喩的な意味なのか、物理的な意味なのかはよく分からないが……そのどっちだとしてもニヴらしいと言えばらしい。
勘で見つけ出しそうなところもあるし、俺が人血ソムリエなのと同様に
そんな風にドン引きしているのは俺だけではなく、ミュリアスも同様のようで、
「……左様でしたか」
と呆れたような顔で言っている。
ともかく、ニヴとミュリアスは今でも一緒に行動しているようだ。
俺と会った時はともかく、今はもう、ニヴの方はあんまり乗り気ではなさそうだが、その辺りは俺には関係ない話だな。
というか、もうここにいた
そう決めた俺は、言う。
「さて、俺は他に
ロベリア教の祝詞を適当に唱えて、そそくさと広場を出るべく走り出す。
そんな俺の背中に、
「あっ、レントさん! レントさーん!」
と、ニヴの叫び声が聞こえてくるが、無視だ。
幸い、今回はただ逃げたというわけではなく、俺、仕事ですから、という言い訳ががっつりあるのだ。
ニヴとロベリア教との関係が一体どういうものなのか、未だに見当もつかないが、それほど何度も聖女であるミュリアスを振り切ってどこか行く、というのは流石にニヴでもしないんじゃないかという期待もあった。
実際、しばらく走って後ろを振り返っても、ニヴの姿はなく、追いかけてくる様子はない。
……助かったかな。
そう思いつつ、俺は次の
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